37 待ち人
到着した王城は、以前来た時よりもずっと閑散としていて、国の非常事態を嫌でも実感するような状態だった。
しかし、エントランスホールにはたくさんの従者を連れた一人の男性が立っており、彼はにこりとした笑みを浮かべてシェリルたちの方へと歩みを進める。
「ル、ルーファスお兄さま」
隣でハリエットは小さくそうつぶやき、その声はどこか警戒心をはらんでいるような気がした。
彼はそばまで来て、シェリルに目線を向け口を開く。
「やぁ、ごきげんよう、ウィルトン伯爵」
「お久しぶりでございます。ルーファス王子殿下……」
続けてご機嫌伺の言葉を続けようと思ったが、お日柄だってよくないし、この緊急事態にどうして彼がこんなところにいて、シェリルたちに声をかけてくるのかなどわからない。
彼の意図を探るように、シェリルは少し笑みを浮かべながらもカーテシーをしてそのまま彼を見た。
「こんな危険な中でよくここまで来てくれたね。弟の失態のせいで、君もとても心苦しい思いをしていると思う、申し訳ないと思っているよ」
「いえ、ルーファス王子殿下がそんなふうに思われることでは……」
「ありがとう、そう言ってくれて。それでこれからハリエットの力を使ってこの問題を対応するための新しい契約について話し合うので間違っていないかな?」
彼は、申し訳ないと言いつつもそのような素振りはあまり見せず、話を先に進める。
彼の言い分からして、ハリエットが出発前に声をかけて彼とも協力して、新しい契約のために動きだそうとしているのだろうかと考えた。
「それは……間違ってはいませんわ。でも、わたくしはシェリルとともにまずは草案を固めて、それからお父さまやお母さまとの話し合いをへてお兄さまに共有をと考えていたのだけれど」
「いやいや、ハリエット。そんな水臭いことはやめてほしい。私だってこの状況を憂えていて協力を惜しむつもりはないんだ。それはわかってくれるだろう?」
「も、もちろん。ルーファスお兄さまの協力があれば心強いと思っていますわ。お兄さまは多くの方に伝手を持っていらっしゃいますし」
しかしハリエット自身もこの状況は予想していたものではなく、馬車の中で話をした通りに、二人きりで話し合いをするつもりだった様子だ。
そんなことは気にせずにルーファスは自分もその輪の中に入ってしかるべきだと考えているようだ。
……たしかに、次期国王と目されているルーファス王子殿下と話を纏めて彼も了承をすれば大きな後ろ盾になるもの。彼の言葉は間違ってはいない、はずよね。
「それに、ルーファスお兄さまはアルバートお兄さまについての対応をお父さまから任されていてお忙しいはずですわ。こんなことに時間を割いていて、よろしいのかしら」
けれどもハリエットは彼の協力を快く思っていないのか、別の仕事があることを思い出させるように言う。
あからさまではないけれど、喜んで彼を迎え入れたいとは思っていないのが伝わってくる。
「ああそれはいいんだ。それにこちらの話がどうなるかわからない以上は貴族たちに対する姿勢も変わってくるだろう。私もその話し合いに参加することにしよう。いいね?」
「……ええ、構いませんわ。ほかでもないルーファスお兄さまがそうおっしゃるのでしたら」
「では行こうか」
そうして彼が主導権を握るような形で彼も参加をすることになる。
彼のような立場の人間に、そんな言い方をされては断ることもできない。
なにか嫌な予感を覚えつつもハリエットが用意していた応接室に入り、三人で腰を据えての話し合いをすることになった。




