5 新生活
シェリルはこれまでの貢献と、アルバートの件の謝罪の意味を込めて、新しいウィルトン伯爵という爵位をもらった。
アルバートはその後、シェリルの報告によって正式にウォルフォード伯爵となり今でもセルレアン王国を支えている。
何度か逃亡を計ったらしいが、起き抜けにすぐに魔力を限界まで抜かれるのでいつもうまくいかずに捕まり、彼が逃げ出したという話を聞いたことはない。
自分がたいしたことないといった苦労からも逃げ出そうとするなんて、情けない人である。
そんな人に尽くしてわかってもらおうとする未来など拒絶してよかったとシェリルは改めて思う。
だからこれで良かったのだ。
それに今は、自分の仕事も、彼の仕事もお互いに理解しあえて大切なものだと思える。
遠くから玄関口へと向かってくる馬車を見つけてシェリルは背筋を正して笑みを浮かべた。
午後の優しい日差しの中で、石畳を囲む低木が小さく葉を揺らしている。
こうして彼が帰ってくるのを外に出て心待ちにすることができる。それは未だに慣れない感覚だけれど、素晴らしいものだ。
到着してすぐに降りてくるクライドの手を取る。
「おかえりなさい。クライド、ケガはない?」
「当たり前だ。そんなに弱くない」
「良かったわ。あなたの帰宅に合わせてシェフと腕を振るったの、今晩は楽しみにしていて」
「…………」
「周辺領地の様子も聞きたいわね、それから━━━━」
相変わらずつっけんどんな言葉を返してくる彼に、気にせずシェリルは言った。
しかし手を離されてその代わりに、向きあって肩を両手で抑えられて、何事かと視線を向けた。
「……そんなに、無理しなくていい。俺はそんなふうに接待されなくても機嫌悪くならないし、第一、体調は……」
すごく真剣そうに言われて、シェリルは少し驚いてから、彼の様子に声を漏らして笑う。
「ふふっ」
どうやら怒っているというわけではなく、シェリルのことを思いやってそんなに難しい顔をしているらしい。
普通の健康な女性ができることをやっただけでそう言われるのはどこかむず痒い。
「おかしなことは言ってないだろ。シェリル、君は弱音も吐かないし無理をしすぎるきらいがあるから」
「そう、ね。私も自分の体がこんなに良く動くのには慣れないし、あなたがそう思うのもわかるわ」
「なら━━━━」
「でもね、私、自分の大切な人が誰より認めてくれるなら苛酷なことでも自分の役目と思ってできる。だからこの程度のことぐらいどうってことない、むしろ楽しいぐらいだわ。クライド……認めて欲しいのよ」
「…………」
「剣をふるって人を助けるあなたはすごいわ。たくさん話を聞いて、あなたの仕事に称賛を送りたいし、家で食事を作って待っていたいし、あなたの生活を整えて思いを伝えて、そういうふうに暮らしたいのよ」
彼を見上げて言うと、クライドは困ったような機嫌の悪いような顔をしていて、けれども肩から手を離して、とてもそっと抱きしめた。
それから頬にキスをされた。
「シェリルの言葉はたまにすごく、直球で驚いてしまう。でも尊重し合いたいってのは同意だ。……でも、やっぱり心配だし、そばで守ってやれないのは心苦しい」
「あんがい、あなたは過保護なのね」
「違う。ただ……俺だってシェリル、君を大切にしたいと思っているだけだ」
そしてまた抱きしめて、シェリルを離さない彼に、アルバートとはまったく違うのだと少し比較した。
けれどもその考えすらクライドには失礼だろう。
彼とクライドでは比べ物にならないほどに、シェリルはもうクライドが大切なのだから。
「ありがとう……お互い様ってことね」
「ああ」
笑みを浮かべてそう返し、二人は屋敷の中へと入っていったのだった。




