そして別れ
俺は木村と付き合うことになった。
事実だけ言えばそういうことなんだけど、どうも実感がない。
それは木村も同じようで、昨日の夜に何度もメールで『私達付き合ってるんだよね!? 夢じゃないよね!?』と聞かれた。後半はもう返すのもめんどくさくなって、寝落ちしたフリをしてネトゲの世界にダイブした。多分、今日学校に行ったらなんか言われるんだろうけど、しつこくメールを送ってきた木村が悪い。
「おはよ」
「お兄ちゃん、おはよ」
朝起きて、階段を降りたところで、学校に行く準備万端の弟に会った。俺は7時起きなのに対して、こいつは何時に起きてるんだよ。
「もう朝ごはん出来てるって」
「おー。顔洗ったら行くわ」
「わかった」
そう言って弟は朝食が待っているキッチンのほうへと向かった。
最近、妙に弟がよそよそしい。
まぁ前からあんな感じなんだけど、雰囲気がね。一緒に住んでる人間だけが感じ取れるものってあるじゃん。あれあれ。
もしかすると思春期だから色々あるんだろうけど、兄としてちょっと心配だった。
俺の場合は、キチンと思春期に中二病にかかってたから問題ない。
中二病って周りに迷惑かけないから可愛いもんだよな。変に不良とかになるよりはマシだと思う。
もしかして弟も中二病にかかったかも、と思ったけど、それはないなという結論に達した。
まぁなんにせよ弟のことを考えても、元々思考の読めないやつなので、考えるだけ無駄だと思い、結構ほったらかしにしているのも事実だった。
でも一応心配はしてる。兄だもの。
キッチンに行くと、弟が席について俺の到着を待っていた。
「あんた遅いって。幸人を見習いなさい」
「こいつが早いんだろが」
「んもぅ・・・」
母さんの愚痴にいつも通りの返事をすると、朝食が出てきた。
ご飯と納豆と味噌汁と玉子焼き。
納豆には砂糖をかけようか普通に醤油でいこうか悩んだけど、結局砂糖を取るのがめんどくさかったから醤油にした。
納豆を混ぜていると、弟が口を開いた。
「紗枝ちゃんと付き合い始めたの?」
俺は納豆を落としそうになった。
「お前、なんでそれ知ってるんだよ」
「だって紗枝ちゃんからメール来たもん」
「あのやろー・・・」
どうしてこうやって周りに言いたがるのかね。
なんなの? 俺と付き合ってたって自慢にならないよ?
「おめでと」
なんか照れるな。
「おう」
弟はニッコリと笑った。
こいつが笑ったところなんて久しぶりに見たわ。
「なになに? なんの話?」
「お兄ちゃんに彼女が出来たって話」
「嘘だぁ。あんたに彼女が出来るはずないでしょ。あれでしょ? アニメキャラのことでしょ?」
「なんて失礼な親だ」
「えっ、じゃあホントに彼女出来たの!?」
「・・・まぁ一応」
「うわー・・・今度ウチに連れてきてね。挨拶してあげるから」
「絶対に会わせないからな」
母さんに会わせたりなんかしたらめんどくさくなりそうで嫌だわ。
そんな会話をしながらも、朝ごはんを平らげて、準備OKで学校へと出発。
今日は一日学校祭の片付けということで、終わり次第帰ってよしというものだった。
俺は優秀な帰宅部員なので、さっさと帰りたい派なのだが、一緒に帰りたいという木村の意向もあり、キチンと登校して、片付けにも参加して、早く帰ろうと思った。思っただけで、仕事が回って来るかどうかはまた別の話だ。
案の定、学校へ行くと俺のことは誰にも見えていないらしく、仕事が回ってこないせいで暇になってしまった。昨日の学校祭で読んでいたラノベが、積ん読として貯めておいたラストとなっていて、それもすぐに読み終わってしまった。手持ち無沙汰の暇人になってしまった。
そうそう。木村なのだが、なんだか俺を避けているようで、朝の挨拶以外は特に会話らしい会話はしていない。俺との関係を隠しているのか、もしかすると恥ずかしがっているのかは木村のみぞ知るところである。もしかすると、俺と話したくないだけかもしれない。寝落ち(笑)をしてしまったことを怒ってるのか? 心の狭いやつめ。
でも俺としても、今木村と話をしたところで、何を話せばいいのかわからなくて困ってしまう。慣れるまでには時間がかかるってところか。
そうこうしているうちに、片付けはあっさりと終わってしまったみたいで、学校へ来てから1時間という、ウサ美ちゃんもビックリのスピード片付けで帰れそうだった。
元通りに並べられた席に着くと、当たり前のように木村が横に座った。
なんだかんだで隣に木村がいることに落ち着いてしまう自分がいた。
「またよろしくお願いします」
「いきなりなんだよ」
木村が座ったままの姿勢で頭を下げた。
「いや、学校祭の期間は隣に居なかったわけだし、これからまた隣同士ってことでよろしくーってこと」
「そういうことか。こちらこそよろしくな」
俺も頭を下げると、木村はえへへと笑った。
『その笑顔が可愛く見えてしまった。これがリア充効果というやつだろうか。リア充の世界が、こんなに輝きに満ちていたなんて! この魅力にもっと早く気づけばよかった!』
なんて思うはずも無く、木村はいつも通りの木村だった。
やっぱりまだ木村を彼女として意識できない俺がいた。
少しして、教室に担任が入ってきた。
「じゃあちょっと早く片付いちゃったから席替えでもするか」
先生の言葉に、教室中から歓声とブーイングが沸き起こった。
前のほうの席からは歓声。後ろと端の席からはブーイング。
その歓声の中、俺と木村は顔を見合わせた。
「どうしよ・・・」
「・・・お前、フラグ回収早すぎだろ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ぼっちくんへのお祝いや爆発予告の感想やメッセージありがとうございました。
今回から4章となりますので、またよろしくですー。
では次回もお楽しみに!




