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【書籍化&コミカライズ※1/30発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第二章:インヴェルノ帝国編

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82. 快適な旅の終着地は、物々しいお城でした


「走行中の揺れが、随分と軽減されたわね!」


 すごいわ、とミランダが感嘆の息を盛らす。

 ジャノバから帝都へ向かう馬車の旅は、これまでとは比にならないほどの快適さ。


 悪路を物ともしない安定感。出発時とは段違いの乗り心地の良さである。


 ジャノバまでの道中では、まるで屍のようにグッタリと横になっていたドナテラも、打って変わって元気いっぱい……とまではいかないが、美しい座り姿を保てていた。


「ありがとう、コニーのおかげだわ」

「い、いえ、当たり前の仕事をしただけですから。普通ですよ、普通」

「そんなことないわ。さすがクルッセルの職人ね!」


 隣に座るミランダから、感謝の言葉とともに柔らかな微笑みを向けられ、コニーは動揺して視線を泳がせた。


「あぁぁ、コレか……兄ちゃん達が言ってたのは、コレのことか……!」


 クルッセルの職人達に何を言われたのかは知らないが、ブツブツと何やら独り言ちるコニー。

 顔を伏せ、火照りを冷ますように両手を頬へ当てている。

 

 賑やかな三人の様子を窓から覗いたヴィンセントが、「ミランダ様。帝都に着いたらソレ、控えてくださいよ」と、チクリと苦言を呈した。


「でもこんなに短い期間で、……どこを変えたのかしら?」

「ッ!! 聞いてくれますか!?」


 馬車の修理工場がよほど楽しかったのだろう。

 ミランダが質問すると、声を弾ませながらコニーが説明してくれる。


「亀裂が入っていた車軸の交換と、機構部品のメンテナンスをしました! 今回は時間が限られていたので、板バネを強化しています」

「板バネ……?」


 初めて聞く仕組みに、ドナテラはコトリと首を傾ける。


 走行中に受ける路面からの衝撃は、長旅の大敵。

 これを軽減するため、貴族が乗る馬車には、様々な工夫が凝らされているのだが……。


 その中でもコニーが強化したのは、『板バネ』という装置だった。


「馬車が走行する際、路面からの衝撃を和らげるためのものです」


 こんな感じの仕組みです、とコニーが指を重ね合わせて補足するのだが、よく分からないのだろう。

 ドナテラが疑問符を浮かべている。


「複数の鉄板を重ねて、反発力で衝撃を吸収する仕組み……だったかしら? でもそれなら、もともと馬車にあったわよね?」

「ふふふ、ミランダ様。そこは職人たる、私の腕の見せ所ですよ!!」


 よくぞ聞いてくれましたと食い気味に答えるコニー。

 少し子供っぽいところが、兄のジェイコブとよく似ている。


「鉄板ではなく、より反発力が強く、衝撃を吸収する鋼に変えました」

「なるほど、鋼に……」

「加えて少し厚みを持たせ、カーブを大きくすることで、車体にかかる衝撃を多く吸収できるようにしました」


 ですが……と、申し訳無さそうにコニーが続ける。


「大至急で仕上げたため特急料金が加算され、思っていたよりも沢山お金がかかってしまいました」

「ふふ、問題ないわ。追加料金分のダイヤも置いてきたもの」


 項垂れるように頭を下げたコニーから、おずおずと請求書を差し出されたミランダ。


 追加料金は、ワイン樽山盛りの稀少なダイヤ。

 ミランダは請求書に視線を落とし、ゼロが並ぶ請求額を物ともせず、「快適なのが一番だわ!」と満足げに呟いている。


 馬車のメンテナンスは出発当日の朝までかかっていた。

 ジャノバの職人達が昼夜問わず作業をしてくれた料金だと思えば、まぁ妥当な金額だろう。


「皆様、城壁が見えてきました。もうすぐ帝都です」


 騎馬で並走していたヴィンセントから声が掛かり、窓の外に目を向けたドナテラから歓声が上がる。


「わぁ……ミランダ様、ご覧ください! 二百年以上も前に作られた城壁が、未だ崩れず形を残していますよ!」

「当時の技術力の高さがうかがえますね! クルッセルの先輩達にも見せてあげたいです」


 ドナテラ同様、コニーもまた目を輝かせて、窓にへばりつくようにして城壁を見つめた。


 遠目に見えるのは、外からの侵入を拒むかのように、帝都をグルリと取り囲む高い城壁。

 近付くにつれ、その堅牢さは一段と迫力を増していく。


 山から切り出したのだろうか。


 風雨に晒されて所々ヒビ割れているものの、間近で見上げると、積み上げられた石材は丁寧に継ぎ目が処理されており、当時の技術力の高さがうかがえる。


「……ミランダ様。停戦中だというのに、何だか物々しいと思いませんか?」


 声を潜めたヴィンセントが、少し開いた馬車の窓越しに話しかけてくる。


「都市が封鎖されたことと関係するのでしょうか」

「そうねぇ……随分と警戒している様子だわ」


 城門には見張りの他に、数十人もの兵が待機しており、奥には監視塔だろうか。

 弓兵の姿もあった。


 ミランダとヴィンセントの視線が交差する。

 気配を探るかのように、ミランダがゆっくりと視線を巡らせた。







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