16 師弟の日常⑤
「先に練習を再開しますね。次はどんな練習が良いでしょうか?」
オフェリアがぼうっと空を見ていたら、ユーグが先に昼食を食べ終えていた。彼の黄金色の瞳はやる気に満ちていて、どこか少し焦っているようにも見える。
「もっと休んでも良いのに」
「お師匠様の話を聞いたら、ウォーレス師匠様のように早くなりたくなってしまって」
「あら、目の前の師匠より憧れるなんて妬いちゃうわね。寂しいわ」
拗ねた表情を浮かべてからかってみると、ユーグは顔を赤くして「あ、いや、一番はお師匠様です!」と慌てて釈明する。
純粋な弟子が本当に可愛い。
けれどやりすぎて嫌われたら困る。
「冗談よ。焦らなくても、ユーグは立派な魔術師になれる素質は十分にあるわ。私が保証する」
「でも、もっと……もっと魔法が使えるようになりたいんです。早く、お師匠様の呪いを解きたい。僕の手で、解きたいんです」
ユーグは体の横で拳を作り、決意したように言葉尻を強めた。
ウォーレス師匠が亡くなってから、オフェリアの呪いを解こうと、こんなにも熱意を露わにしてくれた人はいただろうか。
解呪の難しさから、少なくとも「自分が解く」とまで宣言してくれた魔術師はいなかった。
なんて師匠想いの弟子なのだろうかと、鼻の奥がツンとしてしまう。
けれどその感情は表に出さないよう平静を装い、微笑みを浮かべた。
「ありがとう。じゃあ、空になったコップに一滴ずつ水を落としていって。これくらいの大きさの雫を、一秒に一滴のリズムでね」
指先から三滴、オフェリアは自分のコップに水の雫を落としてみせた。
大量の水を生み出すより繊細な魔力コントロールが求められる難易度の高い魔法。
果物を落とした風の魔法をマスターしてから教えようと思っていたが、弟子の熱意に触発され、思わず難しい魔法を教えたくなってしまった。
「分かりました。やってみます」
ユーグは一度上げた腰を大地に下ろし、コップに人差し指を出した。指先から雫が落ちるが、オフェリアの見本より少し大きい。
「指先の魔力を急に絞るんではなくて、肩から指先にかけてゆっくり魔力の流れを細くしていきなさい。バランスよく、均等に」
「は……はいっ」
やはりまだ難しいらしい。ユーグは指先を小さく震わせながら大小の雫をコップに溜めていく。もちろん、リズムはバラバラだ。
だがユーグの表情は溌溂としていて、新しい魔法を覚えられることを喜んでいる。
頑張りすぎる傾向があるユーグのことはときどき心配になるが、どれだけ力が伸びていくか楽しみなのも事実。
最初はウォーレス師匠の教えに従って弟子に接していたが、今は純粋に自発的にユーグに尽くしたいと思っている。自分の手で弟子の才能を開花させてあげたい、と願うように。
(ウォーレス師匠もこんな気持ちだったのかしら? 弟子を育てるって、楽しいのね)
さっきはウォーレス師匠のことを思い出すと切なかった気持ちも、今は温かい。迷惑をかけたことで、オフェリアを弟子にしたことをどこか悔いていたら……なんて、一瞬でも師匠を疑ったことが恥ずかしい。
弟子のことなら、師匠は自然と尽くしたくなるのだと、オフェリアは身をもって学んだ。





