強行派
「いい加減に手、離してくんない?」
「イヤ」
「イヤってあーた・・・」
ちょっと大泉洋っぽく言ったんだけど、安定のスルー。
手繋いで歩くとか恋人同士っぽくて嫌なんだけど・・・
そんなことを気にしないのがリア充というやつなのか。恋する者同士は周りが見えなくなるというのは本当なのか。でもまぁこいつの場合はちょっとちがうする気もするけど。
「そういえば隣、伊織だったでしょ」
「あ? おう」
「伊織には全部話してるから気にしなくていいからね」
「いや、気にするとかしないとかじゃなくて・・・」
なんてゆーの? そこまで深く関わらないから。仲良くなる気も無いから。
「伊織はサバサバしてるから仲良くなりやすいかもしれないけど、惚れたらダメだよ?」
「惚れねぇよ」
「だよねー。えへへ」
ナンダコイツ。キモチワルイ。
照れて笑う木村。どうせ『俺が好きなのはお前だけだから安心しろ』的な言葉にでも聞こえたんだろ。もうこいつの耳はダメだな。病院へ行け。良い耳鼻科を紹介できないのは残念だが、早いところ直してもらえ。
「あ、そういえば」
「お前そういえばばっかりじゃん」
「うるさいわね。明日、みんなでカラオケに行こうって話なんだけど、あんたも来る?」
「カラオケか・・・」
明日は学校祭の振替休日となっている。連休ヤッホイ。
一人カラオケ。通称ヒトカラ。
ぼっちを代表するスポーツの一つだけど、俺はまだ試したことがない。
歌ってみたのジャンルで虹色の声質を持つ俺が歌ったら大変なことになるから投稿は控えてるんだが、そんな俺がカラオケで採点機能でも使ったらランキングが・・・ねぇ。もうトップは俺の名前しか載らないっての。
そんな俺が誰かとカラオケ?
ハッ。バカバカしい。
「行くわけないだろ」
「このクソぼっちが」
「今、なんか言った?」
「何も言ってないよ?」
「・・・まぁ絶対に行かないけどな」
「なんでよ。渡辺も来るし伊織だって来るし」
「いや、だからどうしたんだよ」
「絶対楽しいって」
「お前らは楽しくてデュエットとかしちゃうんだろ?」
カラオケなんてそんなもんだ。
どうせ俺が歌い始めたらトイレとか行っちゃうんでしょ。
どうせ歌ってる横で話し始めちゃったりとかするんでしょ。
どうせ俺の順番飛ばして曲入れちゃったりするんでしょ。
「そんなことしないって」
「いや、絶対にするね。二人で一つのマイク使っちゃったりして歌うんだ」
「マイク二つあるじゃん」
「それに変な曲入れたら『流れぶち壊した』とか思われて、空気が冷めるもん」
「そんなことは・・・あるかも」
「ほら! やっぱりあるんじゃん!」
「でも絶対楽しいって!」
「嫌だ! 絶対行かない!!」
「でももう伊織に行くって言っちゃったしー」
「おまっ! どうして勝手にそういうこと言っちゃうの!?」
「だって私の彼氏でしょ?」
「いやいやいやいやいや! 彼氏だったとしても、拒否権とか決定権とか選択する権利とかはあるでしょうよ!」
「・・・いくじなし」
「いくじなしで結構! 俺は行かないぞ!」
「うー・・・」
「うーうー言うのやめなさい!!」
拗ねる木村と全力で断る俺。こんな小説のタイトルありそう。
最近の小説のタイトルって長いの多いよね。タイトル長すぎてあらすじみたいになってる系小説が多い気がする。
ってゆーか木村がここまで頑固だったとは・・・
口を膨らませてうーうー言っている木村を横目で見ていると、どうも罪悪感が生まれてきてしまう。
きっと自分に息子とか娘が出来て、『買って買ってー!』って駄々こねてたら買っちゃうんだろうな。そして奥さんに怒られる感じ。俺ってば親バカ。
そんなこんなで俺は覚悟を決めた。リア充の世界にダイブすることを。
「わかったよ。行けばいいんだろ」
「ホント!?」
パァっと輝いた笑顔を見せる木村。この笑顔は反則だ。
不覚にも可愛いとか思ってしまった。
最近、木村の影響なのかもしれないが、木村みたいな見た目の女子も大丈夫なようになってきた。
なってきただけで、まだダメだ。やっぱり日本なんだから日本人らしく清楚に(略)
「じゃあ明日の朝10時に学校の近くのカラオケに集合だから!」
「えーと朝の18時な。わかった。覚えてたら行くわ」
「全然聞いてないじゃん。聞けよ」
「なんでそういうのは聞いてるんだよ」
「10時ね。10時。なんなら迎えに行こうか?」
「絶対に来なくていいから」
木村と同伴出勤なんて恥ずかしすぎる。何が悲しくて見せびらかさなきゃならんのか。
むしろ遅刻して置いていかれて帰りたい。
あー・・・早くあさってにならないかな。
ボス・・・時間を飛ばしてください。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しい限りです。
カラオケに行きたいのでカラオケ編となりました。
次回もお楽しみに!




