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【書籍化&コミカライズ※1/30発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:グランガルド編 ~初夜に自白剤を盛るとは何事か!~

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27.目的は唯一つ


 互いの手が届きそうな距離に差し向かいで座ると、シェリルの緑髪碧眼が、ヴェール越しに微かに透けた。


 長い睫毛は、やや下がった目元を強調し、どこか寂し気な印象を与える。


 さて何のお話でしょうとシェリルが小首を傾げると、顔を覆うヴェールがふわりふわりと柔らかく揺れた。


「素敵ですね……どちらの工房で?」


 人払いをして二人きりになり、話の切り出しに躊躇ったミランダがヴェールを褒めると、シェリルはぱちくりと目を瞬かせた。


「まぁ! 褒められたのは、初めてだわ!」


 思わず、といった様子でクスクスと笑い出すシェリルの物腰は柔らかく、先程アナベルが言ったような『死神令嬢』にはとても見えない。


「長いこと領内に籠っていましたので、手慰みに編んだのですよ」


 どこかしらの工房に発注したのかと思いきや、自身で編んだのだという。


 極細のレース糸で編まれた、緻密なフラワーモチーフ。

 複雑な刺繍が丁寧に施されており、柔らかく揺れるその様子はまるで————


「……まるで花嫁が顔を覆う、ブラッシャーヴェールのようでしょう?」


 ミランダの心を見透かすように、シェリルが言葉を紡ぐ。

 このレース糸が白であれば、その通りなのだが、シェリルのヴェールには()()()が使われている。


 母親が幼子(おさなご)に語り掛けるように、ゆったりと話すその声は暖かく、ミランダは遠くアルディリアで暮らす姉を思い出した。


「私が入宮した理由と、『死神令嬢』と称される所以が気になっておられるのでは?」


 優しく問われ、少し迷った後にミランダは小さく頷く。


 王太子との結婚式直前、避暑地へ向かう馬車が襲撃にあったのは、四年前のこと。


 熱傷により生死の境を彷徨ったシェリルは、その後一切の社交から身を引き自領に籠り、貴族令嬢としては()()()()の類に入る二十二歳。


 父であるヴァレンス公爵がいくら保守派筆頭とはいえ、王太子の元婚約者という立場もあり、今回の入宮にあたり難を唱える者も多かったのではないか。


 考えを巡らすミランダに向かい、ここからのお話は他言無用ですよ、と前置きをする。


「気持ちの良い話ではありませんので、詳細は省かせていただきますが……入宮の目的は唯一つ」


 ティーカップをソーサーに置き、シェリルは小さく息を吸った。


「王太子襲撃の()()であるホレス・ヘイリーの断罪です」


 確信はあるが、決定的な証拠がなく、ここまでずるずると野放しにしてしまった。


 なかなか尻尾を出さず困っていたところに、ミランダの召し上げが決まり、何としてでも娘を王妃にしたいヘイリー侯爵が動き出すと踏み、革新派の癌を追い落としたい保守派が結託して、今回の入宮に至ったのだという。


「グランガルドにまで名を馳せる『稀代の悪女』、ミランダ殿下が、噂通り陛下を色香で惑わし、国を傾けるような愚か者であれば、ついでに罪をでっちあげて断罪をと思ったのですが」


 あまりに酷いようなら、国王ごと挿げ替える案も念頭に置いていたのですが。


 うふふと笑いながら、怖い事を言う『死神令嬢』。


「……本来であれば、私が座るはずだった王妃の座」


 一度言葉を切り、シェリルは膝の上で、ギュッと拳を握りしめた。


「誰が座ることになるかは存じませんが、大元の禍根を絶たねば、同様の凶事が起きかねません。……私は王太子殿下を御救い出来なかったばかりか、恥知らずにも自分だけが、のうのうと生き残ってしまいました」


 姿勢を正したまま、ほんの少し身じろぐと、シェリルのヴェールがまたふわりと揺れる。


 それは、永遠を誓う婚儀で花婿が取り払う()()のようであり、喪に服する未亡人の顔を覆う()()のようでもあった。


 王太子への深い愛が、こめられているのかもしれない。


「盤根錯節の状態で、次代に引き継ぐ気はございません」


 そこまで話すと、「お目汚しになるやもしれませんが」と前置きし、シェリルは自身のヴェールを取り払った。









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