第8話:「酒といえば次は…煙の僧侶あらわる」
*この作品には…過度な飲酒描写と喫煙描写が含まれていますので、
苦手な方は ブラウザバックして下さい(震え声)作品中の行為や行動について
よい子の成年は絶対真似しないでください(注意喚起感)
なお、お酒とたばこは20歳になってから…容量・用法を守って
正しく摂取してください(未成年への注意喚起感)
老婆の地図を頼りに火の山を越えたその先、三人が辿り着いたのは谷間にある小さな村だった。
道の脇には草花が揺れ、小さな井戸がカラカラと音を立てている。
灼熱地獄を抜けてきた一行には、まるで楽園のような涼しさだった。
「ふぃ〜……やっと着いたか……」
ロイドは汗を拭いながら、腰をバキバキ鳴らす。中年特有の渋みと疲労感を漂わせている。
今の彼は、旅人用のゆるめの上着にズボンという、実にまともな服装だった。
ミニスカート、ピンク網タイツ、ラインストーンハイヒール、リボンの舞う背中――すべて脱ぎ捨ててきた(物理的に)男の姿である。
だがその気配は、消えてはいなかった。
「シャッチョサン、服が普通でも……“気配”が変態道のままアル」
「やめろ、俺を“道”にのせるな。そういう道じゃねぇ」
「でもすれ違った村人がさっき三人連続で避けたアル。変態って認識されてるアルよ」
「やめて……俺、もう静かに老後迎えたいのに……」
そのとき、隣で静かに歩いていたコトが、ふと足を止めた。
「ロイド殿……拙者、一つ……申し上げたいことがあるでござる」
「ん?」
コトは深々と頭を下げた。真面目な声だった。
「先程の戦闘後……拙者、泥酔し、ロイド殿の背に乗って寝てしまい……その……不本意ながら身体が密着してしまい……その……胸とか、当たっていたような気が、いたす……」
「やめてぇぇぇぇええええええええ!!思い出させないでええええ!!!」
ロイドが頭を抱えて転がり出す。
「拙者、武士としても、女としても、あまりに無作法。心からお詫び申し上げる……!」
「ちょっと待って!?その“女として”ってやつ、余計にこっちのダメージ増すんだけど!?俺、村で通報されるやつじゃん!!」
「……ロイド殿がいなければ、拙者、今頃ワームの腹の中……命の恩人に……なんと失礼な……」
「やめてほんとに!真面目に謝られるほど、俺の社会的評価が削られるからやめてぇぇ!」
リー・アルが手を叩いて笑いながら空中を浮遊する。
「シャッチョサン、もう村じゃ“変態と酔侍と妖精”って呼ばれてるアル!組体三銃士アル!」
「だからそのユニット名やめろ!!誰がセンターだよ!!」
素材取引所では、フレイムワームの鱗を見た店主が目を丸くして叫んだ。
「おお!こりゃ高く買えるぞ!鍋敷きにしたい!」
「やめて!?爆発するからそれ!!」
結果、手に入ったのは銀貨と金貨が詰まったずっしり重い袋。
「うおお……!これで老後も安泰……!」
「シャッチョサン、それ死亡フラグの言い方アルよ?」
「黙れ妖精!せめて静かな余生くらい見させてくれ!」
そのまま、三人は村の酒屋へ。
扉を開けた瞬間、ロイドの顔が引きつった。
「……なんだこれは……」
棚に並ぶ酒瓶――
値札には、普段の倍の金額が書かれていた。
「……値段、上がってる……?二倍……だと……?」
店主が申し訳なさそうに肩をすくめる。
「物流が止まっててなぁ……モンスターが街道を塞いじまって……酒が入ってこねぇんだよ」
ロイドはその場に崩れ落ちた。
「ううっ……この世界、変態に厳しすぎない……?」
「シャッチョサン、それはたぶん関係ないアル」
「つらい……俺たちには、酒が必要なんだぞ……!」
彼はゆっくりと立ち上がり、金貨の袋を握りしめながら呟いた。
「どんなに高くても……どれだけ財布が悲鳴を上げても……酒は、俺たちの必須アイテムなんだ……」
「かっこいいアル……!」
「響いたでござる……!」
「財布には響きたくなかった!!」
一方、冷蔵棚の前では、コトが震える手でどぶろくを棚に戻していた。
「これは……武士に対する試練……!拙者、ここで断酒を決意……!」
「えっ!?ほんとに!?」
「三十分……いや十五分……いや、十……うん、五分で限界でござる」
「早すぎィィ!!ほんとに断酒する気あんのかよ!?」
村の牧師ルーファス
酒屋のなかで買いこんだ酒瓶っを手に中年の疲れた背中と酔侍が転がっていた。
それぞれが己の流儀でだらけきった午後の一幕である。
「ふはぁ……この一杯のために生きてる気がする……」
ロイドはぐいっとビールジョッキを傾けた。酒代は二倍になっていたが、それでも背に腹は変えられない。
「シャッチョサン、それ“変態道”の心得アルよ。酒とスカートと名声は、切らしたら即死亡アル」
宙をふわふわと飛ぶリー・アルが、ごきげんに踊りながらそう言った。
「それを道にすな!そんなジャンルの冒険者いたら出禁だよ出禁!!」
その横で、コトが静かにどぶろくをちびちびと飲んでいた。
完全に断酒はあきらめたらしく、「五分断酒戦法」から「ゆっくり飲む我慢戦法」へ切り替えていた。
「おいら……この一滴で生きてる気がする……」
「そろそろ戦闘中の語録になってきてるぞお前……」
「お客様困ります!店の中でそんな状態で寝転がっていては!迷惑です!」
酒屋の亭主がだらけきった2人の姿に対して営業妨害だ言わんばかりの口調で言った。
「あと少し…五分…いや、十分このままでいさせて…」
ロイドは酒の余韻に浸りながら答える
そんなまったりタイムに、酒屋の扉が勢いよく開いた。
「た、助けてください!」
飛び込んできたのは――白衣に身を包んだ、やけに整った顔の男。
首からは十字のペンダント。手には革の聖典。
村の牧師――ルーファスであった。
「お、おいおい牧師さん、こっちはくつろぎ中だぞ?言っとくが俺たち中年だぞ?今ちょうどいいトロみのダルさなんだぞ?」
「申し訳ありません!ですが村が……村が襲われてるんです!」
「……また?」
「またアル……」
ルーファスは息を切らしながら叫んだ。
「村の家々が、正体不明の“影のようなモンスター”に襲われています!武器も魔法も通じず、村人たちは逃げ回るばかりで……!」
ロイドはジョッキを置いて立ち上がった。
「……よし、行くか。中年でもやるときはやるのが変態道だ」
「シャッチョサン、カッコイイアルよその言葉!!勇者っぽいアル!」
「まぁ…勇者?なんだがなぁ」
「今こそ酔いが力に変わる時……おいらの千鳥足、解放される……!」
「お前は今まだただの酔っぱらいだぞ!!もうちょい覚醒してからにしろ!!」
ルーファスが道を先導し、三人は急ぎ足で村の中心へ向かった。
到着してみると――
確かに、村の家々は黒い影に囲まれていた。ぼんやりとした輪郭、赤く光る眼。人々は叫びながら逃げ惑っている。
「……厄介なことになったな……」
ロイドが眉をひそめて呟く。
「シャッチョサン、こういう時こそ名声を稼ぐチャンスアル!」
「お前、そればっかりだな!!」
ルーファスが広場を指差しながら言った。
「あのモンスター、普通の武器が通じないんです!どうか、どうか皆を助けてください!」
その時だった。
村の外れ、森の端――
一本の細い煙が、まっすぐ空へと立ち上っていた。
ロイドが目を凝らす。
「……煙? なんだ、火事か……?」
だがそこにいたのは、火ではなかった。
村の外れ、森の端から、ひと筋の紫煙が静かに立ち上っていた。
ロイドたちがその方向に目を向けると、煙の中心――
ゆらめく空気の中に、一人の女が立っていた。
彼女は清楚な修道女の装いをまとっていた。
肩まで伸びた銀髪が、風にそよぎ、額には薄い白のカチューシャ。長い袖の法衣は身体に程よく沿い、動くたびに布のシルエットが形を変える。
そして――何よりも目を引くのは、その圧倒的なバストだった。
修道服のフロント部分が、まるで意地でも主張を隠しきれず、もはや布が善戦している状態。
タイトでもないのに、はちきれんばかりの膨らみによって自然と谷間の存在が意識される、ある意味、奇跡のバランスであった。
くわえタバコの角度も絶妙だ。
長く細い紙巻きタバコを、唇の端に軽く咥え、炎を灯すことなく余裕たっぷりに紫煙だけを吐いている。
その姿は――どこか神聖、だが同時に破戒的。
しかも、めちゃくちゃキマっている。
彼女は煙をゆっくりと吐き出しながら、村の騒ぎをじっと見つめていた。
「……あれ、修道女……?吸ってるのタバコだよな……?」
「うん……パイプじゃなくて、紙巻き……」
リー・アルが目をきらきらと輝かせる。
「カッコいいアル……!!ワタシも吸いたい!」
「お前は肺ないだろ!浮いてるんだから!!」
コトがぽつりと呟いた。
「……あの立ち姿……ただ者ではないでござるな……」
「いや違うだろ!?ただの愛煙家だよな!?」
紫煙を背にした彼女が、くわえたままのタバコをわずかに持ち上げ、ロイドたちをじっと見つめた。
その目には、村を襲う影への怒りとも冷静ともつかぬ、妙な迫力があった。
「……来たわね、遅かったじゃない……」
彼女はそう呟くと、足元の十字杖を手に取った。
修道女――一見して清楚、だが中身は絶対まともじゃないオーラを漂わせながら、静かに村の中心へと歩き出す。
ロイドは言った。
「……この物語ヤバいやつしかいねぇのか……?」
影のモンスターが、村の広場を囲むようにじわじわと迫っていた。
村人たちは物陰に身を隠し、恐怖に震えている。
どぶろく片手に立ち尽くすコトは、ゆらりと酔った足取りで前に出た。
「……おいらの酔いと剣に斬れぬものなどないってのに……。やってやるぜ、千鳥足殺法・二ノ脚《酔燕の舞》!」
ふらつきながらも鋭く放たれる剣閃。
だが、モンスターの身体は霧のように裂けるだけで、まるで手応えがない。
「……ちっ……効いてねぇ……!」
「そりゃそうだ、コト!あいつら、ただの影じゃねぇ……!」
ロイドが叫ぶが、影たちは逆に反撃の構えをとり、今にも襲いかかろうとしていた。
その瞬間だった。
「……少々、お待ちを」
静かに割って入る女の声。
風とともに、タバコの紫煙が流れ込んでくる。
あの修道女だった。
修道女――銀髪をなびかせ、胸元の主張が凄まじい法衣の女が、タバコをフィルター寸前まで吸い切りながら
そして――
思いっきり、煙を吐き出す。
その吐息には祈りがあり、煙には呪いのような魔力が宿っていた。
「――《煙魔法・マルボロ・レクイエム》。」
タバコ銘柄の名を冠したその呪文と共に、吐き出された紫煙が渦を巻き、影のモンスターたちへ突き進んでいく。
煙は生き物のように影の群れを絡めとり、まとわりつき――
一体、また一体と霧散させていった。
「……すげぇ……」
「シャッチョサン、今の……煙のくせに火力あるアル!」
「火力っていうか煙力だな……!」
修道女は灰となったタバコをゆっくりと指から離し、地面に落とした。
そして、銀のケースから新しい一本を取り出しながら、静かに言った。
「タバコは、信仰そのものです。一本一本に込めた信念が、祈りとなるのですわ」
「いや、タバコってそこまでスピリチュアルだったっけ!?」
コトがどぶろくを抱えたまま感心したように頷いた。
「……おいらも、酒の一滴一滴に魂込めてるぜ……共感できる……!」
「ダメな意味で波長が合ってるーッ!」
ロイドが額を押さえて苦笑していると、修道女はこちらに向き直った。
「――わたくし、名乗っていませんでしたわね。
旅の修道女にして、ニコチン教の巡礼者。名を――リリィと申します」
「ついに来た!名前判明シーン!」
リー・アルが拍手しながらくるくる回る。
「この村には……数日前、宿を貸していただいた老夫婦が住んでおりました。
おばあさまが“タバコの匂いが落ち着く”と微笑んでくださって……」
彼女はタバコを口から外し、すぅ、と深く一礼した。
その動作とともに、豊かな胸元がゆっくりと揺れる。まさに、信仰の重みそのものだった。
「……わたくしの煙が、少しでも村の助けとなりたいので…ともに戦わせていただきますか?」
ロイドが目を細めて言った。
「……こちらとしても非常に助かる。正直、あんたの”煙”がなきゃもうダメかもしれん」
「光栄にございます。タバコが尽きるまでは、必ずお力となりますわ」
そして――
リリィはスッと別のたばこに火をつけ一吸いでを吸い切り、 次の瞬間、盛大に煙を吐き出した。
「――《煙魔法・メビウスの輪》。
願わくば、この煙が、罪もなき者の盾となりますように――」
紫煙が竜のようにうねりながら影のモンスターたちを包み込む。
触れた瞬間、影の一体がひび割れ、苦鳴を上げながら霧散した。
「おいおい……マジで一撃かよ……!」
「シャッチョサン、信仰ってスゴイアル……!煙のくせに浄化力ハンパないアル!」
リリィは灰となったタバコを投げ捨て、新しい一本を丁寧に取り出した。
「今度は“ケント・セイントスマイト”……やや爽やか系、範囲広めですわね」
「呪文に向いてる銘柄とかわかんねぇぇぇ!!」
彼女はロイドたちを見やり、ゆっくりと微笑む。
「共に、この村をお守りいたしましょう。わたくしたちは、祈りの煙でつながっているのですから」
ロイドは口元をゆるめ、そして頷いた。
「よし、あんたがそこまで言うなら……俺もやる。中年でも、変態でも、やれることはあるさ!」
コトが瓶を掲げて叫んだ。
「おいらも一滴で戦える……けど残り三滴だぁ!!」
「マジで補給してくれええええ!!」
リリィの煙魔法により、影のモンスターたちは次々と浄化されていった。
「――《煙魔法・ケント・セイントスマイト》。」
煙の祈りが風をまとい、敵を包み込む。
そこにコトが飛び込む――
「千鳥足殺法・三ノ脚《流酔の閃》ぇぇぇっ!」
リリィの煙によって弱体化した影は、酔剣の奇跡的な刃に斬り伏せられ、ばたりと音もなく崩れていった。
「いいぞ、コト!バフと酒がかみ合ってる!」
「煙も酒も――神の恵みだぜぇえ!」
リリィも柔らかく笑みを浮かべながら、タバコをくわえた。
「ええ。とてもいい連携でしたわ」
だが、そのとき――
地面から立ち上る黒い霧。
影たちの残骸が一つに集まり、広場の中央に巨大な塊となって姿を現す。
「な、なんだ……!」
「これは……“ダークエレメント”ですわ」
漆黒の気配を放つ、霊体の親玉。
影の中心、闇の源。
空気が重くなる。村全体を包むような圧力が迫ってくる。
リリィが素早く《ラッキーストライク・ディスペル》を発動し、煙でバリアを削る。
コトがその隙を突いて、斬り込む――!
「千鳥足殺法・四ノ脚《黒酔の刃》ッ!」
だが、斬撃は浅く、ダークエレメントの核には届かない。
「ぬぅっ……!これは……一筋縄ではいかねぇやつだぁ……!」
「煙の量も足りませんわ……この規模、あと三本……いえ、四本分は……!」
ロイドは、ぽつりと呟いた。
「……しゃあねぇ。そろそろ“あれ”の出番か」
懐から取り出したのは琥珀色の瓶――“バーボン”。
「やっぱ、たばこにはバーボンだろ。香りのキツさで脳が目覚める」
ラベルを乱暴に引きちぎると、ラッパ飲み。
ぐいっ、ぐいっ、ぐいっ――
豪快に喉を鳴らし、飲み干した直後、空へ向かって叫ぶ。
「――アル・チュープリズム・パワァァァァァァ・メイクアーーーップ!!」
変身の光がロイドを包み謎の音楽と効果音と共に”いつもの衣装”にチェンジした
スカートはミニ丈に、網タイツはピンク色、足元はラインストーンでギラギラのハイヒール。
背中にはリボン、肩にはなぜかフリル。
戦場に降り立ったその姿に、全員が凍りついた。
「……」
コトが震える声でぽつりとつぶやく。
「……完全に……変態だぁ……」
リリィも、スッと目を細めながら言った。
「……これは、ええ……間違いございませんわね……変態ですわ」
ロイドがキラキラとポーズを決めながら言った。
「お前ら、面と向かって言うなよ!? 心折れるだろ!?」
「いや、むしろ、胸張って受け入れてるように見えるでござる……」
「正直、ちょっと尊敬してしまいそうな勢いですわ……変態として」
「だから、変態としての評価いらねぇぇぇ!!」
だが、ロイドはすぐに顔を引き締める。
ミニスカートをバッとまくるように手を突っ込んで――
「今日の武器は……これか!」
取り出したのは、巨大なジッポライター型のハンマー。
「《バーボン・ブレイズクラッシャー》……煙と酒の香り、フルコンボでぶちかますぜ!」
跳躍し、空中でターン。
ミニスカートがひらりと翻る中、ハンマーを振り下ろす。
「喰らえええぇぇぇッ!!」
ダークエレメントの核心に、灼熱の一撃が突き刺さった。
霧が弾ける。
影が裂け、広場の闇が晴れていく。
ドォン、と低い余韻を残して、親玉は砕け散った。
ロイドは地面に着地すると、ハンマーをスカートの中へ戻し、深くため息を吐いた。
「ふう……やっぱ、たばこと酒と変態は……世界を救うな?… いや、違う!やっぱり…いろいろおかしい…こんなの俺の思い描いた奴じゃない」
「本当に……おかしいのですけれど……なぜか納得させられてしまうのが悔しいですわ……」
コトが瓶を見ながらぽつり。
「おいらも変態になれば……もっと強くなれるのか……?」
「やめとけ!!本当の意味でこの物語が崩壊する!!」
ダークエレメントを倒した直後、村の広場には微かに残るバーボンの香りと、ほんのり甘いタバコの煙が漂っていた。
ロイドはミニスカートの裾を軽く直し、ピンクの網タイツの膝に手を当てて一言。
「ふう……変態道、また一歩極めちまったな……」
「シャッチョサン、変態通り越して“伝説”の域に来てるアル……」
村の子ども「おじちゃんすごーい!パンツ見えそうだったー!」
「言い方をやめろォォ!!正直すぎる目線が一番刺さるんだよ!!」
そこへ、一人の男が歩み寄ってきた。
白衣の長身、整えられた髭、胸に十字を抱えた穏やかな眼差しの――村の牧師、ルーファスである。
「皆さま……このたびは村をお救いいただき、心より感謝申し上げます。
特に……その、ロイド様……」
「“その”って何だ、“その”って!?」
「変わったご衣装ではございますが、まごうことなき勇者。見事なお働きでした」
「ちゃんと褒められたのになんかダメージが残る!」
深々と頭を下げるその姿は、まさに聖職者の鑑。
「我らの信仰では、奇跡の行いを“恩寵”と呼びます。
今ここに、あなた方の勇姿を、“変態的恩寵”として記録に残しましょう」
「いや!その“変態的”って要らなかっただろ今!!」
その隣で、銀髪の修道女がくわえタバコの煙をゆらりと揺らしながら歩み寄る。
「ルーファス様……少しは、わたくしを見直していただけましたか?」
ルーファスは一呼吸置いて、ゆっくりと目を閉じた。
「リリィ殿……たしかに、あなたはこの村において“問題児”でございました」
「問題児!?」
「教会の鐘楼で喫煙する、納骨堂で火を点ける、幼稚園児に“煙の儀式”を説く……枚挙にいとまがございません」
「ぜんぶ悪質すぎる副流煙!!」
「でも……リリィ殿。貴女もまた、信仰と煙をもって村を救ってくださった」
その言葉に、リリィはタバコの煙をくゆらせながらふんわりと微笑む。
「ありがとうございます。わたくし、この身と煙を賭してロイド様と旅に出る所存です」
「それは、実に――実に、ありがたいことでございます。
この村で燻るよりも、あなたの煙は、広く世の中に漂うべきでありましょう」
「牧師さん、えらく前向きに送り出してきたな!?」
「もはや村に煙は要らぬという神の思し召しです。旅の空の下で、お好きなだけ燻されると良いでしょう」
「追放のテンションだこれぇぇぇ!!」
ルーファスは優しく、しかし何かから解き放たれたような笑みを浮かべた
「ただし、リリィ殿。村のたばこ屋への三ヶ月分のツケ……そろそろ何とかしていただけると……」
その瞬間、リリィは「あらあら」と微笑みながらロイドの腕に寄り添い――
その豊満な胸元を、さりげなく、けれどしっかりと押し当てた。
「ロイド様ぁ……実はその……」
「……うん、いやな予感しかしないぞ」
「わたくし……うっかり煙に夢中になりすぎて、少々たばこの代金をですね……その……踏み倒してしまっておりまして」
「うっかりの規模がでけぇ!!」
リリィはタバコを片手に、もう片方の手でロイドの胸元をそっとつかむ。
「ですので、わたくしが今後の煙を絶やさぬように……どうか、この胸に免じて……代わりにお支払いいただけませんでしょうか?」
「免じねぇよ!?てか今、完全に当てにきたよな!?物理的に来たよな!?」
「信仰も煙も……この胸から生まれているのです。そう思えば、お安い話ですわよ?」
「高いよ!煙代が重いし胸も重いよ!!」
ルーファスは天を仰ぎ、祈るように両手を組んだ。
「ロイド様……ご覚悟を。貴殿の旅には、神の加護よりも早く“支払いの義務”が降りかかることでしょう……」
「なんで神様より請求書のほうが到着早ぇんだよ!」
一方、どぶろくの空き瓶を抱えたコトが転がりながら言った。
「……おいらも、胸当てて酒代頼む技、会得すべきかな……」
「やめて!変なところで性別乗り越えてくるのやめて!」
リー・アルがにこにこしながら浮いてくる。
「シャッチョサン、名声、借金、煙、網タイツ!いよいよパーティが完成したかけていいるアルね!」
こうして――
胸圧と煙圧に屈したロイドは、リリィのツケを肩代わりしつつ、彼女の旅立ちを受け入れることにした。
副流煙の聖女、変態道の勇者、酔いどれ斬姫、営業浮遊妖精――
この最強(最狂)のパーティが、新たな地へ向かって、煙とともに歩き出すのであった――!




