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月の触手は健全に遊びたい 〜魂の姿がアバターに表れるVRゲーム──え、私の魂って触手の化け物なの?〜  作者: にゃー
第二章 灯る信仰

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あたしの太陽


 推しのおはようショート配信のリマインドで起きて。

 それを見ながらラジオ体操して。

 午前中はだいたいゲームして。

 午後はその推しの配信リアタイして。

 夜もまあ、だいたいゲームして。

 翌日の推しの朝配信を見逃さないくらいの時間に寝る。


 それがあたし、加賀利(かがり) 杏奈(あんな)二十四歳の毎日だ。

 仕事? 両親から譲り受けた不動産収入で生きてるけど。なにか?


 べつにそれでも良いんじゃないって、彼女は肯定してくれた。

 持って生まれた恵まれた環境に引け目を感じる必要なんてない、働きたくなければ逃げて楽できるだけ楽しちゃえばいいじゃん、少なくともブラック企業で心をすり潰されるよりは万倍マシ、全部彼女がくれた言葉。

 

 本人は、酔って始めた初配信の勢いでの言葉だって、あとから謝ってさえ来たけども。

 その言葉たちのおかげであたしは、良い家に生まれたアホなボンボンっていう自分を、そのまま肯定できるようになった。

 だから彼女はあたしの推しで、あたしの太陽で、あたしの神様。


 今日も彼女の声で一日が始まって。午前中はイデアで、擬似天使として『太陽教団』の勢力拡大に勤しんで。

 そして昼下がりの今、彼女の──(あけ) ノソラちゃんの配信が始まる。



「──ぇあー……うん、オッケーかな? はい、はいどうもどうも、今日も今日とて明 ノソラですよー、はい、はーいどうもどうもー」


 

 リラックスした声音とともに、あたしの家のリビングにノソラちゃんが現れた。

 

 彼女はVR空間にリスナーを呼び込むのではなくARでリスナーの日常に入り込んでくる手法、いわゆるレトロスタイルのバーチャル配信者だ。

 二十歳前後ほどの顔つきをした美人さん。淡いプラチナのボブカットに、ジト目なのにどこか快活さを感じさせる金色の眼差し。まさしく自宅に顕現する太陽。今日も推しのおかげで太陽系が回っている。


〈もう昼定期〉

〈明けの空とはいったい〉


 非実体な彼女の回りをリスナーのコメントがふよふよと漂う。正直、数はそう多くない。

 

「しょうがないじゃん私朝勤なんだから。朝配信来ない人には分かんないかもしれませんけれども〜?」


〈朝はギリギリまで寝る派なので〉

〈おじさんになるとね……出勤前にコンテンツを摂取する気力とかなくなるんだよ……〉


 素直じゃないリスナーたちとのちょっとしたプロレスは、いつもの流れだ。そこにあたしが切り込んでいくのもまた、同じく。


〈ノソラちゃんは朝でも昼でもあたしの太陽だよ〉


「あ、イカちゃんっ! 朝も今も、いつも来てくれてありがとうねぇ……」


 ぬ゜っ。

 いつもの流れなのにいつまでたってもトキメキが止まらない。


〈おはイカロス〉

〈毎度毎度アピールを欠かさない健気な無敵イカロスであった……〉


 あたしことリスナーネーム無敵イカロスは、ノソラちゃんのチャンネル登録者第一号だ。ノソラちゃんもあたしを特別に扱ってくれている。いや勘違いとかじゃなくて。ほんとに。


 ともかくそんなノソラちゃんが、あたしの家の中を軽やかに歩き回っている。これだからあたしは、AR配信が好きなのだ。

 彼女の体のまわりをふわふわと追従するコメントたち。ふと、その中に一つ、いつもは見かけない文面が混じっていることに気付いた。

 


〈──初見っす、はじめまして〉



「うおぉっ見てみんな久しぶりの初見さんだよっ! いらっしゃいませぇ〜ようこそようこそっ」


〈す、すげぇ……マジで久しぶりに見た……〉

〈初見リスナー……実在していたのか〉


 本当にいつぶりかの初見コメントに、ノソラちゃんもリスナーたちも沸き立つ。露骨にそわそわしだしたノソラちゃんがかわいい。天使か。いや神様だったわ。

 

〈──概要欄にゲーム実況って書いてましたけど、イデアとかはやらない感じっすか? あれ今めっちゃ流行ってますけど〉


「うぐっ」

 

 ……何気なく聞いたのだろう初見リスナーのコメントに、ノソラちゃんが微妙な表情を浮かべた。あぁ、折角のそわそわノソラちゃんが…… 


「ぇあー、そのー…………一応、裏でちょいちょい遊んだりはしてるんですけどもね? なんといいますかそのぉー……アバターがね? ちょっとね? 明 ノソラのイメージとは違うかなぁって……」


〈でたいつもの言い訳〉

〈頑なにイデア実況したがらんよな〉

〈やったら少しくらいは初見の流入もあるだろうに〉

〈相当変なアバターなんやろなぁ……〉

〈くっそ闇属性っぽい見た目だったら笑う〉


「いやぁー……あは、あはははは……」


 ほかのリスナーどもの言う通り、おそらくノソラちゃんのアバターは少し変わっているんだろう。それを公開したくないのだろう、と。そこまではあたしも他の連中と同意見。


 でもあたしには、あたしにだけは分かる。

 ノソラちゃん、本当は「ちょいちょい」どころじゃないくらいにハマっているはずだ。イデアの話題になったときの微妙な声音と表情、仕草、指先の動き一つ一つから、あたしにはそれが読み取れる。


 本当なら、もっと大手を振って遊びたいんじゃないか。だけどもアバターを見られるのが嫌でそれができないんじゃないか。


 実際、触手の化け物の姿が公表されたとき、プレイヤーたちは皆一様に怖がっていたわけで。それを見てしまえばなおのこと、変わり種のアバターを人目に晒したくないという気持ちも強まってしまうというもの。


〈言うても触手の化け物とかよりはマシでしょw〉


「ヴッ……ぬっ、ぅ、ぇあー、やぁー……そう、かも、ねぇ?」


 ちょうど今あたしも思い浮かべていた単語を誰かがコメントし、ノソラちゃんの顔はますます引きつる。あたしも同じくムッとなってしまう。

 

 あたしのイデアでの当初の目標は、プレイヤーPV第一弾に選出されて、あたしと『太陽教団』の名を轟かせることだった。

 それからあっちの世界で“無敵イカロス”の名も公開。ノソラちゃんを探し出し、教団の力で庇護する。いや、『太陽教団』が崇める真の太陽神として君臨してもらう。たとえ他大陸にいようとも、PVプレイヤーにまでなればあたしの名は轟くはずだから。

 

 ……という計画が大いに狂うことになってしまった理由が、あの触手アバターのプレイヤーの存在。今イデアプレイヤーの間では、とくに東の大陸ではあいつの話題で持ちきりだ。あたしがそうなるはずだったのに。

 

 だからやつを倒す。

 月より太陽のほうが格上なのだと知らしめ、四大陸全てに『太陽教団』の名を轟かせ、ノソラちゃんに怖がらなくていいんだよと伝えてみせる。

 いわば天岩戸作戦だ。踊りに代わって月の触手を贄とし、ノソラちゃんという太陽を表舞台に呼び寄せる、的な。ノソラちゃんには、のびのびとゲームを楽しんでほしいから。


 ……昨日は、ようやく接触できたと思ったら五分で逃げられてしまったけれども。

 ま、まあその……労働から逃げた身としては、リアル労働者諸姉諸兄の邪魔はできないといいますか。ノソラちゃんと同じ朝勤らしいし。 

 

〈ノソラ前にカタツムリになる謎ゲーやってたしワンチャンカタツムリ娘とかになってる可能性ない?〉

〈あったなぁ〉

〈何故か触角からビームが出たやつな〉


「いや謎ゲーって……スネイルシミュレーターは普通に神ゲーなんですけど? なんならやるか今から?」


〈やらんでいい〉

〈貴重なご新規さんが逃げてまう〉


 ……と、いけないいけない。今は触手の化け物のことなんて忘れて、ノソラちゃんの配信に集中せねば。腰に手を当て唇を尖らせ、マイナー過ぎる奇ゲーを全力擁護するノソラちゃんがかわいすぎる。毎秒思ってるけどもうこれ同棲では?

 

〈カタツムリなノソラちゃんもかわいかったよ〉

〈はい全肯定〉

〈全肯定イカロス〉


「……あ、そうだ。最初の内で説明しておきますと、この無敵イカロスってリスナーさんは私の最初のチャンネル登録者様でして。申し訳ないけど私はイカちゃんのことめっっっっっちゃ贔屓してるのでそこは勘弁して欲しいです。でもほかのみんなも好きだぞ♡」


〈ほ か の〉

〈お前の勝ちだ、無敵イカロス〉

〈こいついっつも勝ってんな〉


 ──ぎ、ぎんもちい゙ぃぃ……ッ♡

 初見リスナーなんていう、大事に囲い込まなきゃいけないような相手に対してさえ、あたしが特別だって臆面もなく言ってのけるノソラちゃん。愛と絆を感じる。何者にも阻めない運命の赤い糸を。


〈じゃあイカロスと“親友ちゃん”だったらどっち贔屓する?〉


「ごめん、それは親友ちゃん」


 ぎぃいいいいいいいいいっっっっ!!!!!

 アホ常連がぁあああっ余計なこと聞きやがって!!!!!


〈い つ も の〉

〈お前の負けだ、無敵イカロス〉

〈こいついっつも負けてんな〉


 ……あたしへの贔屓を公言するのと同じくらい、ノソラちゃんは“親友ちゃん”とやらを特別扱いしてる。

 リアルでの、小さいころからの幼馴染 兼 親友だとか唯一の友達だとか……なにかにつけて話題にあがる気に食わない輩。話を聞いてる限りだと独占欲の強そうなヤバ女でしかなくて、いつかこの親友とやらからノソラちゃんを解放してあげるのもあたしの目標の一つだ。


〈……なんか内輪ネタ多いっすね。だからあんま伸びてないんすか?〉


「ぎぃいいいいいいいいっっっっ!!!」


〈痛いところ突かれたァ!!〉

〈まいった、ぐうの音も出ん〉

〈躊躇なくそれを指摘するとは……やはり天才か〉

〈おい! こいつ結構な逸材だぞ!〉

〈囲め囲め! 逃がすな!〉

〈イカロスの野郎が無限に甘やかしやがるからな……〉

〈厳しい新規でバランスを取らなくっちゃあなァ!〉

〈え、なんすかこわ。なんで歓迎されてるの……〉


 直球すぎる初見リスナーと常連どもとのやり取りを、あたしとノソラちゃんは発狂しながら眺めるしかない。ノソラちゃんそっちのけで仲良くなりやがって……! 

 くそっ、っていうか推しを無限に甘やかしてなにが悪い。あたしはノソラちゃん全肯定派最右翼。だってノソラちゃんはあたしの太陽、あたしの神様。太陽の否定とはすなわち現実の否定だろうが。お前らは天動説で生きてんのかァ?


「……え、ぇあー……そのぉー、こんなんだから伸び悩んでるって頭では分かってるんですけどぉー……でもぉー……」


〈その“ぇあー”って口癖ダサかわいいっすね〉


「そりゃどうもありがとうよっ!!」


〈ノソラちゃんはいつでもかわいいよ〉


「うぅ〜イカちゃぁ〜んっ。この配信で私に優しいのはイカちゃんだけだよぉ……」


 ね゜っ。


〈いちゃつくな〉

〈特定リスナーといちゃつくのは良くないぞ〉

〈いやいちゃつくのはべつにいいんじゃないっすかね〉

〈初見さん!?〉

〈こいつカプ厨かよォ!?〉

〈甘やかすな甘やかすな〉


 ……あたしだけ。ふ、ふふ、あたしだけ。

 やっぱりあたしの太陽。あたしの神様。

 

 待っててノソラちゃん、あっちの世界でも、絶対出会ってみせるからね。


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― 新着の感想 ―
生活サイクル見てどんな仕事してんのかと思ったら不労所得とは!裏山! 触手の中身と似たような名前だけど、まだ関連付けはできんなぁ。触手の中身がこれだとしても、Vで収入得るには登録者数が…つまりまだノソ…
もう会ってるんだよね怖くない? >微妙な声音と表情、仕草、指先の動き一つ一つから、あたしにはそれが読み取れる。 触手アバターにはそれが無いんだよぁ……
プロミ…イカちゃんとノソラ 意外な接点? ネネカの洗脳を疑うのは 自身の経験によるものか もしプロミナが東ナンバーワンになっていたら 公開捜査されてたのかねヤバいわwww 正体ばれアウトの怪盗のように…
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