53 表情
「おかえりなさい。クライド」
「ただいま、シェリル」
辺境の方へと遠征していたクライドをエントランスで出迎えて、馬車から降りてきた彼と抱擁を交わす。
そばにいるキャラメルはクライドの匂いを嗅いでくるくると彼の周りをまわった。
「ただいま。君はきちんとシェリルを守っていたか?」
そんなキャラメルに厳しい視線を向けて問う彼に、キャラメルは一つ鳴いて答える。
キャラメルに対する大多数の態度とは違って、クライドが彼に対して部下にするような問いかけをするのは彼がキャラメルのことをペット以上の存在だと思っているからだろう。
そんな様子は微笑ましくて「きちんといい子にしていたわよ」とシェリルも付け加える。
「そうか。ならいいんだ。こいつにはシェリルの貴重な魔力をくれてやっているんだからな、ちゃんと食べた分は働くようにして貰わないと困る」
したり顔で言う彼にシェリルはくすくす笑って、彼の手を取った。
「そうね。さぁ、中に入りましょう。仕事はどうだった?」
「相変わらずだ、ヴィクターにはもう少し自覚をもって厳しく騎士たちに指導してもらわないと困ると言っているんだが……」
「急には難しいわよね」
「そうだな。……まぁ、まだ新しい体制になって日も浅い、余裕を見てやっていかなければとは俺も思っている」
「ええ」
「だが、難しい。俺が厳しすぎるのか? ……もっとコミュニケーションをとれとトバイアスも言うんだが、うまくとれる気がしない」
そうして思い悩んでいると彼の顔つきはさらに怖いものになって、それを見て、さらに魔獣との戦闘を見て萎縮してしまう騎士も多いだろう。
新しい騎士たちの育成もかねて、経験を積むために地方を回っているらしいがそれほど簡単には言っていない様子だった。
しかしシェリルからなにかアドバイスをするとしたら……。
「そうね。コミュニケーションをとるなら……もう少し柔らかい表情をしていた方がいいかもしれないわ」
「ああそれ、トバイアスも言っていたな」
「そうなのね、あなたはとても華やかな人だから怒ってると目に留まるし、怖くも思うわ」
トバイアスも同じようなアドバイスをしていたらしく、やっぱりまずはそこだろうとシェリルも彼に同意するような気持ちになった。
しかし屋敷の廊下を歩きながら彼は意外そうな顔をしてシェリルに問いかけた。
「それは君も思っていたわけじゃないだろう? 俺を怖がっている素振りなんて君は見せていなかったし、誰もがそう思うとは思わないが……」
そう返されてシェリルの方が意外に思ってしまった。
彼はわかっていてそういう顔をしているのだと思っていたし、なんなら常に不機嫌そうな顔をしていてシェリルも最初は萎縮していた。
しかしともにいると通常運転でこれなのだということを知ってからやっと彼の行動に、不機嫌を態度に出すような乱暴な部分や怖い部分などないことを知ることができたのだ。
けれどそう思ってくれているならば、そこをわざわざ否定するのはなんだか気の毒な気がするし、シェリルは少し笑ってから、言葉を変えて言った。
「そうね、誰もがそう思うわけではないと思う。でも、あなたは今、彼らにとってとても大きな存在なのよ。とても大きな力を持ったすごい人がちょっとでも不機嫌にみえると怖いと思う人が増えたのかも」
「……たしかに、俺も君の表情の変化ならばすぐに気がつく、それぐらい重要視されていると思えばいいのか」
「ええ……でも私といるときはどういう顔をしていてもいいわ。あなたはとても優しくて、誠実な人だと知っているもの。怖くなんて思わない」
トコトコと廊下を歩いていき、それから思い立って言葉をつづけた。
「でも、笑ってくれたらとても嬉しい。あなたが今、楽しくて嬉しいことを知ることができるもの」
「そうか……? 君も嬉しいのか」
「ええ、こうしてそばにいてよかったと思うぐらいよ」
そう言うと彼は、シェリルのことを見下ろして、ぎこちない笑みを浮かべた。
心からくる笑みではないけれど、それはシェリルを喜ばせようとして浮かべてくれている笑みで、そうして行動に移してくれるクライドにシェリルはなんだか愛されているとじんわり感じてしまって、頬を染めて笑い返す。
「少し、羞恥心が勝るかもしれない」
「な、なれればきっと大丈夫よ」
そうして、二人でぎごちなく笑ってそれから、そんなやり取りがおかしくて、くすくすと笑い合った。そして歩みを進めて、会っていない間にあったことを取りとめもなく話したのだった。




