47 サポート
「わたくしが望むのは騎士団との協力によって個人単位での精霊様との協力ですわ」
彼女の言葉に、貴族たちは頭を切り替えて、耳を傾ける。いなくなったルーファスのことを掘り返す人はおらず、この場から彼が逃げ出したことは彼の人生にとって大きな致命傷になったことは言うまでもない。
「精霊の守護像のような精霊との契約を可能にする魔法具を作りだし、今の魔獣への対応に慣れていない騎士団の方々の戦力にし、討伐を容易にする」
「……」
「そしてゆくゆくは、この国も魔獣と共存して、より安定的な社会を目指すべきだと考えますわ。なぜなら、魔獣というのはなにも損害だけをもたらすものではありませんもの」
彼女はよどみなく話を続けて、別の方向にも話題を広げた。
「魔獣を倒せば、彼らの持つ核とも言える魔石を手に入れることも、魔力の宿った毛皮を手に入れることができますわ。今まで国力を使ってそれらを輸入する形で補って来たけれど、それらを生産することができれば大きな余裕が生まれる」
「……それはたしかだが……」
「その分、騎士団や魔法使いなど魔獣に対処する力を持った人々に多く富を分配し、さらに守りを固める。そうすれば我が国は新しい産業を手に入れ、さらに基盤を固めることができるはず」
彼女は自分の案を出す機会がないかもしれないと思いつつも、きちんとした調べを行い人々を納得させるだけの理論を考えていたらしい。
しかし貴族たちの反応はいまいち芳しくない。
「騎士たちがその魔法具の利用に慣れるまでの間、わたくしたち王族も、できるだけ多くの民を守るために奔走することを誓いますわ、わたくしだってそうする覚悟がある」
「うむ……」
「……」
「一時は苦労をすることになるでしょう、けれどもこれからのことを思えば今の苦労はきっと報われるはずですわ」
彼女はできる限りの言葉を尽くして彼らを説得しようとするが、やはり彼らはあまり乗り気ではない。
シェリルはもう少しいい言い方を思いついたが、それを言う前にロザリンドが助け舟を出すように彼女に言った。
「ハリエットはよく調べ、この国の未来についてとても深く考えてくれたのですね。その案はたしかに、そういった側面もあるわね、でもそれ以上にもう一つ大きな利点が見えてきませんか?」
「利点、ですか?」
「ええ、魔獣由来の魔法具の材料を安定的に供給できるようになり、さらにあなたの力があれば、他の精霊様との契約をした魔法具を生み出すこともできるのではないかしら?」
「そ、その通りです。今までは他国に頼っていた魔法具の材料を自分たちで生産できれば、精霊様との契約を組み込んだ魔法具をより多くの方に届けることができる」
「そうね。これを機にその展望を掲げて、新しい国の在り方を望むそれは、ここにいる全員に恩恵があることであり、つかみ取るべき明るい未来ですわ」
ロザリンドとの会話によってハリエットの出した提案はさらに現実的な利点をはらんだものへと変化する。
「わたくしたちは大きな損害を負うことになったけれど、それをただで受け止めて今までと同じように続けるのではなく、それを糧にしてより豊かに暮らしを守るすべを身に着け、より良い方向に進むために手を尽くす」
「そ、それはきっと精霊様も好ましく思う人間の姿なのではないかしら?」
そうハリエットが言うと、精霊の言葉が聞こえているという力もあって非常に説得力もあった。
それに、ただでは起き上がらないより良いものを求める姿勢に、深く頷く者がいた。
「私はその案に賛成するぞ。なんならエルズバーグ公爵家を筆頭に新たな魔法具の制作の政策に資金を投資し、新しい産業に参入したいと考える」
そしていち早く声をあげたのはレジナルドだった。彼の瞳は希望に満ち溢れていて、なんならそこに新しい事業に対する商機を見出したかのようなギラギラとした瞳だった。
そして彼の言葉を皮切りに「いやいや、私こそが」と貴族たちが声をあげる。
「もちろん、私も賛成しようとしていたところだ」
「抜け駆けをされては困るな、エルズバーグ公爵」
その手のひらの返しようにシェリルは思う。
……結局のところきれいごとや、美しいあり方よりも、最後は実益の方が大切なのは人のサガなのね。
苦笑すると、レジナルドと目が合った。彼は、小さくウィンクをシェリルに飛ばして、それを見てキョトンとした。
どうやら彼だけは、そういうわけでもなかったらしい。彼らしいサポートにシェリルはじんと胸が熱くなるようだった。
しかしドンと机をたたく大きな音がして、一気にその場は静まり返る。注目を集めたのは、エルウッド公爵……つまりはクライドのお父さまだ。
彼はたっぷり間を置いてから、斜に構えた態度で、片方の眉をあげて口を開く。
「この機会を商機に変えるというのは素晴らしいことだが……しかしな。そんな重要なことをこの騎士団長である私を差し置いて決められては困る。話をきちんと通していただかなければ、これでも国の軍事を統括する役目があるのだからな」
「それは、理解していることですわ。昔からあなた方には騎士団の統括を任せていて、わたくしたちもその仕事を蔑ろにしているわけではありませんもの。しかし今回は時間も余裕も足りないことをわかっていただきたいのです」
ロザリンドは冷静な声で返す。彼らはその立場を任されるだけあって王家とともに古くから存在する家系だ。
尊重されて然るべきではあるが、今はそんなものを重視している場合ではないというロザリンドの言葉の方が正しく思えた。
「そもそも、それが私は不思議でなりませんな、ロザリンド王妃殿下、サイラス国王陛下。果たしてそれほど我々が負担を増やさなければならない自体なのかも怪しい」
「……なにを言いたいのかわかりませんわ」
「ですから! そもそも今のところ、騎士団で対応はできているという話だ。そんなまどろっこしいことに人的資源を割いていたら対処できるものもできなくなる。今、こうして我ら上級貴族がきちんと集まれていることがなによりの証拠ですぞ」
「それは、同意できかねる発言ですわ。エルウッド公爵」
「同意できようが、できまいが私が騎士団団長だ、私が一番、国の防衛について理解している。あんな畜生どもに我ら貴族が負けるわけがないでしょう?」
彼の言葉に多くの人間は言葉を失った。まさかそんなところから背中を刺すようなことをしてくる人間がいるとは思っていなかった、もちろんシェリルも。
どう考えても彼は、魔獣と戦ってすらいない、それができるような体型ではないように見受けられる。
しかし彼以上に現場のことを知っている人間などこの場にいるはずがなく、すぐに異論を唱える人間はいない。
「……」
「……」
ロザリンドもサイラスも現場のことを知っていようとも、自分たちが与えている彼に対する権力を無視して指摘をすることをしてしまえば、彼をまったく尊重しないことを意味してしまう。
その判断を早急にして、騎士団を纏める一族を挿げ替えるようなことをして今この国が果たして持ちこたえられるのか、そんなことが頭をよぎった。
「負けているところを俺は何度も見たが、エルウッド公爵」
すると真後ろから、とても鋭い声が響いて、あまりの機嫌が悪そうなその声にシェリルですらびくりとした。
そして、視線を向けた彼らも同様に驚きの表情を浮かべていた。
「騎士団を統べる家系の一員として、いち騎士団員として言わせてもらう。あれらはただの獣ではない。エルウッド公爵の言葉はすべてが正しいわけではない」
きっぱりと言ったクライドに、エルウッド公爵は鬼のような形相を浮かべたが、その言葉にいち早く答えたのはサイラスだった。
「そうだな。いくらエルウッド公爵と言えども、状況を見誤ることもあるだろう。それを訂正し正す良き子息がいることは素晴らしいことだ。この話はハリエットが提案した案を採用し、騎士団と協力して新しい契約に向けて動き出すことにしよう」
「っ」
即座にそう取り決めたサイラスの言葉を、さすがにエルウッド公爵でも否定することはできなかったようで、会議は一旦結末を迎えることになった。
緊張や意外な展開に疲れる会議になったが、国としてその結末を取り決めたことは良かったと思う。
完全に全員が納得とはいかなかったが、それぞれが具体的な調整のために、話を持ち帰るという流れになり、シェリルたちもやっと長い会議を終えてウィルトン伯爵家に戻ることができたのだった。




