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第十一話 細かいことは気にしない……。いやダメでしょ。

第十一話 細かいことは気にしない……。いやダメでしょ。


 授業の内容は元聖女の私にとって難しいものではない。

 歴史の授業は前世の私が死んでから今世の私が物心つくまでの30年分が問題となるが、古代史から順に学んでいくため現代史は卒業直前に少し触れるだけのようで、そのとき気をつければいいだろう。


 入学後に最も神経を使ったのは実技系授業での手加減であることは想像に難くないだろう。

 なんといっても人類の限界を軽く突破している各種魔法や体術・格闘術のレベルをどうごまかすかが問題だ。

 表示だけなら無駄に上達した隠蔽系の魔法で表記を改ざんしているが、実力が下がっているわけではないので何度かやらかしている。


 体術の授業ではうっかりそれなりの身のこなしを披露してしまったために、クラスで一番強いと目されていた騎士団長のご子息ギース・マグレンに目をつけられ、組み手をさせられた。

 何とか穏便に負けようと頑張ったのだが、学園生徒としては破格の強さを持つギース君の回し蹴りをひらりと躱しながら放った掌底突きが見事にカウンターでギース君の脇腹に決まり、無意識に練っていた内気功の威力でギース君は吐血しながら吹っ飛んでしまった。

 間違いなく心肺停止コースだ。


 焦った私は自重を忘れ、吹っ飛ぶギース君に走って追いつくと、私としては優しく抱き留め、聖魔法でダメージを回復した。ギース君は一命を取り留めた。

 このときほど前世の聖女としての技能に感謝したことはない。聖女でよかったと初めて思えた瞬間かも知れない。聖魔法を使ったのは一瞬だったので他の人にはバレていないと信じたい。


 ギース君は私と目が合うと、回復してあげたにもかかわらずぐらりと傾き、意識を手放した。仕方なく私は優しくギース君を武道場の床に横たえてあげた。


 私としては全力で優しく対応したつもりだったが、これを見ていたクラスメイトや担当の先生の目には違った方向で映ったようだ。


 クラスメイト曰く。

「セア嬢はギース・マグレンを掌底で吹き飛ばし、回り込んで鯖折りで仕留めた」

「誰が上位者か思い知らせるため敢えて圧倒的な力を見せつけた」

「トドメに射殺さんばかりの殺気を視線に込めて、一睨ひとにらみで意識を刈り取った」などなど……


 最初の掌底で吹き飛ばしてしまったところ以外は全て事実無根である。


 しかし、この噂を後押しするかのように、当の被害者であるギース君が私を見るとおびえた様子を見せ、手合わせ以前の自信に満ちた立ち居姿はなりを潜め、いつもどこかビクビクしているようになってしまった。


 学園に復帰したアイリス嬢が「なんで二番押しのギース様まであんなにビクビクしているのよ。もはや別人よ」と呟いていたが、聞こえないふりをした。







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