閑話6. 秘密の贈り物
――その夜。
とある田舎町の古びた工房で、四人の男達が頭を突き合わせ、こっそりと何かをしていた。
怪しい空気を漂わせながら皆無言のまま、一心に目の前の作業に集中している。
すると一人が立ち上がり、腕組みをしながら目配せをした。威厳溢れるおじさんだ。どうやら何かを指示したらしい。
その指示を受け、髭もじゃのおじさんが工房の奥へと向かう。
取り出したるは一枚の羊皮紙……インク滴るガラスペンをスラスラと走らせながら、不敵な笑みを浮かべている。
そうこうしている間に、インクが乾いたのだろうか。羊皮紙の端と端を重ね合わせ、また重ね合わせ……先程まで一フィートほどもあった紙は、手のひらに収まるサイズまで、寸分の狂いもなく美しく畳まれていく。
次に動いたのは、顔に大きな傷のあるコワモテのおじいさんだ。
歴戦の覇者を思わせるそのコワモテで三人をギロリと威嚇した後、大きな作業台へと手を伸ばした。
一本のオークを縦に切り出したかのように、長くて幅広な、どっしりとした作業台。表面には無数の傷が刻まれており、長年使用された痕跡が随所に見て取れる。
その上にはきらめく何かが整然と並べられており、だが一見装飾品を思わせるソレは鋭利な端がついているものもあり、……慎重に一つ一つ手に取っていく。
柔らかな布で軽く摩擦をすると、細やかな傷や汚れが徐々に消え、命を吹き込まれたかのように輝きを増していった。
最後に見たこともないような細い針で何かを注入し、やっと完成したのだろうか。余念なく最終チェックをした後、満足気にひとつ頷いて、作業台の上にそっと戻した。
そしてトリを務めるのは、中でも一際身体の大きい青年である。
滑らかな動きで大きさを確認し、ビロードで覆われた高級そうな箱の中に、ソレを一つ一つ丁寧に詰めてく。
「取扱説明書、よし」
髭もじゃのおじさんが羊皮紙を指差した。
「最終確認、よし」
コワモテのおじいさんが、野太い声でそう告げる。
「数量確認、箱詰め、よし」
一際身体の大きい青年が、すべての詰め作業を終えた。
最後に『取扱説明書』を上に乗せ、光沢のあるジャガード織りのシルクサテンで包めば……。
「――完成だ」
先程から指示を出していた威厳溢れるおじさんが、満足気に頷いた。
わぁっと歓声があがり、やったやった完成だ! とむさくるしい男達が肩を組んで喜んでいる。
「シヴァラク組合長! 通常業務の傍ら、有休を費やして進めたこの極秘プロジェクト、ついに完了ですね!」
「設計段階での課題はあったが、見事我らは成し遂げた! サモア、お前が最後に作った『取扱説明書』のおかげで、より良いものになった」
挿し絵が功を奏したな! とシヴァラクがサモアを手放しで褒める。
「殿下もきっと喜んでくださるに違いない!」
「そうだな、ローガン。詰替え分も用意したから、帝国に行く前に、是非ファゴル大公国で試用していただこう」
ローガンとともに、サモアが作業台の下でサムズアップをしている。
「ですが、コレ、……どういう場面で使うんですかね?」
ふと我に返ったジェイコブが、三人の熟練職人達に疑問を呈した。
「それはほら、色々とあるだろう」
「そ、そうだな、何かこう、……夜道で襲われた時とか?」
「ああ、確かに! コレをマイルドに改良し、平民仕様にすれば防犯アイテムとして売り出せるな!?」
クルッセルの新たな名産品として、受注生産に入るか!
領主の許可がなければ話は進められないのだが、シヴァラク組合長企画のもと、新たなプロジェクトが立ち上がりそうな予感がする。
「なるほど、そういえば俺の妹が夜道で暴漢に襲われそうになったって言ってました」
「コニーが暴漢に? そりゃまた随分と……勇気のある」
サモアが遠慮がちにぼそりと呟いた。
クルッセルの職人でもあるジェイコブの妹、コニー。二十一歳にして未だ独身の彼女は、女性とは思えないほどの上背に短髪、そして男性顔負けの腕っぷし。
一見すると男性に間違えられてしまいそうな容姿の彼女は、短気なため定期的に問題を起こし、シヴァラクを度々困らせている。
だが兄であるジェイコブ同様、素直で情にもろく、年配の技術者達から可愛がられていた。
「騎士訓練は進んでるのか? かれこれ二週ぶっ通しだろう」
「滞りなく、ですねぇ。でもまさかコニーが選ばれるとは思いませんでしたよ」
確かに、と皆が顔を見合わせる。
『剣技に長ける者を一名、侍女として採用する。各領地より選抜し、『侍女選抜会』に参加させよ』
国内の領主達へ宰相ザハド直々に通達があり、我こそはと思う女性達がこぞって参加したこの『侍女選抜会』。
クルッセルの街で親戚が騎士をしているため、たまにジェイコブと一緒に鍛えてもらっていたコニーだったが……物見遊山で参加したにも関わらず、他の追随を許さぬ実力であった。
「そもそものリーチが違うから、あれはちょっとズルかったですね」
「それも実力のうちだろう。毎日槌を振るい続ける体力も馬鹿にならんし、まだ下っぱだから力仕事も任される。日々鍛錬の成果だ」
クルッセルの職人としてもミランダに接しており、勿論彼女にまつわる悪評の内情も知っている。
さらには今回贈る予定の装飾品のメンテナンスも可能なため、まさに適任……とんとん拍子で話が進んだのである。
でもなぁ……、と皆が再び顔を見合わせた。
「兄のお前にこういうのも何だか、ちょっとこう……」
「シヴァラク組合長、何で濁すんですか。いいからハッキリ言ってくださいよ」
「少し猪突猛進というか、その、……な?」
「サモア先輩もハッキリ言ってください。どうせ頭が悪くて短気だとでも、言いたいんでしょ!?」
「……お前そっくりだからな」
「なんだと、じじい! 表へ出ろ!!」
そういうところが似てるんだとシヴァラクに怒られ、だが一仕事やり終えた彼らの表情は晴れ晴れとしている。
この後、クルッセルからの秘密の贈り物は、無事ファゴル大公国へと届けられた。
なお、マイルドに改良され安価で売り出された防犯アイテムが国内で大ヒットし、職人組合に多額のボーナスが支給されるのは、……この、一年後である。
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*







