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【書籍化&コミカライズ※1/30発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第二章:インヴェルノ帝国編

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106. 押してダメなら、引けばいい


 訪れたのは、ティール南区にある倉庫街。

 諦めかけていたセトが無事に戻り、領主館が一時の安堵に包まれてから、半日後のことだった。


「ご覧のとおり、主食の穀物類が不足しています」


 物品管理を担う帳合責任者はそう言うと、倉庫の奥へと案内してくれる。

 ティールの備蓄庫ということもあり、見渡す限りの物品が積み上げられているのかと思いきや……。


 袋の山は目減りし、床が見えている場所すらあった。


「仕入れの見込みも立たず、在庫は減る一方です」


 ティール領主は申し訳なさそうにそう告げて、深々と頭を下げる。

 その様子を見る限り、どうやら想定していた以上に状況はよくないらしい。


「疫病の報せを受け、ラゴン周辺から多くの避難民が流れ込みました。このため食料需要が予想を大きく上回り、今冬分を賄うのがやっとの状態です」


 帳簿をめくるセトの手が止まったのを確認し、ミランダも横から覗き込む。


 ティールの位置する帝国北部は、海に近い。

 冬になれば吹雪や凍結に見舞われ、厳しい寒さに覆われる。


 豊かな穀倉地帯はおおよそ南部に集中しており、農産物のほとんどは、ジャノバを経て各地へと行き渡るのだ。


 商業ルートを封鎖した結果、入手できなくなるのは当然だった。


「食料だけではありません。ラゴンが封鎖中のため燃料も不足し、都市機能が麻痺しつつあります」


 兵士も最低限しかおらず、食料も今冬ギリギリ。

 何らかの対策を講じなければ、様々な備蓄があっという間に底をついてしまう。


 予想外に膨れ上がった避難民のせいで予定を狂わされ、領主はほとほと困り果てていた。


「封鎖したまま、一時的にジャノバへ支援を頼もうにも、アルゼン様が帝都にいるため交渉もできません。……有効な施策もなく、行き詰まっているのです」


 ラゴンは封鎖中のため、食料支援は頼めない。

 それどころか帝国兵が常駐しているせいで、食料はティール以上に逼迫しているのだ。


 しばらく帳簿を眺めていたミランダは、ふと顔を上げた。


「セト様。『封鎖解除』を拒否し続ければ、いずれ兵を差し向けてきます。……引き延ばすにも限界が近いのでは?」

「だろうな。力尽くで奪うのが一番手っ取り早い」


 状況確認をしたミランダを見下ろしながら、気欝なことだとセトが小さく息を吐く。


 そうなれば、駐留兵がほとんどいないティールは絶望的。

 略奪だけで済めばいいが、死傷者の数が膨れ上がるかもしれない。


「帝国軍が来ると分かっているなら、戦えない者達は早々に避難させるべきです」


 我慢しきれなくなり口を挟むが、女性の地位が驚くほど低いインヴェルノ帝国。

 女性が政治に関わることなど、許されていない。

 まして今のミランダは、身元も定かでない新参者。


 幼い頃から男として育てられたセトはともかく、……ぽっと出の女に何が分かると言わんばかりに、領主から鋭い視線が向けられる。


 だがミランダは、構わず続けた。


「このままでは、ジャノバの一人勝ちです。せっかくなら許可証を書き、ジャノバで受け入れてもらうのはどうでしょう」


 たくさん食料が余っているのだ。

 避難先を探し困っている人々を、まとめてジャノバに引き取ってもらえばいい。


 突然何を言い出すのかと、領主の顔がより一層険しくなる。

 だがセトは止める素振りすらなく、興味深げに成り行きを見守っていた。


「アルゼン様は不在ですし、手続き上は受け入れざるを得ませんよね?」

「そう単純な話ではないのですよ」


 領主は苛立ちを隠そうともせず、ミランダの提案を一蹴する。


 いかに合理的な案であっても、女性というだけで聞く耳すら持ってもらえない。

 ハナから駄目だと決めつけて、検討すらしてもらえない。

 ファゴル大公国では考えられないことだった。


「領民は減るし、避難民も来なくなる。食料も余るから、いいこと尽くめだと思ったのですが……」

「食料が浮いたところで、もって半年。結局のところ、付け焼刃的な処置にしかなりません」


 ——であれば、こちらにも考えがある。

 押して駄目なら、引けばいい。

 身分の差こそあれ、幸い、この場には多くの男性がいる。


「ではいったい、どうすれば……」


 領主に否定され、ミランダは肩を落とした。

 先ほどまでの遠慮のない物言いが嘘のように、しゅんと気落ちしている。


 まだ十代の少女が、こんなにも懸命に案を出してくれたのに。

 ちょっと大人げなかったのではなかろうかと、男達は気まずそうに目配せを始めた。


 なお、小声で交わされる男達の会話は、ミランダだけでなく、もちろんセトにもばっちり聞こえている。


 ミランダが言う通り、アルゼンが治めるジャノバは潤沢な食料と兵力を有している。

 今や帝都の食料供給を一手に担い、新皇帝の支持を表明したことで、その発言権は日に日に強さを増しているのだ。


「なら浮いた食料は、あの、ラゴンに……」


 様子を窺っていた男達から、不意にぽつりと声が上がった。





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