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【書籍化&コミカライズ※1/30発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第二章:インヴェルノ帝国編

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86. 最後の一人が勝者となるバトロワ方式


「お前はなぜ、そのような姿を?」

「強い日差しと砂埃から身を護るため、顔を隠し、全身を覆うのです」


 開口一番に質問を投げつけられ、ミランダはあらかじめ用意していた答えをつらつらと返していく。

 今回ドナテラの侍女として参加するにあたり、カナン王国に実在する民族衣装を模しているため、万が一調べられたとしても困ることはない。


「ご命令とあらば顔を覆う布を取り払いますが、如何いたしましょう」

「……必要ない」


 重苦しい沈黙が広がる中、ひとり平静を保つドナテラ付きの侍女。

 高圧的な態度から一転、ミランダに興味を示し始めたセトを警戒し、ヴィンセントはわずかに身構えた。


「皇太子妃候補が美しい侍女を伴うことは、珍しくない。なぜだか分かるか?」

「存じません」

「……差し出すからだ」


 声音は穏やだが、どこか蔑むような響きもあり、さらにその場が冷え込んでいく。


「帝国内の貴族達、それも金品での賄賂が通用しない相手に、美しい侍女は有用だ。わたしの母もまた、そのようにして皇后に上り詰めた」


 国の威信を懸けて参加する、『皇太子妃選定式』。

 綺麗ごとだけで済まされないのは重々承知の上だが、帝国における女性の地位は極めて低い。


 賄賂として差し出された侍女達の行く末など、想像に難くなかった。


「結局早世し、皇后の座を侍女に譲ることになったがな」

「侍女が皇后に……?」

「通常、他国の侍女が皇后になるなど許されない。だが皇帝陛下の寵愛が深く、既に第三皇子を身籠もっていたことで、帝国内の有力者がこぞって支持を表明したのだ」


 不都合があったとしても、帝国法を変えれば済む話。

 つまり、皇帝の気分次第でどんな理不尽も通ってしまうということだ。


 そこまで話し、セトは自身の護衛騎士に何かを囁いた。


 帝国の皇族を護るに相応しい、屈強な二人の騎士がその場を離れる。

 セトの後ろにはただ一人の護衛騎士を残すのみとなった。


「さて、もう一人の候補者は、軍部高官の娘だったか。第三皇子エリアスの推薦というが、わたしに何か言伝はあるか?」

「い、いえ、特には……」

「殺す予定の皇太子にかける言葉など、見つからないか?」

「――ッ!?」


 その言葉が合図だったのだろうか。

 物陰から、まるで獣のような速さで何かが襲い掛かった。


 軍部高官の娘に向かって振り下ろされる剣は、先程この場を離れた護衛騎士のもの。

 そしてもう一人の護衛騎士は、ドナテラと、――その後方に立つミランダへと狙いを定める。


「殿下ッ!!」


 鋭い金属音が響く。

 グランガルド王家直属の騎士、ヴィンセントが瞬時に剣を抜き、斬撃を弾いた。


 咄嗟に背後へと腕を回し、ヴィンセントが庇ったのはドナテラ――ではなく、未来のグランガルド王妃ミランダ。


 ――しまった。


 その選択が意味することに気付き、ヴィンセントの顔色が一瞬にして青ざめる。

 もう一人の候補者は、自分を守る騎士を軽々と組み伏せられ、恐怖のあまり口元を押さえて震えていた。


「……ほう」


 セトがゆるりと立ち上がり、侍女たちへと視線を向ける。


「そういえば候補者が軒並み辞退し、困っていたのだが……良いことを思いついた。この人数では争いがいがないだろう」

「……」

「選定式の候補者は五名まで。幸い二名の空きがある。どうだ? お前たちの中で、参加したい者はいるか?」


 その言葉に、侍女たちの目の色が変わる。


「帝国に害をなさなければ、何をしても咎めない。お前達の主は、従うに足る存在か? 違うなら成り代わればいい」


 現皇后が侍女出身であり、なおかつ皇帝の心持ち次第で可能性があると匂わせてからの、この提案。

 なんと悪趣味なマネをするのだろうと、ミランダは目を眇めた。


「この程度の戦いに勝てないようであれば、淘汰されて消えるだけ。弱い皇后はいらない。最後に生き残った最も強い者が、未来の皇后だ」


 分かりやすいだろう、とセトは口端を歪めて笑うなり、隣に立つ偽物を腕に抱き込んだ。


「だが次期皇帝たる者、臣下の意見にも寄り添わねばならないな。ルールを加えたい者はいるか?」


 自分以外はすべて敵。

 主従問わず、最後に生き残った一人が勝者となるバトルロワイヤル方式。


 つまりは選定式期間中、一時も気が休まる間がなく、命の危険に怯えながら過ごさなければならないのだ。


 候補者達の親睦を深める、ただのお茶会だったはずなのに……。


 自身を見下ろす侍女達の目の冷たさと、身体中を貫くような殺意に耐え兼ね、限界を迎えた軍部高官の娘は倒れ込むようにして気を失った。






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