第10話 「酒・たばこといえば…黒い女神様登場! 前編」
*この作品には…過度な飲酒描写と喫煙描写が含まれていますので、
苦手な方は ブラウザバックして下さい(震え声)作品中の行為や行動について
よい子の成年は絶対真似しないでください(注意喚起感)
なお、お酒とたばこは20歳になってから…容量・用法を守って
正しく摂取してください(未成年への注意喚起感)
氷の洞窟を抜けた先にあったのは――地獄だった。
「……ここどこ?……太陽しかない……?」
ロイドのつぶやきが、灼熱の砂上にむなしく吸い込まれていく。
目の前に広がるのは見渡す限りの焦げつくような白砂、そして空には無慈悲なまでの灼熱の太陽。
吹き抜ける風すらもぬるま湯のようで、全身から水分と希望を奪っていく。
「ミニスカ・ピンク網タイツ・ハイヒールという変態三点セットで立ち尽くすロイドの足元から、ジリジリと湯気が立っていた。
「ヒールの底が……あっつ!!砂に沈んで靴ごと焼き網になってる!!俺、BBQされてるの!?!?」
リー・アルはぬくぬく営業仕様ダウンを脱ぎ捨て、胸に「涼」の札を貼りながら浮かぶ。
「シャッチョサン、季節感ゼロのその格好こそ“変態道”の証アルよ。もう流派立ち上げるレベルアル」
「暑いし痛いし借金あるし、もう地獄のオプション全部乗せだよ!!」
そして、それから――数時間後。
歩いても歩いても、地平線に見えるのは揺れる陽炎だけ。
何の目印もない、終わりのない焦土。
太陽は真上から襲いかかり、空気は生ぬるい鍋の中のよう。
「……あっつ……おいらのどぶろく……瓶の中で煮えてる……マジで酒蒸しになる……!」
「ちょっと飲んでみたら“味噌汁の上澄み”みたいだったでござる……もう殺してくれ……!」
「タバコもしけって火がつかないんですけど!?わたくしの信仰心、砂漠に試されてますの!?」
「そろそろ誰かブチ切れる5秒前だろコレ……!」
足取りはふらつき、誰からともなく呼吸が荒くなっていく。
そして――誰かが、ついに口を開いた。
「なあ……これ全部さ……誰のせいなんだよ」
ぴたり、と全員の足が止まった。
ロイドが振り返り、汗だくの顔で仲間を見回す。
「俺だってな……借金背負って、こんな網タイツ履いて、砂漠歩いて……これってもう人生のどん底って言っていいだろ!?」
「でもそれ、ほとんどシャッチョサンの衣装代アルよ!?“ヒール光沢加工”とか“フリル躍動補正”とか、課金項目意味不明アル!」
「それはおまえのせいだろうがぁぁぁぁ!!お前の会社が“スカマホ変態冬ver”とか勝手に出すからぁ!!」
「おいらの酒代の方が重いだろ!?1本10ゴールドを一晩で3本空けてるんだぞ!?酔わなきゃ命張れねぇんだよ!!」
「いやそれもう病気レベルだろ!!命張る前に肝臓張ってんじゃねぇよ!!」
「わたくしのたばこ代は必要経費ですの!!宗教上の義務ですの!!」
「宗教でたばこ課金を正当化するなァァァ!!」
空気は熱風以上に熱く、
金と課金と喉の渇きにまみれた口撃が止まらない。
それぞれが、それぞれを責め始め、ついには――
「誰かのせいにしないとやってらんねぇんだよおおおおおお!!」
「わかるぅううううううう!!」
砂漠に響き渡る、もはや哀愁を通り越した集団絶叫。
そしてその時。
遠くの砂の向こうに、微かに――
「……町……?」
建物の輪郭。ゆらめく影。
ヤシの木。屋台の布。屋根と壁のついた何か――!
「おおおおおおおおお町だァァァァァァ!!!」
ロイドは叫びながら走り出した。スカートがヒラヒラとなびき、網タイツが砂を巻き上げる。
後ろからもコト、リリィ、リー・アルが続く!
「命の水ィィ!!氷のカキ氷ィィ!!小銭を水に変えてくれぇぇぇ!!」
そして見えてきた町の看板には、こう書かれていた。
【ようこそ 交易都市・バルハラドへ】
【入場料:お一人5ゴールド♡】
全員の動きがピタッと止まる。
「……おい」
「ちょっと待て……」
「全財産合わせて……5ゴールド、ないでござる……」
「俺たちこの町の前で干からびるの……?」
黒い女神マリス登場
──バルハラド。
砂漠を越えた先に広がる白い壁の交易都市。
その門前に、まるで「敗北者展示場」のような一角があった。
「……水……水が……氷水が……」
砂にめり込むように倒れているロイドの網タイツからは、パリパリと乾いた音。
スカートの裾は熱で反り返り、もはや「ヒラヒラ」ではなく「ビリビリ」である。
「シャッチョサン、網目が……完全に焼き印状態アル……」
リー・アルは冷却シート内蔵の営業ジャケットで日光を遮りながら、悲しげにロイドを見下ろしていた。
「ヒールも溶けたよ……変態道、暑さに無力すぎるよ……」
コトは、干からびたどぶろくの瓶を見つめながらつぶやいた。
「……発酵どころか蒸発でござる……拙者の心も、液体のように消えていくでござる……」
リリィもまた、火のつかないタバコを口にくわえたまま。
「信仰心では……火は起こせませんのね……砂の神……あなた冷たすぎますの……」
全員が、心も財布も燃え尽きたそのとき――
シャッ、シャッ、と軽快にトランプをシャッフルする音が、砂の向こうから響いた。
そして、現れたのはひとりの女。
黒いロングコートを羽織り、ブーツで砂を蹴りながら近づいてくるその姿は、どこか舞台女優のような存在感を放っていた。
風に揺れる濃紺の髪は肩までで、陽の光を受けて青銀にきらめく。
鋭く釣り上がった目尻、くっきりと引かれた黒のアイライン、
薄く塗られたルージュと無造作な前髪の隙間から覗く瞳は、**「勝負狂の光」**に満ちていた。
そして、身長は150センチ台後半あるかないか。
スラリとは言い難い体型で、胸元は潔いほどのぺったんこ。
にもかかわらず、コートの襟元は堂々と開いていて、貧の主張が逆に目立つという不思議な存在感。
──この女、ただ者ではない。
「へぇ……ここにいるのが噂の“干からび変態パーティ”か。見事にカラッカラだな」
女はトランプをクルリと指先で回しながら、にやりと笑った。
「だ……誰……?」
「俺の名はマリス。裏稼業専門、ギャンブル魔法使い。ついでに言うと、ギャンブル依存症だ」
「なんでそんな笑顔で不名誉な自己紹介すんだよ!?」
マリスはロイドの近くまで歩いてくると、しゃがみこみ、彼のスカートをじっと見つめた。
「その格好……ギリギリまで張ったチップって感じで、好きだな。
そういう命の賭け方、俺の美学に刺さるぜ?」
「この女、ヤバさのレート高すぎる……!」
マリスはトランプを砂に突き刺すと、こう言った。
「町に入りたいなら、条件がある。──裏カジノに一緒に参加しろ。話はそれからだ」
「「う、裏カジノ!?また出たよ裏!表面すら歩けてないんだけど俺ら!?」
「勝負内容?内容は見てのお楽しみ。命張る奴もいれば、服脱ぐ奴もいる。つまり、めちゃくちゃってことだな!」
「ってことは俺、確定で脱ぐパターンじゃねぇかァァ!!」
マリスは手にしたカード束をロイドの額にぴたっと当てながら言った。
「そのスカート。チップ代わりにして賭ければ受ける側は盛り上がるぜ。賭けるも履くも、勇者の覚悟次第だな」
「やめて!!お前、背ちっちゃいけどトークの破壊力ヤバいの!!」
リリィがすすすとマリスの隣に寄る。
「……そのカジノ……喫煙可ですわよね?」
「あぁ。むしろ煙が薄いと負けるっていうジンクスがあるレベルだな」
「参加いたしますわ!!」
コトはどぶろくの空瓶を腰に差し直しながら、頷いた。
「……拙者、今は完全にシラフ……勝負の場ではむしろ正気が必要でござる……」
「いや誰か酔ってくれよ!?俺ひとり羞恥全開なのなんで!?」
結局。
全員の心の奥底で「とにかく町に入りたい」という願望が勝ち──
「……もういいよ。脱げって言われるよりマシだよ。参加するよ……裏カジノってやつに……」
「そうそう、それでこそいいツラになったな。命のギリギリで輝くバカは最高だぜ」
──ギイイイ……バルハラドの門が開く音と共に、世界が変わった。
一瞬、全員の瞳に光が差し込んだ。
「と、都……開いた……!?え、これ夢じゃないよね!?網タイツの幻覚じゃないよね!?」
「シャッチョサン!これが幻だったら、拙者たちの人生ずっと砂漠でござる!!」
「文明だ……!壁だ!家だ!!氷だぁぁああ!!!」
「人がいるぅぅぅぅぅ!!呼吸してるぅぅぅぅ!!」
ロイドたちはもう理性を失っていた。
喜びが極限に達し、もはや狂気と紙一重のレベルで門の先へダッシュする。
ロイドはピンク網タイツのまま、全力スキップで広場を駆け抜け、スカートを翻しながら噴水に飛びつく。
「水ぃぃぃい!!冷たぁああああい!!最高ぉぉぉお!!」
その隣でリー・アルは空中でぐるぐる舞いながら踊り出す。
「取材班は!?取材班はどこアル!?この映像、伝説になるアルよ!!」
コトはもう冷たい水に頭ごと突っ込んでから、びしょ濡れのまま両手を広げて天に叫んでいた。
「ありがとう天のどぶろく神……拙者、今ようやく生を実感したでござる……!!」
リリィに至っては、通行人のタバコを見ただけで感極まり、
「吸ってる……!吸ってる人がいるぅぅ……!ここは……約束の地ですわ……!」
四人はまさに文明との再会に泣き叫ぶ野人状態であった。
そして5分後──
「うまっ!うまいっ!!なんだこの肉!?味が濃い!!噛むたびに幸福が出てくる!!」
屋台の片隅で、ロイドは焼き串を両手に持ち、獣のような勢いで肉を頬張っていた。
「この果汁スイカ、丸ごとくりぬいて冷やしてあるとか反則アル……口の中が天国アル……!」
「このどぶろく……薄めてない……正真正銘……本物の……神の酒……!」
「わたくし……このパイプタバコと葡萄の香りの組み合わせで一冊小説書けそうですわ……」
腹が満たされ、喉が潤い、タバコに火が付き、どぶろくが胃に染み込んだその瞬間――
ロイドたちはようやく、人間の姿に戻った。
「ふぃ~……生き返った……網タイツの中で汗が結晶化してたのも溶けてきた……」
「シャッチョサン、それはちょっと言い方怖いアル……」
「おいら……心まで酔ってきた気がする……」
マリスはその様子をニヤニヤ見ながら、串焼きを片手に言った。
「おいおい、どんだけ飢えてたんだよwしかも全員ガチ泣きしながら食ってるって、どんな生活してたんだよw」
「涙で味が増してるんだよ!!これが情緒スパイスってやつだよ!!」
マリスは串の最後のひと口をくわえながら、
手をひらひらさせた。
「ま、腹満たしたなら、次はクールダウンってことで。あたしの知ってる控え室に案内してやるよ。裏カジノの準備があるからな」
連れてこられたのは、町の裏手にある古い倉庫のような建物。
だが中に入ると、ひんやりとした空気が流れ、魔法で冷却された石床と柔らかいソファ、
テーブルには水、果物、そして冷えたどぶろくの瓶が数本置かれていた。
「こ……ここが天国……!?」
「この温度差……服の中の汗が逆流して蒸発していくでござる…」
「座るだけで涙が出るソファってあるんですね……」
マリスはそんな彼らを尻目に、奥の机に腰かけて、シャッフルしていたカードをふと止めた。
「なあ──お前ら、さっきから不思議に思ってんだろ。
“なんで私らなんかをカジノに連れてきたのか”ってよ」
ロイドは、半分ソファに沈みながらも聞き返した。
「……あぁ、思ってたよ。だって俺ら、ギリッギリで死にかけてただけだし」
「ギリッギリで笑ってたからさ」
マリスはニヤリと笑い、カードの山をトンと机に置いた。
「限界まで追い詰められてるのに、街に入ったとたん…網タイツで踊って、どぶろく握って、火もつかないタバコくわえながら“文明だぁ!”って叫んでるバカ。
──そういう奴は、ギャンブルに強ぇのよ」
「褒められてる……?今の、褒められてた……?」
「命が軽いやつは、負けても笑える。
命が重すぎるやつは、勝ってもビビる。──お前らは、賭けに向いてる顔してた」
マリスは小さな体を背もたれに預け、天井を見上げて言った。
「……それに、なんかさ。ああいうバカと一緒に勝ったら、たぶん楽しいだろ?」
沈黙。
──そして次の瞬間、
「うわああああああん!なんか知らんが泣けてきたあああああ!!」
「シャッチョサン、感情のスイッチどこアル!?それだけ過敏すぎるアル!」
「うぅ……拙者たちは、選ばれたんでござるな……バカとして……!」
「バカとしてでも……わたくし、この煙と共に生きますわ……!」
こうして、ロイド一行は胃袋も心も満たし、
狂気のギャンブル女・マリスと共に、裏カジノの夜を迎える準備を整えた。
次なる舞台は、命と羞恥が交錯する賭場──
《ヘルズ・ジョーカー》。




