森歩き
さて、今日はネネカさんが『ノクトの森』に入って採集をする日だ。
なので森の入口あたりで待ち合わせていたんだけども──
「──昨日ぶりね、月の触手!」
やはりというかなんというか、プロミナさんもついてきていた。
……まあそうなるだろうなとは思ってたよ。彼女が『ナーナ』に現れてから数日、飽きもせず毎日「昨日ぶりね!」って私に絡んでくるからね。月の触手と呼ぶ声も硬さがなくなってきている。具体的には『』が取れてる感じ。
ぇあー、まあとにかく今夜は、そんな猪突猛進お姉さんも連れ立っての森歩きとなります。
「その、ごめんね触手さん……」
ネネカさんもなんとも微妙な表情。
まあ、言って止まるような人じゃないってのはもう分かってるし。ネネカさんは悪くない。これでも森焼きとか嫌がらせとかはしてこない辺り、本人の中でラインはちゃんとあるっぽいし。
一応、私も私でプロミナさんのSNSアカウントとかも覗いてみたりはしたんだけど。なんか、意外と大人しいというか、淡々と『太陽教団』の活動を呟いてるだけだった。
そっちで「どうも触手です」って接触するのも一瞬考えたけど、まあやめた。たしかにそうすれば密にコミュニケーションを取れるだろうけど、それはなんというか、『月の触手』としてのゲーム体験を著しく損なう気がしたから。彼女とはべつにそうまでするほどの間柄じゃない、と思う。
「──あ、この花あんたの店で見かけたやつね」
「ええ。お買い上げありがとうございます」
考えごとをする私を挟んで、左右を歩くプロミナさんとネネカさん。
一応ここ数日で、普通に会話ができるくらいの仲にはなっている。
そうそうプロミナさん、『ナーナ』にお金落としまくっているのだ。
商人さんが来たとき用の空き家を、お金払って泊まってる……というていでスポーン地点の一つとして設定してる(私はできなかったのに)し、この前も「ひゃほぉぉぉいっ町固有アイテムぅ〜ッ!」とか叫びながらいろんなお店回ってるのも見かけたし。『結わえ草』でもいろいろ買ってくれている。
それもあって今では、町のみんなの態度もある程度軟化している。
「……ふふ。触手さんのおかげで、良いお客さんになってくれたね」
ええまあ、はい。出会って二日目に再戦して私が勝ったっていうのが、みんなが納得した一番の理由みたいだけど。町を歩けば生暖かい目で見られているお姉さん、それがプロミナさん。
「ぐっ、こっ、このあいだは夜だから負けたのよッ! 昼、昼戦いましょう!」
当然、本人だけは勝敗に納得してないわけですけども。
ともすれば負け惜しみっぽくも聞こえるセリフだけど……正直、私もそれはあると思ってる。
まだ満月には遠いとはいえ、月のある夜はやはり私に有利だろう。対してプロミナさんは太陽を模した魔術の使い手、言われずとも、昼間のほうが出力が高まるのは想像に難くない。
ま、返事はバツのポーズなんですけどね〜。
「なんっでよおぉぉぉぉぉおおッ……!」
だって私のほうには戦う理由ないし。
たしかに対人戦は楽しかったけれども、わざわざ時間作って昼にログインしてまでやるかというと……
っていうか視覚的にはこう、夜のほうが炎が映えてイケてると思うんですけどね私はね。
「うぅぅぅぅう…………そ、そうだっお金? お金あげるからっ? ね? やろうよぉ〜あたしともう一回やってよぉ〜……」
なんともいかがわしい、もとい……ぇあー、哀れっぽいことを言いながら懇願してくるプロミナさん。強気なくせによわよわというか、そんなところが絶妙にこちらの毒気を抜いてくる。この人、たぶんあんまりちゃんとはしてないんだけど、なんだかんだ周りが見捨てられないタイプのお姉さんなのかもしれない。
……ほかのリスナーさんたちにボコられてるときのイカちゃんにちょっと似てるな……最初のころのあの子も、とりあえず貢ごうとしてきてたし……
「……触手さん? なにか考えごと?」
……と、いけないいけない。
いつもプレイ中はなるべくイデアに集中するようにしてるんだけど……最近、超久しぶりにご新規さんが来たり、チャンネルを伸ばすにはどうすべきかをリスナーさんたちと考えたりしてるもんで、思考がそっちに引っ張られてしまった。
午前は仕事、午後は明 ノソラとして配信、夜はネネカさんのところでバイト。それが私の今の日常。
甘愛からは「昔の人が如く一日中働いてるわねぇ〜♡」ってからかわれた。実際、曾おじいちゃんくらいの世代は朝から晩まで働いてやっと生活できたみたいな話だし、趣味の時間とかどうやって捻出してたんだろうか。
朝勤・昼勤・夕勤・夜勤、どれか一つやってれば余裕持って生きていける現代って、もしかしたらかなり恵まれてるのかもしれない。
「──バウッ」
「うぉっ」
うぉっ。
指摘されてもなお考えごとが止められないうちに、気付けば例の泉よりも奥のエリアまで来ていたらしい。ハイイロオオカミの群れが四頭、私たちの前に姿を現した。ヘラジカ戦で一緒に戦ってくれた若い世代のあの子たちだ。
「オオカミぃ? そういえばPVで見かけたような気もするけど……」
この辺りは普通であれば町の人もあまり立ち入らないけど、『森の主』である私と一緒なら大丈夫……とはいえ町の外の人を連れてきてしまったからか、みんな少し警戒している様子。プロミナさんを軽く威嚇している。どうどう。
「……襲ってこない限りは、こっちからはなにもしないわよ」
こういうところ冷静なプロミナさんに感謝しつつ、私は群れのボス、アルファちゃんのそばに寄って撫で回す。ごめんよぉ〜知らない人連れてきちゃってぇ〜だいじょぶだいじょぶこの人一回私が倒してるからねぇ〜。
「くきゅぅん……」
やっぱりわんころみたいな声をあげながら、アルファちゃんは一応納得してくれた様子。とはいえやっぱり外様は外様ということなのか、いつでも私を守れるような配置で四頭がついてくる。
「『森の主』ってのは、こういうことなのねぇ……」
自分へと睨みをきかせるオオカミたちを、プロミナさんはむしろ感心したように眺めていた。
彼女の察した通り、このハイイロオオカミたちはどうも『ノクトの森』を、そして『森の主』を守るという役割を帯びているらしい。
だから『汚濁』に侵蝕された先代たちも、その役目を歪められヘラジカの繭を守らされていた……のかもしれない。なんて、もうこの森からは完全に消え失せた『汚濁』のことなんて、考えてもしょうがないけど。
「ふふ、そうなんです。触手さんはとってもすごいんですよ」
「……町にも彫像立ってたしね……やっぱりカルトなんじゃ……」
……ちょっと、そういうこというのやめてねプロミナさん。否定しづらいから。
──まあそうやって、そこからしばらくは三人と四頭? 二人と四頭と一触手? で『ノクトの森』を散策した。
ネネカさんと二人きりの森デートとはいかなかったのは残念だけど……大人しくしてくれてる限りは、プロミナさんのこともそこまで疎ましく思ってるわけじゃない。我ながら不思議なことに。
来週はもしかしたら月・金の二回更新になるかもしれません。すみません……




