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第26話:生こそ万物の序章なり

 最終回です。


 わたし達の戦いは終わった。

 最後の敵、ネクロゴスは突如として機能を停止した。


 そこに接続されていた、わたし達の慣れ親しんだ巨体もまた……。



「あのお方は……果ててしまわれたのか。ならば私も殺せ。もはや、私に勝ち目などあるまい」


 エプカは降参した。


「姉さん。死んで終わりにするなんて、誰でもできるけど、あんたは被害者でもあるんだ」

「……レキリア。やはりあの時、見かけたのはレキリアだったのだな」

「ガシャドゥークの時か……」

「ああ。見間違いである事を何度も願ったが、あのお方への誓いも裏切れぬ。葛藤は思った以上に厄介だったよ」


 なんということでしょう。エプカがレキリアさんと姉妹だったなんて。


「……時々、思うんだ。ウチが出ていかなければ、もしかしたら姉さんは助かっていたんじゃないかって」

「お前が残っていたところで、犠牲者が一人増えるだけだったさ」

「姉さん……」

「私は今から、お前に付いていった友人達の所に行くよ。謝る事が一杯ある……」


 エプカは、そう言い残すと静かに目を閉じ、それきり何も言わなくなってしまった。

 既に死んでいた命。どうすれば良かったのだろうって胸中の問いに、きっと答えなんて無かった。


 あんなに憎んでいた筈の顔が、今ではひどく哀しく見えた。




 ああ……わたしは、何ができただろう。

 勇者様は世界を救ったけれども、わたしは何一つ残せてすらいない。




 わたしは既に疲労困憊で、足を一歩動かすのにもひと苦労だ。

 もしも今この瞬間、まだ世界のどこかで残党のレヴノイドが暴れているならば、それを今すぐにでも鎮圧しに往く義務が、わたしにはあるというのに。


 王家の残してきた疵痕は、無数にあるのだ。

 わたしは身体も魂も、この世界オルグレムに捧げねばならない。


 だから、動け、わたしの膝。



 ゆらり……

 視界は揺れて、わたしは両足から支えを失った。


 けれど。

 顔が地面に打ち付けられる事は無かった。

 誰かがわたしを抱えてくれていた。


「大丈夫かい」

「ありがとうございます……助かりました」


 見上げる。

 はて? この殿方は、誰だろう?

 黒髪の、優しげな笑みを浮かべる人。

 初めて会った筈なのに、何故か慣れ親しんだ気配がする。


「どこかで、会いましたか?」

「俺は或破理恩あるは りおんというのだけど、この名前に聞き覚えはあるかな?」

「……勇者様!?」


 わたしは思わず素っ頓狂な叫びを上げてしまって、それに驚いたレキリアさんが駆け寄ってきた。


「なに~!? 勇者君ついに復活か!? ――って、なんだよ。人間サイズのボディを作ってやる約束だったのに、そんなアッサリとゲットしちゃって良かったのかよ?」


 レキリアさんがいつもよりちょっとだけ饒舌なのは、きっと気のせいなんかじゃない。


「到着が遅くなったニャ!!」

「ぽっと出のボクらでも、出番があるだけマシだと思わないとだミャ!」


 なんてやってきたメリーとハリー。そんな二人に対して、レキリアさんは。


「あ、いたの?」

「ひどいニャ!! ちょっと途中の部屋でドーナツ見つけてつまみ食いしてただけだニャ!!」

「姉さん、あれたぶん腐ってたミャ」

「うッ……おなかいたい」


 ああ、たくましいなあ、みんな。


「ふふ……あっははは!!」

「姫様……やっとあんたらしい笑い方をしたね。そうだろ、勇者君?」

「確かに! “焼却炉を満たす者”が帰ってきた」


 わたし達、ちゃんと生きてるんだって思える。やらなきゃいけない事は山積みだけれど、みんなに支えてもらえるなら、きっと……。



<<―― ヴァルハリオン視点 ――>>



「……――既に国は滅び、本来償うべきだった国王陛下もまた、死霊帝国ネクロゴスよりやってきたレヴノイド達によって死に追いやられました。では、代わりに誰がこの荒れ果てた世界を回復に導くのか。それは俺、あいや、私、ヴァルハリオンが主導として、その役割を果たします」


 パチパチパチパチと拍手が響き渡る。


「それまでの王制を改め、共和制とし、どうか皆さまも共にこの世界を導いて欲しいのです。

 俺は英雄なんて呼べる器じゃない。たまたま大きな力を手にして、それを導いてくれる人がすぐ近くにいただけ。

 そう、人間なんです。それでも世界を荒廃させたネクロゴスを打倒したのは、ひとえにみんなで力を合わせた結果です。

 一人だけじゃ駄目だ。みんなで! もう一度、やり直したい。その力を、貸して欲しい。以上です」



 今度は、拍手に加えて声援も。



 凱旋と、俺とエールズの結婚の発表。

 それから王制廃止と共和制への転換。

 これに至るまでに数週間を要した。


 移動しながら、避難民をかき集めては炊き出しや復興支援をして、の繰り返しの中で辿り着けたのだから、もっと褒めて欲しい。




 ……王家は過去のものとなる。

 けれど、伝説は永遠に残る。


 エールズ。罪滅ぼしを考えすぎるな。

 君の親は、既に暴虐の対価を充分すぎるくらいに支払った。


 だから、君の両肩にその負債がのしかかるなら、俺はその度に、何度でも肩代わりする。

 君には、君の人生を生きて欲しいから。


 俺はもう充分だ。柔らかいベッドで眠れるし、ごはんも美味しく食べられる。

 君を抱きしめることだって、頭を撫でることだってできる。

 その……口づけだって……。


 それだけで充分だから、残りは全て、君に捧げるよ。


 復興支援、手早く終わらせられる所は手早く終わらせちゃおう。

 たとえば今回の、ネクロゴス残党退治みたいに。



 俺はヘッドマウントディスプレイを頭に装着し、ヴァルハリオンのシステムを起動する。

 レキリアが開発してくれたこれのおかげで、俺は今までどおり(?)の操縦方法でヴァルハリオンとして動けるのだ。


「ヴァルハリオン、発進!」

「はい、旦那様!」

「旦那様はやめようって、エールズ! 俺の事は名前で呼んで欲しい」

「ご、ごめんなさい、理恩さま――えっと、理恩」

「……良し」


 赤面するエールズ。

 隣のレキリア達は口々に「めんどくさいぞー」「好きに呼ばせたらいいニャ」「ミャー」などと囃し立てる。



 俺はきっと、死ぬまでヴァルハリオンと共にある。

 俺自身が巨大ロボじゃなくなって、俺もパイロットみたいになったのが今までとの大きな違いだけど。


 前みたいに無茶はできないし、人並みの生理現象とか三大欲求とかにも悩まされる。

 人体部分がやられたら、二度と復活できないだろう。

 首だけになっても動けないと思う。


 けれど、それでいいんだ。

 エールズの体温と鼓動を、柔らかな香りを感じ取れるから。


 いつかこの世界が、快適に過ごせる程度には平和になったら、その時は小さな家を建てようね。


「愛してるよ、エールズ」

「はい、わたしも!」


「妬けるねぇ~……分解してやろうかリア充!」「煮干し追加を要求するニャ」「ミャ……」


 賑やかだなあ。



 この度は最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございます。

 2016年の1月からゆっっっっっっっる~~~~く続いた拙作も、ひとまず完結とさせて頂きたいと思います。

 数々の感想、宣伝ツイート、レヴューを頂いた皆さまにおかれましては、本当に感謝してもしきれない程の御恩に、ただただ平伏するばかりでございます……!!


 現在進行形で連載中の他の作品にもお付き合い頂ければ幸いでございます。

 それでは、良き小説生活を!

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