4 事実
アルバートはシェリルの言葉にむかついたのか目くじらを立ててシェリルの方へとズイッと近づいてガンを飛ばす。
それから、勢いのまま像を指さした。
「じゃあ、やってやるよ。見てろ、別に王族ならだれがやったっていいんだろ!」
「っそ、それは!」
アルバートはずんずんと像に向かって歩き出す。
「ハッ、でも君は簡単にできると証明されたら私の言うことをちゃんと聞くんだぞ」
シェリルは焦ったような顔をして、彼を止めるために像へと進む彼に手を伸ばす……素振りをした。
そしてダメ押しのセリフを言う。
「ダメ!」
できるだけ大きな声で、しかし彼は止まらない。きっとアルバートは、シェリルがそうされてしまえばこれ以上大変なふりをできなくなると焦っていると、思い込んでくれただろう。
しかし実際には、ただの制止の言葉、きちんとシェリルは止めた。
そしてなにより、彼がきちんとこのことを知っていたならば、起こらなかった事故。
「ひっう、ひぐぅぅうぅぅ!!??」
「……」
「あぁ、っ、あっ、あ! た、ひぃ、たすけぇ」
「……ダメだと言ったのに」
像の魔石は彼の魔力で煌々と輝き、すっかりシェリルの魔力などなくなってしまった。
そして魔力を抜かれた彼はその場にへたり込んで、呂律も回らない様子。祭壇に体を預けて非常に情けない姿だった。
もうこれですでに手遅れの状態だったが、シェリルは目を細めて、彼をすぐに支えた使用人たちになど目もくれずに、しゃがんで目を合わせた。
「ところでどうかしら。たいしたことはなかった?」
小首をかしげて問いかけると、彼は頬を引きつらせて、眉間にしわを寄せる。
とてもそんなふうでは無かったが、シェリルに大きな顔をされるのがよっぽど嫌だったのか、彼は声を震わせながらも言った。
「どぅ、どうってことない、君は、おおげさ、なだけだな!」
「……そうね。たいしたことのない苦労だった。それでいいわ。誰に会ってもそう言ってあげる」
すると彼は勝ち誇ったようにハッと笑みを浮かべたけれど、シェリルは続けて言った。
「だってもう、その像の魔石を私の魔力で満たすことはできないもの。あなたの持つ魔力を超えることは不可能、魔法具はより強い魔力を持ったものを選んだのよ、だから私はお役御免ね」
小さく笑みをうかべる。
何故そのようなことが言えるかというと、常に酷使されて来たせいで幼いころからくらべて、魔力総量の伸びが悪く、シェリルは王族にしては魔力が多くないからだ。
健康な彼の潤沢な魔力の総量は、シェリルよりもずっと多い。
そして魔石の中の魔力の残量はタイムリミット。これが無くなれば契約はなくなり、国は安全ではなくなる。
「え……はっ、はぁ、なにを言って……」
「だから、この魔法具の契約者は王族一人だけ、そしてそれは魔力を注いでいる人間の中で一番魔力総量が多い人間が選ばれる」
「……?」
魔力の総量を判定されて契約者が変わるなど、常識的に考えればとてつもない複雑性を持った契約だが、そもそもこの契約は神にも等しい精霊との契約で魔獣の損害を国からなくすというものだ。
そんな膨大な利益をもたらし神の所業としか思えない契約内容に比べたら、魔力をささげる中で一番魔力を多く捧げることができる王族を選定し、契約者にするというのは人間の理解の範疇の中の契約ともいえる。
「この魔法具を扱う人は、贅沢と楽をして、悠々自適に暮らせる。それは、できるだけ長生きをさせて今の契約者の魔力を衰えさせて総量を下げて、次の世代で若干上回る子供を使って継承できるようにするためよ」
そうして王族の魔力的損失を少なくするために、傍系の子供が使われる。
そしてまた、王族から血を混ぜて、シェリルが老衰して魔力の総量が少なくなる頃に、それを少し上回る程度の子供に継がせる。
そんなふうにこのサイクルは進んできた。契約者をウォルフォード伯爵として優遇し、そして次の世代にできる限り損失なく継がせることができるように。
しかし、それでは話がおかしい。どうしてこんなに彼が疲弊するまで魔力を抜かれてしまったのか。と彼は疑問に思っているのだろう。
その疑問を晴らすためにシェリルは丁寧に教えてあげた。
「ただそれだけだと、こんなになった理由がわからないわよね。それはね、この魔法具が、一定量の魔力ではなく、生命維持に必要な分以外のすべての魔力を奪うからよ」
「う、嘘だろ。なんてことを……」
「でも大丈夫よ。あなたも、この屋敷で悠々自適な生活を送って老後の魔力が弱まる時期になったら解放されるのだから。不慮の事故で、私が止めたにも関わらず契約者になってしまったけれど、たいしたことない仕事だもの、余裕よね」
彼は力の入っていない震える手を必死になってシェリルに向ける。
その手が引き留めようとするものなのか、怒りのままに乱暴にしようとするものなのかシェリルにはわからない。
しかし、軽く払って同情も憐憫も何も感じることなく見据える。
どちらにせよ、もうシェリルは彼のことを理解しようとも受け止めようともしない、彼が最初にそうした通り、シェリルにだってそうする権利があるのだ。
「さようなら」
短く言って、礼拝堂を出る。
きちんとクライドはついてきて、そのまま手はず通りに行動するのだった。




