熱・上
保健室を後にした俺と木村。
まだ頭が重くてフラフラしていると言ってしまったがために、木村が家まで送ってくれるということになった。
最後に熱を計ったら38度あった。
熱が出たのは久しぶりだ。多分小学生の5年の時に風邪を引いて寝込んで以来は病気の類にはなってないと思う。
中学の時には、中二病をこじらせてぼっち生活がスタートしたんだっけ。そのせいもあってか、中2の時に中二病が治った時には、もうぼっちだった。孤独こそがカッコイイとか思ってたもんな。
だからと言って小学生の時に友達がいたかと言われればいた記憶もない。俺、もしかして友達いたことないんじゃね?
まぁそれで学校を休むと恥ずかしいとか思ってたせいで、変に病気とかにならないように最善を尽くしていたと思う。超健康重視の生活。
そういう意味では、木村の前で倒れて、渡辺に保健室まで連れてこられたのは、かなり恥ずかしい。
もう人生の黒歴史に入ってもいいぐらいの恥ずかしさだ。
そんなことを考えたのだが、途中でぶっ倒れても困るので、結局木村に甘える感じになってしまった。
その木村は隣を歩きながらケータイをポチポチといじっている。
「何してんの?」
「えっ!? あー、弟くんにメールね」
なんで驚いたし。
「あいつ学校にケータイ持ってってないから家にいないと繋がらないぞ」
「一応よ。急に家に帰ったら弟くんもビックリするじゃん」
「俺が俺の家に帰るだけで驚くとかどうなん?」
「熱出してる病人が帰ったらってことよ」
「そーゆーことか」
納得。でもあいつはそんなことじゃ動じないような気がするんだけどな。
とにかく『寝てなよ』とか言ってパソコンとか取り上げられそう。
その会話を最後にしばらく無言になる俺と木村。
そして駅に到着。ホームで電車を待つ。次の電車は10分後。
ベンチに座って、この無言を打ち破ったのは木村だった。
「あのさ、なんかこうやって一緒に帰るのって初めてじゃない?」
「そうだっけ?」
「そうだって」
言われてみると一緒に帰るのは始めてか。
思い返してみると、一人で歩いて、一人で電車に乗って、その中で本読んでたり読んでなかったりしてた。
ぼっち歴が長くなってくると誰かと帰るという発想がなくなってくる。何をするにも一人になるもんだから、逆に一人でも楽しめるものを楽しんでいた気がする。
「なんかアンタとこうやって話すのも久しぶりじゃない?」
・・・そうだっけ?
思い返してみると、学祭準備が始まって、渡辺の部下として働いて、吉川さんと買い物に行って、吉川さんと暇してて・・・ホントだ! 木村としゃべってねぇ!
『クソっ! 俺が先に気づいてさりげなく木村との距離を開けてたら優雅なぼっち生活を続けられたのに!』
っていつもの俺なら思うはずなんだけどなぁ。
どう考えてもぼっちに対する執念みたいのが消えてきてる。
これも熱のせいだといいな。熱が治ったらもう拒絶しまくってみよう。盾舜六花並みの拒絶を発揮しよう。まずはヘアピン買ってこないとな。花柄の。
「そうかもな。で?」
「で、って・・・なんでもない!」
「痛いっ!」
なんで蹴ったし! 俺何も言ってないじゃん!
「あんたが悪いの。だから蹴ったの。理解しなさい」
「無茶苦茶だろ! 本田君もビックリだよ!」
「だいたい、私がこうやって送ってあげてるんだから、もっと喜びなさいよ!」
「なんでそんな上からなんだよ。お前そんなキャラじゃねぇだろ」
「べ、別にあんたと久しぶりに筆談以外で会話したから喜んでるんじゃないんだからね!」
「ツンデレでごまかせると思ったら大間違いだからな。そしてさりげなく本音言ってんじゃねぇぞ」
ツンデレの使い方間違ってるだろ。本音を言うためにツンデレキャラとかめんどくさくてめんどくさいわ。
「こんなことあんたに真面目に言ったってしょうがないでしょ」
「いやいや。だからって言う必要ないでしょ」
「言わないと察してくれないじゃん」
女ってめんどくせぇ。
「で、俺と話せて良かったな」
「・・・うん」
照れないでもらえます?
前に俺に告白して失敗してるでしょ?
もう忘れたの?
そんなバカな話をしていると電車がホームに滑り込んできた。
電車擬人化とかして、『ホームに滑り込んでくる』っていう描写をヘッドスライディングしてるみたいにするのを思いついたのは、俺だけじゃないはず。
乗り込むと、ちょうど席が空いていたので、そこに座る。
この状態で電車の中で立ってるのは危険だからな。
そして木村が隣に座った。いつも授業中はこうやって隣に座ってるはずなのに、電車の席の隣となるとまた距離が違ってくる。だって腕とかくっついてるんだもん。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
途中でぶったぎってますが、長くなったので上下に分けてます。
次回もお楽しみに!




