表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/77

21. レドーラ王国王太子殿下の視察

 充実した毎日は瞬く間に過ぎ、気付けばユーリの誕生日から数ヶ月が経っていた。

 仕事の傍ら治癒術の訓練に励んでいた私の腕はめきめきと上がり、ノエル先生も感心していた。


「このまま腕を磨き続ければ、レイニーさんは来年の資格試験に合格できるかもしれませんね」

「ほ、本当ですか? 先生」

「ええ。さすがに来月に迫った今年の資格試験はまだ厳しいでしょうが、あなたには充分な素質があります。治癒術師として一人立ちすることは、決して夢物語ではありませんよ。様々な症例を見て学んで、同時に治癒術の訓練も続けていきましょう」

「はい……っ!」


 ノエル先生のその言葉に、私の胸は躍った。この治療院で憧れの白いローブを着て颯爽と歩く自分の姿を想像してしまう。

 早くそうなりたいな。治癒術師としてめいっぱい働いて、たくさんの人を癒して、お給金もたくさんもらって、ユーリに美味しいものをいっぱい食べさせてあげるんだ。それに、新しいおもちゃやお洋服も買ってあげたい。遊園地にも連れて行ってあげたいし、旅行に行くのもいいな。まだ二人で泊まりがけでどこかへ行ったことなんかないし。何より、自分の力で安定した収入の基盤を作れたらどれほど気持ちが楽になることか。

 明るい未来に期待しては胸が高鳴り、私は日々自分を奮い立たせて仕事と育児に励んだ。


 そんな毎日が続いていたある日の出来事だった。

 その日、ノエル先生が朝礼の最後に、皆に向かってサラリと言った。


「伝達事項は以上です。それと、来週隣国レドーラ王国の王太子殿下が、我が国の視察にいらっしゃるそうです。その際に、治癒術を用いた治療を行う施設も見学なさりたいとのお申し出があったようで。王家は我が治療院をその視察先として決定したそうです。皆さん、レドーラ王国王太子殿下がお見えになった際は、粗相のないよう温かく迎えて差し上げてください。では、今日もよろしくお願いします」


(……ん?)


「……ん?」


 私が心で思ったことを、ソフィアさんが口にする。皆がポカンと見守る中、ノエル先生は何事もなかったかのようにスーッと診察室の方へと消えていったのだった。


「え……えぇぇ……っ!!」


 案の定、その後は大騒ぎとなった。

 朝礼に参加していた治癒術師の先生方や従業員たちは皆顔を見合わせ、口々に興奮を伝え合う。


「り、り、隣国の王太子様ですってよ! すごいわ……!」

「どっ! どんなお方だったかしら??」

「たしかまだお若かったはずよ……! 二十代なのは間違いないわね。こ、この治療院にお出でになるなんて……緊張しちゃうわ!」

「間近で王族の方を見られるの!? しかもレドーラ王国の……!? すごい機会だわ! ここで働いててよかったー!」

「お、落ち着け皆! とにかく……掃除だ。まずは院内を徹底的に、隅々まで掃除しなければ……。ら、来週って言ったか? 来週のいつだ??」

「いや、王太子殿下が我が国に視察に来られるのが来週と言っていましたよね? ここにいらっしゃるのがいつなのかは……。ち、ちょっと、俺もう一回ノエル先生に聞いてきますから!」


 ソフィアさんや周りの皆が騒ぐ中、私はしばし呆然としていた。

 レドーラ王国は、私の母国。といっても、貴族の末端中の末端であるシアーズ男爵家の末娘だった私には、縁のなかった王家だけど。

 母国の王族がこの治療院を訪問するというだけで、なんとなく感慨深かった。そして、自然と彼のことを連想してしまう。


(……セシルは、学園を卒業した後は王国騎士団に入るのだと、マリアローザたちが話していたっけ。もしかしたら王太子殿下のそばで任務に当たることもあるのかもしれないな……)


 王族がここへ来られるというよりも、彼の勤め先に近い方が来るのだという事実に、なんとなく胸が熱くなる。まるでセシルのそばに近付いたような、不思議な気持ちだ。

 膨大な人数が所属している王国騎士団の一員であるセシルが、ここへやって来るわけじゃないのに。




「おうしゃまがくるの? ゆーりのおうちに?」 


 その夜。二人で夕食を食べている時に、私の話を聞いたユーリがそう尋ねてきた。ソーセージを刺したフォークを握ったまま、キョトンとした顔でこちらを見ている。

 私は少し笑って、ゆっくりと説明した。


「王様じゃなくて、王子様ね。お隣の国の王子様が、ママが働いてるノエル先生の治療院にいらっしゃるのよ。それでね、王子様をお出迎えする準備とかがあるから、しばらく忙しくなるかもしれないの。保育園のお迎えが遅くなっちゃう時があるかもしれないけど、お利口に待っててくれる?」

「……」


 私の言葉を少し理解できたのか、ユーリは唇を尖らせて俯いてしまった。ふくふくのほっぺを指でツンツンしたくなる。


「ララちゃんたちと遊びながら待っててくれたら、すぐにお迎えに行くからね」


 そう言ってみたら、ユーリは途端にぱあっと明るい顔をして「うんっ!」と頷いた。ララちゃんたちの存在に感謝だ。

 

 翌週。レドーラ王国王太子殿下がこのセレネスティア王国を訪れ、さらにその数日後、王太子殿下御一行は予定通りエイマー治療院を訪問なさったのだった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ