45 賽
「それは、以前と同じ契約内容で、契約者としての権利があるものの中から精霊様に直接選んでいただくという方法です」
「精霊様から……?」
「権利のあるものというのは、王家の血を引いている人間ということか?」
「ええ、間違っていません。王家の血筋の中から契約者として相応しい人を人選してもらう。その選定条件は私たちにはわかりません。しかしルーファス王子殿下が言っていた条件は満たしていると思います」
彼は目を見開いて、周りの反応をうかがう。
「王家の血をひくものなら誰しも、民のために身を削りその一人の犠牲で多くの人を救うことができる誉れ高い仕事につきたい……そう願っていると、お聞きしました」
「っ……」
「ルーファス王子殿下のそのお心に沿って、考えた代案です。もちろん覚悟がおありのルーファス王子殿下は快く受け入れてくださると思っております」
シェリルの言葉にその通りだろうと貴族たちも納得顔だった。そして、今まで黙って話の流れを見ていた、サイラスも口を開いた。
「なるほど、元ウォルフォード伯爵はやはり、精霊様に対する解釈が我々とは格段に深いのだな。損をするという言葉はその通りだ。しかし彼らが自由に選定するのならば不満にも思わないだろう」
そしてロザリンドも続く。
「ええ、そうですわね。わたくしたちも、ウォルフォードの血筋の者も同じ王家の血筋を持つ者、その覚悟はできて当然。そうでなければ、今までと同じように平和をのぞむことなどできませんから」
「わたくしも、同意しますわ。シェリルが一生懸命に考えたことなのですから」
ロザリンドの言葉に続いてハリエットも宣言する。彼女は完璧に納得しているわけではないと思うが、それでもシェリルの意図をくみ取ることに成功したらしい。
そして三人の声を聴いてルーファスの表情はあからさまに強張った。
それを見てシェリルは机の上において置いたサイコロを手に取って、追い打ちをかけるために口を開いた。
「まずはサイラス国王陛下、ロザリンド王妃殿下、ハリエット王女殿下に同意していただけて良かったです。誰になるかわからない以上は全員の同意が必要不可欠な提案だと思いますから」
「そうね」
「実際、精霊様の好む人がどんな人かはわかりません。若い人なのか、将来有望な人なのか、一番潤沢に魔力を持った人なのか、清らかな心を持った人なのか……そしてそれがわからないまま選ばれる状態は、きっとこれを転がしてどの目が出るかわからないのと同じです」
人間の側から見れば完全にランダムであって、誰でもそうなる可能性がある。
魔力を極限まで吸い取られて、つらい思いをして人の幸せのために毎日を過ごす、娯楽も外出もまともに楽しむことができずやせ細って、ただ生きながらえる。
そんな日々が、王家の血を引く人間の誰にもそんな日々がやってくる可能性がある。
それを視覚的に表すためにシェリルはサイコロを掌の中に置いてルーファスに見せた。
「一の目を私、二の目を妹であるセラフィーナ、三の目をハリエット王女殿下、四の目をロザリンド王妃殿下、五の目をサイラス国王陛下、そして六の目をルーファス王子殿下としてみます」
考えていた順番にあてがってシェリルは賽を目の前にいるルーファスに向かって放った。
……どうかご加護を。
そして、目を閉じて精霊に願った。それが意味のある行為かどうかはわからない。
それでも願いたくなったからそうした。
固い机の上を、カコンとサイコロが跳ねる音がする。そしてコツンという音がしてゆっくりと目を開く。
目の前の彼を見れば、その結果など見るまでもなくシェリルの策は実を結んだことを知った。
「六の目、つまりこの場合はルーファスが契約者となるのだな。要領は理解した。やはりそれでも私は、精霊様の思し召しと考え、受け入れることにしよう」
「ええ、サイラス。それで━━━━」
サイラスとロザリンドはシェリルの実践に納得した。彼らにはきっと本物の決意と人を統べる王族としての覚悟があるのだろう。
そのシェリルの提案を決定しようとしていた。
しかし動揺したような声が響く。
「いや! あ……いいや、その、いや、まさかそんな私が……」
彼はこうして自分の目が出たところを見て、どうしても声をあげずにはいられなかったらしい。
これはただのイメージであり実際にこんなふうに決まるとも、彼になるとも決まっているわけではない。
それでも、自分にもその可能性があって、その苦悩を背負うことになるその可能性が現実味を持って、ルーファスに届いたのかもしれない。
「私は次期国王として、ただ民のためを思って、それなのにこんなその、違うんだよ、父上、母上、そうじゃない、けれどそんな立場になるなんて」
動揺して注目を集めると彼は、違うんだと言いつつも焦って言葉を重ねる。
「そんなのってどうなのかな? 私は、私が? ありえない、私は皆のために今も尽くしているだろう、どうしてそんな目に遇わなくてはならない」
言葉を重ねれば重ねるほど、貴族たちの目線も、そして彼の家族の目線も厳しいものになった。




