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【書籍化&コミカライズ※1/30発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:閑話集

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閑話5. シェリルと、リヒト


 きらめく陽光が、たっぷりと差し込む王宮広間。

 その中央には豪華な布地が山積みになり、試作された装飾品がこれでもかと並べられている。


「銀糸の薔薇模様が美しいですね!」


 様々な布地を広げられ、シェリルは感嘆の声を上げた。

 今日こそはドレスの布地を決めるはずが、いつの間にか品評会になってしまい、さらには目移りして一向に決まる気配がない。


 これは今日も決まらないだろうなと漏らしたリヒトの呟きを拾い、「だってどれも素晴らしいんですもの」とシェリルは小声で言い訳をしている。


 悩んだ末に何度も職人達を呼び寄せ、これで三回目……最早見慣れたその様子を、婚約者であるグランガルドの王太子リヒトが、腕組みをしながらのんびりと眺めていた。


 純白に織られたシルクの布地。

 執務中に呼び出されたのはいいが、何が違うのかリヒトにはよく分からなかった。


「ご覧ください、こちらも素晴らしいです!」


 同じような布を広げては一喜一憂するシェリルの様子を、先程から静かに見守っていたリヒト。 


 ――ならばもう、それでいいんじゃないか?


 そんなことを考えながら、ぼんやりと眺めていると、「殿下、どちらがお好きですか?」と質問されてしまう。


「……どちらも、悪くない」

「殿下、またそんなことを」


 正直どれも同じに見えるな……。


 少しだけむくれたような顔をして「使われている糸が違うのですよ」、とシェリルが説明してくれるのだが、説明を聞いてもなおこの手の話はよく分からない。


「お前が着るんだから、自分が一番気に入ったものを選べばいい」

「そう仰ると思い、沢山ある中から私が二つを選びました。どちらも素晴らしく決めかねてしまったので、殿下がどちらかをお選びください」


 さぁ、どちらになさいますか?


 幼い頃からよく知るシェリル。

 穏やかな佇まいで喜怒哀楽をあまり表に出さないが、ちょっぴり怒っているような気がする。


 思わず言葉に詰まっていると、部屋の片隅からプッと吹きだす音がした。

 見れば弟王子のクラウスが、顔を背けて笑いを堪えている。


「クラウス、何しに来た」

「いえ、ちょうど手隙でしたので……兄上、観念してどちらかを選んだらいかがですか?」


 確かにそうだ、この様子だとどちらかを選ぶまで終わりそうにない。


 シェリルが王宮を訪れる度に鍛錬をサボって遊びに来る、この困った弟は、二人の結婚式をとても楽しみにしているらしい。


「ならば、右で」


 シェリルの喜ぶ顔は見たいのだが、どちらも似合いそうだ……とは、さすがに言えなかった。


「良かった、私もコレが一番いいと思っていました」

「なんだそれは……。だから好きな物を選んでいいと言って」

「では次です。こちらの銀食器はいかがでしょう。殿下はどちらがよろしいですか?」


 すっかり味を占めたシェリルはリヒトの言葉を中断し、この機会を逃してなるかと次の二択を提示する。


「すべてが揃うまで、最低でも半年はかかります。殿下が選んでくださるととても助かります」


 まずい、これは断れそうにない。

 パチパチと可愛く瞬きをされ、リヒトはウッと答えに窮する。


「では次の二択に参りますね!」

「……」


 さぁ次々行きましょう!!

 選ばざるを得ない状況を作られ、示されるがまま黙々と指を差していくリヒトの姿が面白かったようで、視界の端でクラウスがお腹を抱えながら震えている。


 言っておくがお前もいつか通る道だからな。


 ギロリと睨むと、そんなことはありませんとばかりに目を逸らした。


「シェリル……面倒をかけて、すまない」


 王太子の結婚式となれば準備だけでも一年がかり。

 戦地に行くことも多く、結婚式まで手が回らず、すべてを任せっきりにしていた。


「まぁ殿下、謝ることなど何もありません。むしろこうして選ぶのが楽しくて仕方ないのですから」

「だがあまり一緒に過ごせず、お前には寂しい思いをさせている」


 シェリルは一瞬驚いたように目を見開き、すぐに優しく微笑んだ。


「お忙しい中、こうして一緒に過ごす時間を作ってくださるだけで嬉しいのですよ?」


 ですが何か希望があれば、この機会に仰ってくださいね。

 言わないと私の好みを存分に反映したものになってしまいますよ、どうなっても知りませんよとシェリルが小声で脅してくる。


 なんと答えたものか困り顔で腕組みをしていると、宰相のザハドが呼びに来たため、リヒトは急ぎその場をあとにした。


「……ザハド、そういえば指輪はどうなっている?」

「そろそろ発注しようと思っておりましたが、まだできておりません。どうされましたか?」


 歩く道すがら、珍しく結婚式準備について尋ねたリヒトに、何かご希望でもございますかとザハドが告げる。


 ドレスについては分からない、かといって会場準備やその他諸々、シェリルが高官たちと既に進めてくれている。


 あまり時間がない中で、出来そうなことと言えば指輪くらいしか思いつかなかった。


「お二人の指輪は慣例通り、金の指輪に国章を彫ったシンプルなものにする予定です。何か追加で依頼されますか?」

「そうだな、例えばどのようなものがある?」

「彫刻であれば、花や蔓をモチーフにしたり、メッセージを刻む場合もあります。あとは……」


 何かあったかな、とザハドが思い出すように目を伏せる。


「宝石、ですかね」


 埋め込む宝石の大きさは好みによって様々です。

 組み合わせてもよく、花同様に様々な意味を内包しておりますと教えてくれた。


「指輪は殿下がご準備されると、シェリル様にお伝えしますか?」

「いや、――必要ない」


 改まったメッセージも無いし、花の好みも分からない。

 では瞳と同じ色の宝石を、と思わなくもないが、そのような宝石を指輪につけて外交するのは、自分のイメージにそぐわないだろう。


「発注先は、クルッセルだな?」

「左様でございます。此度の装飾品はすべてクルッセルにお願いする予定です」


 あの街には大陸有数の腕利き職人達が集まっている。

 何をお願いしても、問題は無さそうだが……。


「では内側に、二人の名を」


 短い言葉で指示を出すと、ザハドが一礼して去っていく。


 そう、二人の名前があればいい。

 伝わらずとも、想いがこもればそれでいいのだ。





 

 ――これから共に、生きるのだから。











今年最後の更新です。お読みいただきありがとうございます。

書けない時期が続いてしまい、再開時にどれだけの方が読んでくださるのだろうと不安もあったのですが、沢山の方が訪れてくださり、とても嬉しい年末となりました。

本当にありがとうございました。

お身体に気を付けて、よい年末をお過ごしください。

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