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【連載版】たいした苦悩じゃないのよね?  作者: ぽんぽこ狸


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23 方法



 エルズバーグ公爵に取次ぎを頼み、シェリルは元ウォルフォード伯爵として重要な話があると王妃殿下に話を持ち込んだ。


 ハリエットのことだと言うと、彼女はなにか思うところがあったのかすぐに対応してくれて、ハリエット、シェリル、ロザリンド王妃殿下の三名での話し合いが行われることになった。


 相談はしたけれどまさかロザリンドを巻き込むと思っていなかったハリエットは、急にシェリルが行動に移したことに驚いていて戸惑っている様子だった。


 しかし、先日ハリエットに会いに来た時のことを考えると、ハリエットに根回しをしようとしても、きっとケアリーの目をかいくぐることはできない。


 だからこそ、困惑させることはわかっていてもシェリルは独断でその場を設けた。ハリエットの後ろには、この件の事情に関係の深いセラフィーナとケアリーの姿があり、ケアリーはシェリルのことを厳しい視線で見ている。


 形式的な挨拶と少しの雑談を交わしたあと、ぴしりとまっすぐに背筋を伸ばしてロザリンドは切り出した。


「……それでウィルトン伯爵。精霊の契約者であったからこそわかるハリエットの……特性についてとはいったいなんなのかしら」


 彼女は真剣な顔をしていて、少しだけシェリルを疑うように緊張しているのがわかる。


 きっとシェリルが突拍子もないことを言って王家をだまそうとしてはいないだろうかと警戒をされているのだろう。


 しかし、そんな警戒などシェリルはまったく怖くない。ただ事実を伝えるだけなのだから。


「ええ、まずはお見せした方が早いと思います。ロザリンド王妃殿下、先に伝えてあった契約の魔法具はお持ちいただけていますか?」

「言われた通りに、用意させているわ。こちらへ」


 確認するように言うと、背後に控えていた侍女がワゴンに乗せた魔法具を丁寧に机の上に、移動させる。それは特殊な筆記用具の一式で、彼らはこれを使って国に必要な決めごとを契約魔法として定めることができる。


 代々国王夫妻だけが利用を許され、大切な場面での契約を必ず守らせるために利用されるのだ。


 そして、これを王家が所有し管理しているからこそ、国を統べることを神から許されている。


 精霊の守護像も昔のその魔法を自在に操れた卓越した一人の王族によって契約を結ばれた代物であり、その恩恵は計り知れない。


 だからこそその力の特別性は誰もが理解していて、このセルレアン王国の王家の座を狙う者は歴史的に見てとても少ない。


 ただ、その王家が王家たる所以の伝説、それはその契約の魔法を操ることができるからというだけでは成立しないだろう。


「ありがとうございます。……それで問題のハリエット王女殿下の聞こえる声についてですが、ハリエット王女殿下ご自身も、皆様もその正体が気になっていると思うのです。その魔法具を使うことによって特定することができると先代の手記によって記載されておりました」

「たしかにウォルフォード伯爵家には多くの資料があると思うけれど、特定とは具体的にどのように契約を使うのかしら、ウィルトン伯爵」

「簡単なことです。ハリエット王女殿下が聞こえる声に従ってほんの些細な契約を結んでそれが、本当にそこに実態は存在していなけれど実在しているなにかならば契約は締結されるはずです」


 シェリルの提案はわかりやすく単純なものだった。


 しかしとても神聖なものであり国にとっては宝物と言っても過言ではない契約の魔法具は、あまり多く利用の機会を持っていない。


 ただの道具ではなく、彼らにとって大切なものだからこそ使用用途を限定しているのだろうこともシェリルは理解していた。


 そしてやはりロザリンドは怪訝そうな顔をして小言をいうようにシェリルに返す。


「娘の聞こえている声がどんな者の声かわからない以上、それは何度か試行する必要があることね。本来、こんなふうに相手の特定のために利用だなんてことは考えられない使いかたですのよ、ウィルトン伯爵」

「存じております、ロザリンド王妃殿下」

「……」

「ウィルトン伯爵、その、わたくし、やっぱり」


 自身の母が渋っている様子を見て、今まで事の成り行きを見守っていたハリエットは声をかけて、彼女もそんなことで、魔法具を使わせる訳にはいかないと思っているようだった。

 

 それにさらにかぶせるようにケアリーも言った。


「そうです。こんな年端もいかない小娘の戯言など真に受ける必要などありません、ロザリンド様! こんなことのために契約魔法具を利用なさるなどバカバカしい、インクを無駄に消費するだけです」


 無駄になると決めつけて言う彼女は、きちんと否定しなかったハリエットをにらみつけ、頭が痛いような仕草をしてさらに強くロザリンドに抗議しようとした。


 しかし、ロザリンドはケアリーの言葉を聞き流すことはなく、少し怪訝な表情をした。


「無駄ですって?」

「そ、その。その確率が高いという話です、なにも必ずそうとは」

「そうよね、わたくしの娘の苦しみがどんなものか特定することができる、それだけで無駄とは言えないはずだもの」


 いくらハリエットの侍女頭で母親代わりとはいえ、ケアリーはロザリンドに逆らうことはできないようだった。


 ケアリーがそうして訂正すると、ロザリンドは娘を想いやる言葉を言って、自分の言葉に納得したように彼女は一つ頷いてから、シェリルの方を見た。


「例外的ではあるけれど、せっかくの提案ですもの。採用させてもらうわ。ウィルトン伯爵、どのような契約を提案したらいいかしら」

「それは、ハリエット王女殿下の聞こえる声に従えばいいのです、きっと提案してくれるはずです」

「あら、そうだったわ……ハリエット、聞こえるかしら」


 提案したシェリルにどんなことを契約したらいいのかと問いかけたロザリンドにシェリルは目線を送ってハリエットのことを示す。


 ロザリンドも少し優しげな声でハリエットに問いかけた。


「……」


 ハリエットは注目を集めて、やることが決まっても不安そうにしていたが、少し息を吸ってそれから耳に手を添えて、目をつむる。


 彼女は口の中だけで言葉を発するみたいに小さな言葉をつぶやいて、時折首を傾げたり、小さく首を振ったりして、それから少し笑って目を開いた。





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