第十四話 直接対決
第十四話 直接対決
そして時は流れ夏休み前日の1学期終業式の日、私は件のアイリス嬢に呼び出しを喰らう。場所はお決まりの体育館裏だ。
「ちょっと、セア・シーラム子爵令嬢。
この異常な状態は全部あなたのせいね。
私がいなかった三ヶ月の間によくも私の物語をぶち壊してくれたわね。
たかが聖女のタマゴの当て馬キャラのあなたは、おとなしく断罪されていればいいのよ」
と、訳の分からないことをのたまう。
私が聖女のタマゴという職業を持っていたのは遙か昔のことだ。今では聖女系の職業以外にも破壊の魔女とかドラゴンイーターとかいろいろな職業を各種取りそろえている。
私がポカンとしているとアイリス嬢は突然短剣を抜いて襲いかかってきた。
「あんたが全部悪いのよ。
この毒の短剣で死にさらせ!」
淑女にあるまじき絶叫をあげて斬りかかってくるが体術・格闘術ともに限界突破している私に通用するはずがない。
特に何も考えていなかった体が勝手に反応し、アイリス嬢の腕をかわしながら力の方向を変え、気がつけば彼女の腹に深々と短剣が刺さっていた。
「そんな、私は主人公のはずなのに……
死にたくない……」
アイリス嬢は真っ青になりながらブツブツ呟く。
自業自得とはいえ、さすがにこの状況で見殺しにするには哀れすぎる。
万一、私が疑われて殺人犯にされるのももっと嫌だ。
私は倒れるアイリス嬢に近づくとすぐに対処を始める。
「動かないで!
何とか治療してみるわ」
まずは解毒の魔法を前世ぶりに最強出力で発動する。
「眩い銀色の光……これは……」
アイリス嬢は紫がかってきていた顔色が少し回復し、自分を包む魔法の光に呆然とする。
次いで、ナイフを引き抜きながら癒やしの魔法を発動する。
今度は黄金色の光りに包まれ、アイリス嬢の腹部には傷跡一つ無く元通りとなった。
「今度は金色の光……
あなた、既に聖女の力に覚醒していたのね!
さては、あなたも転生者ね」
ぎくりとした。私が転生したことがバレている。
「あの、よろしければ私が聖女の力を使えることはご内密に……」
「なんでよ。あなた、その力さえあればどの攻略対象でもよりどりみどりじゃない!」
叫ぶアイリス嬢に私はどうせバレたのだからと、前世の記憶を洗いざらいぶちまけた。
「そ、そんな……
聖女になってハッピーエンドだと思っていたのに、この世界の聖女はそんなに過酷なの……」
私の前世体験を聞いたアイリス嬢は顔面蒼白となりしばし呆然としたのち、がばりと私にしがみついてきた。
「セアお姉様。私も聖女の力があるんです。お姉様に比べればまだまだ弱い力ですけど、この力がバレたら私が監禁エンドコースになることは間違いないわ。
なんとかお姉様のお力で私をお救いください。
乙女ゲームの展開はあきらめて、前世知識でお姉様のお役に立てるように頑張りますのでどうかお願いします」
どうやらアイリス嬢も前世の知識を持っているようだ。こうして私はアイリス嬢と和解し、友好関係を結んだ。
アイリス嬢はこの世界とは別の世界で生きた前世の記憶持ちだった。
彼女の知識は特に料理の世界や住環境の世界にとって革新的であり、私たちは共同名義の新規商会を在学中に立ち上げ、卒業までに一財産稼ぐことに成功した。
卒業後は女社長と副社長として更にもうける予定だ。
今は自由に商売でき、国中に喜ばれる商品を販売できることにとても満足している。
目下の私たちの悩みはないと言いたいところだが、結婚相手だけにはご縁がない。
下位貴族である私たちだが、資産は国内最大の公爵家をも超えると言われるくらい稼いでしまった。
二人とも恋愛結婚希望なのに、政略結婚のお話が絶え間なく二人の両親の元に舞い込んでいる。
どいつもこいつも家柄だけの貧乏貴族のように見えるので、なかなか話が進まない。
それでも言い寄る相手には私たちの決め台詞が炸裂する。
「私はお姉様より弱い殿方の元に嫁ぐつもりはありません」とアイリス嬢。
「私は私を超える魔法を使える人としか結婚しません。少なくともドラゴンの尻尾をちぎれるくらいの実力は無いとね……」と私。
私たちの春は遠いようだ。
(完)
後日譚
セア「ちょっと、アイリスさん。あなたいつの間にお兄様と婚約したんですの。
自分だけ幸せを見つけるなんてずるいですわ」
アイリス「まあ、いいじゃないですか。これでセアお姉様と本当の姉妹になれます!」
セア「いや、お兄様と結婚したらあなたがお姉様になるんですけど……」
アイリス「お姉様はお姉様なんですぅ♡」
セア「まさか、私と姉妹になるためだけにお兄様と……」
アイリス「あら嫌ですわ。テオ様のことはちゃんとお慕いしておりますことよ(セアお姉様のそっくりさんとしてですけど)」
セア「何か、聞こえてはいけない心の声が聞こえたような……」
アイリス「気のせいですわ。オーホホホホッ」
テオ「本編で名前も出てこない俺って何なの……」
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