レベルに差がありすぎるようだ
そんなわけで始まったオタトーク。
前回はケータイ越しでのメールだったが、今回は面と向かっての対面方式である。
それにしてもこいつの化粧は濃い。ケバイ。ヤバイ。
俺の一番苦手なタイプだ。
こんな奴と面と向かってオタトークとかレベルが高すぎる。
いきなりヒロイン狙いに行ったらカレンちゃんにまとわりつかれて、それから離れるぐらいレベルが高い。
パワプロはよくやったなぁ。
オリジナルの変化球のカーブに『シュート』って名づけて騙すのが楽しくて楽しくて。実践ではやったことないけど。CPUは騙されてくれないからつまらない。まぁ当たり前だけど。
「でさ・・・って聞いてる?」
「ウン、キイテルヨ」
「絶対聞いてないじゃん」
そりゃ聞く気も失せますがな。
だって何言ってるのかわかんないんだもん。
さっきから主人公の父親の隠れ設定の話とか、表紙裏の物語にまつわるエトセトラとか、ケータイゲームの話とかで、わかりそうでわからないようなマニアックな会話を繰り広げられている。これはもう軽機関銃で乱射されている状態です。困ったものです。
「会話っていうのは、自分と相手が会話のキャッチボールをすることを言うんです」
「キャッチボールしてるじゃん」
「どこがだよ。これはキャッチボールじゃなくてバッティングセンターですー」
「バッティングセンターなら打ち返してきなさいよ」
「投げる感覚が短すぎるんだよ。振る前に次の球来てるだろうが」
振るタイミングがねぇよ。バントでの耐久テストかよ。
「つーか前もこんなんだったろ。いい加減学習しろよな」
「そんなこと言われたって仕方ないでしょ。オタトークなんてしたことないんだから」
「俺だってしたことねぇよ。それでもこれは違うって言えるね」
「なんでよ」
「だってレベルが違うもん」
「レベル?」
そう。俺とこいつのオタレベルが全然違うのだ。
もうどのくらい違うかっていうと、スマホとPHSくらい違う。わかりやすく言うと手塚と桃城ぐらい。またはアカムとドスジャギィぐらい。さらにわかりやすく言うと俺が『広く浅く時々深く』なのに対して、こいつは『広く深く時々浅く』なのだ。
好きなジャンルも違えば見る観点も違う。ましてや俺は声優や制作会社なんかで見てないから、木村の話の半分も理解出来ていない。それに比べて木村は、声優の小ネタや制作会社の制作秘話の話とかまで持ち出してくる。そんな情報どこで仕入れてるんですか?
「そうそう。俺はお前に言ってることが全くわからん」
「あんたオタクなんでしょ?」
「オタクだからってなんでも知ってるわけじゃないし。得意なジャンルがあって苦手なジャンルもあるわけ」
「ふーん。じゃああんたはどこらへんが得意ジャンルなの?」
「得意ジャンルか・・・」
そう言われて考えてみると、特に得意なジャンルというものは無い。
これ面白そうだから見てみよう。これ楽しそうだから読んでみよう。そんな感じだ。
そのことを木村に伝えた。
「じゃあ電撃文庫だから全部買ってみるとか、このイラストレーターは好きだから新刊はとりあえず買ってみるっていうのはしないんだ」
「そんなのしたことねぇ。お前やってんの?」
「私もしてないわよ。そこまでしちゃうと他のものとか買えないし」
「他のもの?」
「服とか化粧品とか。この年頃の女の子は結構お金かかるんだからね」
「マジでか」
将来娘にオタクの英才教育を受けさせて、オタクだけど可愛い娘にする予定だったのだが、そこまでお金かかるなら息子にそういう教育させるかな。ぼっちにならないように幼馴染は作ってあげよう。女の子の。それで俺と仲良くなって
「おじさんおはよっ!」
「今日も元気だね。あいつならまだ部屋で寝てるよ」
「んもー。ちょっと起こしてくるね!」
って感じで、息子に幸せな朝を迎えさせてあげたい。
俺ができなかったことを息子にさせてあげよう。そのためには貯金が必要だな。今のうちに貯めておくか。
「ってゆーかリア充って何して遊んでんの? いっつもナニしてるわけ?」
「してないわよ。カラオケ行ったりボーリング行ったりファミレスでだべったりしてる」
「それって楽しいの?」
「失礼な。楽しいわよ」
リア充はお金かかるんだな。
「毎日遊んでるわけじゃん? 何喋ってんの? 下ネタ?」
「さっきからなんなの? リア充だからってそんなに万年発情期みたいに言わないでくれる?」
だってそういうイメージなんだもん。
「別に普通の話よ。テレビの話とか面白かったこととか」
「ふーん」
「ってそろそろ時間じゃないの。結局オタトークはおあずけってことなのね」
「そりゃそうだ」
俺たちはまだそこまで親交度が高くない。むしろ欠点が見つかってばっかりだ。
「じゃあ集合場所に行きましょうか」
「一緒に?」
「そうよ・・・そうね。別々に行きましょう」
「そのほうがいいな」
俺もこいつと一緒にいたなんて思われたくないし。
「じゃあ先に行くから」
「おう」
そう言って先に行く木村の背中を見送った。
そしてあとから戻った俺だったが、
「おい、お前な。いくら授業を枚目に受けているからといって、集合時間に間に合わないのはダメだぞ? 早く列に並べ」
「・・・はい。すんません」
木村と別れた時刻が集合時間ぎりぎりだったようで、集合場所に到着すると、俺は全員の視線を釘付けにしてしまった。恥ずかしいったらありゃしなかった。
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