20. 賑やかなバースデーパーティー
「ゆーりくん、おめれとう」
「おめれとー!」
到着するやいなや、ママさんたちに何やら促された小さな子どもたちが、なんとユーリに次々とプレゼントの包みを渡してくれているではないか。ユーリはニコニコしながらそれらを受け取っている。私はビックリした。
「ち、ちょっと……! すみません皆さんこんな……! わざわざプレゼントまでいただいてしまって」
恐縮していると、ママさんたちが微笑んで首を振る。
「いつも仲良くしてもらってるみたいだから、そのお礼も兼ねてよ」
「そうよ! うちのララも、ユーリくんとお友達になってからますます保育園に行くのが楽しくなったみたい。こちらこそいつもありがとうね、レイニーさん」
「ソフィアさん……」
皆なんて優しいんだろう。私も絶対にお返ししなくちゃ……!
そんなことを思いながら、いただいたプレゼントをユーリと一緒に開けていく。
新しいクレヨンセットに、お出かけに良さそうなクマさん柄のリュック。それに、ソフィアさんちからは木製の可愛い馬車のおもちゃ。ユーリははしゃいで飛び跳ねている。
「ララちゃんとアイナちゃんとルークくんのママにも、ちゃんとありがとうしてね、ユーリ」
「あいっ! あいがとうごじゃましゅっ!」
ユーリが元気よくそう言うと、テーブルを囲んでいたママさんたちの顔がへにゃっと緩んだ。
「「可愛い~……」」
それから私は準備していた昼食をふるまった。キッシュやサラダやチキンに、ソーセージと豆の煮込みスープ。焼きたてのパンまでは手が回らず、近所のお気に入りのパン屋さんで買ってきた。たくさん並べたご馳走を、ママさんたちは喜んでくれた。小さな子どもたちもチキンを頬張りはしゃいでいる。
満腹になった子どもたちがテーブルを離れ、奥の方でキャッキャと遊んでいる間に、母親四人はお喋りに興じた。子育ての悩みに、子どもが言った面白い一言。仕事のことや、最近の育児グッズの流行りなど。話題は尽きることがない。
なんて楽しい一日だろう。お友達に囲まれて満面の笑みを浮かべるユーリに時折視線を送りながら、私は幸せを噛みしめていた。
そして、そろそろデザートのケーキやフルーツを出そうかという頃になって、玄関先に新たなお客様が現れた。
「やぁ、よかった。まだお開きになっていませんでしたね。今日の訓練が終わったので、少し顔を出してみました」
「ノ、ノエル先生……っ!」
ドアを開けた私はビックリした。まさかノエル先生がここに来るなんて思ってもみなかったから。先生はニコニコしながら手に持っている大きな紙袋を掲げた。
「ふふ。四家族集まってのパーティーだとソフィアさんから聞いていたから、私からも子どもたちへのちょっとしたプレゼントを持ってきましたよ」
「え……えぇっ!?」
ますます驚いた。ひとまず部屋に上がってもらうと、ノエル先生は子どもたちのそばに寄っていった。
「ユーリ君、本日はお誕生日おめでとうございます。何歳になりましたか?」
「あいっ! しゃんしゃいでしゅっ!」
ユーリが胸を張ってキリッとした顔でそう答えると、ノエル先生は穏やかな笑みを浮かべてユーリの頭をそっと撫でた。
「それは素晴らしい。立派な大人になって、お母さんを守ってあげてくださいね」
「あいっ!」
三歳になったばかりの息子にはいささか早い気がする言葉だが、ユーリは条件反射のように良いお返事をした。
そして先生は大きな紙袋の中から、それぞれの子どもたちに何やらモコモコしたものを渡しはじめた。
「先生……、それは……?」
「三歳くらいの子どもへの贈り物は何がいいだろうと近所の人に相談したら、最近人気の防寒具を教えてくださったんです。寒い時期の夜なんかは、これをパジャマの上から着て寝るといいそうですよ」
淡々と答える先生の前で、四人の子どもたちが大はしゃぎしている。それぞれが手に持っているそれは、フードの部分が動物の顔と頭になった可愛い着ぐるみのようなスリーパーだった。母親たちももちろん大喜びだ。
「やだぁ! うちの分まで!? ありがとうございますノエル先生っ!」
「可愛すぎるわ……! ちょっとアイナ、着てみてちょうだい」
「いやぁぁっ! ララが……ララが天使みたいだわ! ウサギの天使よ!!」
母親たちがウキウキしながら子どもたちにそのモコモコを着せると、そこには小さなウサギ、クマ、イヌ、ネコが並んだ。
「ぐはっっ!!」
ソフィアさんが雄叫びを上げ、仰け反った。小さな天使たちの可愛さの破壊力が半端ない。
甲高い声を上げて喜び合う母親たちと、手を取り合って喜ぶ四匹の動物たち。子グマのユーリに内心メロメロになりながらも、私はノエル先生に改めてお礼を言った。
「本当に……、こんなにまでしていただいて、感謝の言葉もありません。ありがとうございます、ノエル先生。今からケーキを出そうと思っていたんです。よかったら先生も、ご一緒に召し上がってください」
私がそう言うと先生は「ええ。ではありがたく」と微笑んだ後、顎に手を当てて子どもたちを見つめながら何やら思案していた。
「ふむ……。こんなにも喜んでもらえるのだったら、今度からお子さんバースデー特別手当として個人的に支給しましょうかね。大きいお子さんには文房具とか……いいかもしれないな」
テーブルを囲んでノエル先生とお喋りしているママさんたちの声や、子どもたちの絶え間ない笑い声を背中に聞きながら、私はキッチンでデザートの準備を始めた。ふいに感極まって涙が込み上げ、ひそかにそれを拭った。
ユーリを産んで以来、ずっと無我夢中だった。
睡眠不足で朦朧とする頭で、誰にも頼れず不慣れな育児に必死で向き合ってきた。いつも母一人子一人で。そのうちアパートにアンナさん一家が引っ越してきたり、ユーリを保育園に預けて働きに出るようになってからは、人との繋がりや会話も増えたけれど、ユーリはきっと、私がそばにいない時に寂しい思いをしてきたことも何度もあっただろう。
そのユーリは、さっきから時折こちらを振り向いては、ニパッと笑っている。
そばに私がずっといて、何人ものお友達と一緒にお誕生日を過ごして。いくつものプレゼントをもらって。
こんなに楽しそうなユーリの姿を見るのは初めてだった。
(王都へ出てきたことは、間違いじゃなかった。ここで頑張っていこう。これからもずっと、この子の笑顔を守っていくために)
皆の賑やかな笑い声の中、私は改めてそう決意したのだった。




