プロミナ 2
いざ勝負──ということで私たちは、町を出て草原を訪れた。
ヘラジカと戦ったのと同じエリア。あの時の『汚濁』の影響で一部、草花が枯れてしまったところもあるけれど……『汚濁』自体はもういなくなってるから、また少しずつ若い芽が育ってきている。
そんなある意味思い出深い場所で、プロミナさんと少し離れて向かい合う。
「──え、あ、そっちから申請来た……けど……」
制限時間五分、体力1残しで終了、ドーム状戦闘エリア、戦闘後地形・プレイヤー・その他全復元──あたりの設定を盛り込んで、こっちから決闘申請を投げた。
プレイヤー相手だろうが変わらず言語コミュニケーションは取れないけど、ゲーム内通貨と同じく、さすがにこういうシステム面でのやり取りは問題ない。
「……五分かぁ……」
あちらさんは露骨に物足りなそうな、でも押しかけたのは自分のほうだから強く言うわけにも……みたいな微妙な表情をしておりますけれども。ええはい、そっち都合の決闘ですからね、こっちの条件も飲んでいただきますよ、と。
再三だけど明日普通に仕事だし。あとそろそろ、私が寝る時間を把握してる甘愛からおやすみメッセが来るころだろうし。返信しないと心配させちゃうからね。
「……触手さん、がんばってね」
当然のようについてきたネネカさんが、斜め後ろから声をかけてくれた。振り返って触手をふりふり。まかり間違っても彼女を巻き込まないように戦闘エリアを制限したのだ。
「はい、オッケー……っと」
プロミナさんが申請を承諾したことで透明なドームのようなものが形成され、その外からネネカさんが見守っていてくれる。
ネネカさんの手前、カッコいいところを見せたい! という気持ちは当然あるけれども、さてしかし初の対人戦。しかも相手はこっちの情報を持ってる可能性大だけど、こっちは向こうのことをあまりよく知らない。たしか、ぇあー……『陽焔魔術』だったか。
まぁなるようになれと、なんだかんだ初対人戦自体は楽しみな部分もありまして。
頭の中で響くカウントと目の前のプレイヤーに、意識を集中。
3、2、1──0でスタートっ!!
「──『陽焔反応──」
戦闘開始と同時の詠唱が、プロミナさんの頭上に燃え盛る炎の光輪を生み出す。技名に自分の名前、甘愛とは別タイプの厨二病か……!
「──点火加速』!」
とか考える間もなく、派手な爆発と爆音。
足裏から爆炎を噴き出し、プロミナさんはこちらへ一直線に突っ込んできた。なんて情熱的なお姉さん。高速で迫る彼女を、私は渦巻く触手柔術の構えで迎え撃つ。
「『陽焔反応──陽光焔刃』!」
接触の直前、追加で発動した魔術が彼女の右手に焔の刃を生成する。柄も刀身も全てが炎で構成された、輪郭さえも絶えず形を変える剣状の炎熱そのもの。めちゃくちゃ燃え盛ってますけど、これほんとに薄明光線なんですかね……
……いや、ネーミングはともかく。見るからに攻撃力が高そうなのは間違いない──ので、触れずに投げ飛ばすっ!
「ぅ、くっ……!!」
触手の円運動でいなし、斜め後ろへとベクトルを変える。自分自身の加速度によって、プロミナさんは派手に宙を舞った。さすがにうまく着地はされたけれども、少なくともファーストコンタクトは私が一本取ったと見ていいはず。
「……もうちょい派手に焼き切るつもりだったんだけど、ねぇ」
──と、思ったんだけど。
なんとびっくり、触手を一本切り落とされていた。
たかが一本されど一本。触手柔術にカウンターを合わせられたのは初めてだ。やっぱりPVとかで研究されてるってことなのか。
幸い、炎が燃え移るなんてことにはならなかった……けど、なんかあれだな、欠損の再生が遅いな……と思って目を向けてみれば、切られた断面が見事に焼け焦げていた。
「『月の触手』も、炎に切られるのは初めてかしらっ?」
そして飛んでくるドヤ顔。右手の刃も得意げに燃え盛っている。
……今宵はほっそい二日月、しかも雲りで隠れがち。再生が遅いのは、月明かりの心もとなさと切断面の焼け付き両方によってだろう。
ダメージ自体は少ない、でも満月時のようなリジェネもないわけだし、欠損は手数の減少に直結するし、なるべく攻撃を受けないように立ち回りたいところだ、けどっ、もぉっ!
「さあほらっ、どんどんいくわよッ!!」
めっちゃ切りかかってくるこの人っ。さっきと同じく爆炎で距離詰めて、ガンガン剣振ってくる! 私と同じ、高機動の近距離主体型……っ! いったん回避、回避に徹するっ!
「どうやらステはっ、PVとそう変わってないみたいねッ!!」
痛いところ突かれたァ!
比喩ではなく本当に熱の灯った瞳は煌々と輝いていて、挑発的な物言いから、そこに宿る魔術が私のステータスを暴いたのだと理解できた。まあこっちも『暴く月導』でステ覗き見してるからお互い様ではあるけども。
[『太陽教団』 擬似天使 プロミナ]
身体素養:107
技量素養:94
魔術素養:141
『陽焔魔術』
太陽の力を模した魔術群
見えてる限りだとこんな感じ。
看破された通り、ヘラジカ戦以降ほとんどモンスターと戦っていない私のステは、あれからさほど変動していない。プロミナさんは、そんな私と同格くらいのステータス水準……なのだろうか。
身体素養はほぼ同等、技量はこっちに分があるけれど、向こうさんの魔術素養がそれらより明らかに高い。んでこっちの『月光』はいまだに実数値不明。
『陽焔魔術』の詳細が見えないのは向こうがなにかしらプロテクトしてるのか、『暴く月導』の出力が足りてないのか。いやそこはいま気にしてもしょうがっ、ないっ!
「──ッ! 『月光波』ってやつね……! あたしの焔刃が切られたのは初めてよッ!!」
言葉のわりにまったく臆する素振りがない。なんなら嬉しそうですらある。っていうか切ったそばからすぐに剣の形を取り戻している。炎だからなぁ、そりゃそうなるよなぁ。そしてやっぱり天使の梯子ではないよなぁ……
「夜のぶんそっちが有利かしら! それとも月が隠れてるからそうでもなかったり!?」
凄絶な笑みを浮かべながら、プロミナさんは炎の刃を何度も振るってくる。嫌味っぽいセリフ……のはずなんだけど、さっきから声音や表情はただただ楽しそうなだけだ。
……この人もしかして、挑発とかじゃなくてほんとにただ思ったことがダダ漏れになっちゃってるだけだったりする……?




