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第25話:冥府の決戦! 静かなる軍勢……


 パチ、パチ、パチ、パチ。


 小さな拍手が遠くから聞こえてくる。



 気が付けば俺は、真っ暗な空間に寝転がっていた。


「いや、まさか首だけになっても、あんなに長く生き延びるなんて。普通は持って数十秒だ」


 ネクロゴスの声だ。

 けれど、さっきまでみたいにエフェクトが掛かっていない。


「つくづく、とんでもないボディに転生したようだね、ヴァルハリオン。いや、本当の名前は何だ? 日本人なんだろう?」


 なんでそれを?


「ほら、教えてごらんよ。僕に」

「なぜ教える必要が――」


 起き上がると、目が合った。

 俺の前世と同じくらいの身長で……同じ日本人だった。


 何より目線が同じくらいの高さっていうのは……俺も今、前世の姿に戻っているのだろうか?

 そりゃ確かに、解っちゃうよな……。


「ほら、教えてごらん。君はどうして死んだのかな?」



「俺は、住んでいたアパートが火事になって、逃げ遅れた人を助けたら、崩落に巻き込まれて死んだ。助けた人は無事らしいけどね」

「……」


 なんで、そこで面白くなさそうな顔を?

 あからさまに不機嫌そうだ。


「奇遇だねぇ。僕も住んでいたアパートが焼けちゃったんだよ。奈廊ハイムの105号室」


 ――!


「俺もそこに住んでいた!」

「……君は住人助けたヒーロー、一方、僕は家を焼いた間抜けな悪いやつ、か」


 お前か。お前が犯人なのか。

 色々と問い詰めたいけど我慢、我慢……こういう時は、答えやすい質問を選ばないと。


「失火の原因は?」

「それは秘密」


 しくじった!!!

 なんだよ、それ……。


「けれど、おかしな話じゃないか。俺のほうが先に死んでいたのに、俺のほうが後から転生してきたなんて」


 なんて言うと、ネクロゴスは目をそらして、少しだけ皮肉げに笑った。


「たぶん僕のほうが先に死んでたよ。一酸化炭素中毒だろうね。で、あっちの世界での一瞬の差が、こっちの世界では何年もの開きになっちゃったのは、魂の移動速度だろう。

 僕のほうが行動力に満ち溢れていたってワケさ」


 行動力、ねえ……。

 その行動力の結果、家を焼いた事はスルーなのか?


「今度はレヴノイドとしてやっていかないかい? 君は充分、善行を積んだじゃないか。前世でも、今回も。そろそろもう飽きた頃だろ?」

「いや全然」

「は?」


 ……。


「いや。“は?”じゃないでしょチミ! なんで同意するの前提なんだ!? 世界の平和が掛かっているのに、飽きるもクソもあるか!」


 流石にそんな感性は持てないよ。


「うはは。あくまで人間側に寄り添って考えるんだね? あれだけの力を持ちながら!」

「そりゃあ元が人間だし、なるべくなら人間に戻りたいし」

「牛や豚も同じように考えるか?」


 知らないよ。


「これ以上傲慢な奴にはなりたくないんだよ。どんなに力を持っても、自分が人間であったことを忘れないようにしたいんだ」


 じゃないと多分、単なる怪物になっちゃうからね。


「ああ、そう……」


 ネクロゴスは、メキメキと音を立てて大きくなっていく。

 人間の姿から、巨大な機械クラゲの姿へと変化していく。


「決めた。お前を乗っ取って最強のボディにする。ついでに改造する」


 なんて言い出した。


「精神世界での戦いとは、いかにもお約束めいた展開じゃないか……!」


 こっちは人間のままだけど、知ったことか!! 見ろ、この右手に光るバルムンクを!!

 これが、どうにかしたいという“想い”の結晶だ!!


「行くぞ!」


 ゴッ


 ズベシャッ


 キィイイイインッ


 俺は人間の姿なのに、あの巨大ロボの時と同じように動けていた。

 バルムンクで触手を一本、また一本と切り落としていく。

 だがネクロゴスは……


「ほら、見ろよヴァルハリオン。お前が喧嘩を売らず大人しくしていたら、僕の防衛システムだってこんなに頑張らなかったし、そっちに犠牲が出ずに済んだんだよ」


 空中に浮かび上がるモニターには、俺の仲間たちが奮戦している姿が映されていた。

 ……。


「君の、言うとおりかもしれない。

 ……けれども、そうしていたら一方的に殺されていた。命がおびやかされているなら、立ち向かうのは悪いことじゃない」

「ああそうさ!! 立ち向かう権利は保証されるべきだよ!! そうでなくてはならない!」


 いや、あなたがそう言うと胡散臭いんですが……。


「立ち向かう権利も、僕達が蹂躙する自由も、どちらもあってもいいじゃないか! それこそが、強者を生み出すプロセスだ!」

「……いや、それはない」

「何ィ!?」


 ……だって、そうだろ。


「それだけがプロセスなわけでもなければ、それが好き勝手をする為の大義名分にも成りえない!」


 真っ暗な空間の中に、見知らぬ人の姿が次々と現れる。

 それぞれ一人一つずつ、俺が今まで入手してきたアーティファクトを模した武器を持っていた。


 もしかして……レヴノイドの元にされていた人達かな?


「お前、この野郎……!」

「いや俺なーんもしてないからね!?」

「嘘つけテメーこの野郎!! 絶対、何かした!! 魂の共鳴とかそういう奴!」

「もう一声、もうちょっとこう、語彙力を磨こう!?」

「うるせええええええ!!! ラスボスに語彙力なんていらねー!!」


 いや、要るでしょ語彙力。



「我ら“ネクロゴス被害者の会”は、この召喚を機に形勢逆転を図るものとする!! 総員、勇者ヴァルハリオンに続け!!」

「「「おおおおおおおおお!!!」」」「しんどい」


「ど、どどどどどどういうこっちゃ!!」


「自分の胸に訊いてみろ!」「はぁーしんどい」

「よくも俺達を騙しやがったな!」「それな。しんどい」

「何が闘技場だ! 俺の意識なんて、うたた寝くらいしか残されちゃいなかったじゃないか!!」「マジでしんどい」

「シンドイナーうるせえぞ!」「うん」


 圧巻だ……。

 ネクロゴスはあちこち破壊しつくされて、袋叩きに遭っていた。


 防衛システムも次々とダウン。

 ウィンドウの映像は、あっという間に力関係が俺達の優勢へと変わっていた。


「今だ、ヴァルハリオン! とどめを!!」


 ネクロゴス被害者の会の人達が光の塊となって、俺の手元のバルムンクに集まる。

 バルムンクは巨大な光の剣となった。



 俺の視線の先には、ボロボロになったネクロゴス(人間体)。


「何故、僕は、僕の選んだ人々を笑顔にしたいだけなのに!!」


 ……。


「来世でヒカキンさんの動画でも観て研究してみなよ」

「ここにきてダイマかよテメエエエエエエエエエ!!!!!」


 ズドオォオオオオオオオオオオオオオオオ……

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ



 そして俺の視界は静寂に包まれた。



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