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【書籍化&コミカライズ※1/30発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第二章:インヴェルノ帝国編

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93. 『皇帝陛下』へのお目通り


 ファゴル大公国の後ろ盾があれば、現皇太子の座は揺るがない。

 だからこそ貴族達にお披露目をする前に、毒を盛ってでもミランダを排除する必要があったのだ。


「良い見世物だったな」


 せっかくコトを有利に推し進めてきたというのに、現れたのはまるで別人。

 エリアスの顔が見ものだったと言わんばかりに、セトは珍しく上機嫌で口元を緩める。


「その場で暴こうにも、別人だと知っている者は数えるほど。入城時に対応した侍従と妃候補達、そしてエリアス様だけです」


 それも、セトの側仕え用にあてがわれた屋敷内での出来事である。


「ましてや『偽物』が服毒したことなど、当事者以外は知る由もありません。毒を盛られた状況も説明しなければならない……言及しようにも、できないのです」


 結局問い質すことはできず、謁見式は滞りなく終了した。


「ですが皇后陛下の立会いとはいえ、『皇帝陛下』へのお目通りが叶うとは思いませんでした」

「病が重く、謁見式にすら出られないと聞いていたが……」


 どういうつもりか知らないが、都合よく回復したものだ。


 セトは苦々しげに吐き捨てる。

 ミランダもまた同席の許可を得たのだが、待たされたまま、気付けばかれこれ半刻以上も経っていた。


「暇ならこれでも読んでおけ」


 そう言って部屋の奥からセトが持ち出してきたのは、分厚い帝国法の法典だった。


 帝国法を直接目にするのは、これが初めて。

 並べられた条文は、男性の優位性を示すものが大半を占め、女性は原則、男性に従うことが義務付けられている。


「男性の『不貞』は軽い罰金刑なのに、女性は石打ちで死刑だなんて」

「そう決められているのだから仕方がない。例え皇女であっても、それは変わらない」


 にわかには信じがたいが、男女間における懲罰の不平等まであり、先進国の法律だとは、とてもじゃないが思えなかった。


「これまで、どなたも異を唱えなかったのですか?」

「それを当たり前と言われて育てば、誰も声を上げられない。だが、皇后だけは別格だ」


 ――帝国内で唯一、富と権力を手にすることが許されている女性。


 男女平等を謳い、女性の大公位継承権が認められているファゴル大公国。

 帝国が歩んできた歴史に軽々しく口を挟める立場ではないが、ミランダにとっては到底受け入れられるものではなかった。


「手紙一つ送るにも、検閲が必要だなんて」

「……決まりから仕方ない。お前が送った手紙は、ジャノバを通じてファゴル大公国へ送ってある。じきに届くだろう」


 程なくして扉がノックされ、皇帝の私室へと案内された。

 帝国の威信を示すかのような、荘厳な空間。

 高い天井からは天蓋が垂れ下がり、ミランダ達が身じろぐたび、軽やかに揺れている。


 部屋には皇帝とセト、そしてミランダの三人だけ。

 病状によっては人目を忍んで治せるかもしれないと考え、ミランダもまた奥へと進んだ。


「父上」


 遠慮がちに寝台へと歩み寄り、セトがそっと呼びかける。

 返事はなく、寝台の脇にある陶器の水差しから、微かな薬湯の匂いが漂ってくる。


「父上……?」


 白絹の滑らかな寝具に身を包み、寝台の上で眠るように横たわっている。

 だがその身体は先ほどから、ぴくりとも動かないのだ。


 一瞬ミランダを振り返ったが、すぐに気を取り直し、脈を確認すべく皇帝の手首に触れた。


「……ッ!?」


 セトの顔が、次第に色を失っていく。

 掛け布の違和感に気付き、取り払うなりその胸元に目を落とした。


 そこには、咲き広がる深紅の花。

 ――仕組まれたのだと気付いた時にはもう遅く、部屋の扉が勢いよく開け放たれる。


「お前達、何をしているのかしら?」


 まるで見計らったかのようなタイミング。

 皇帝の枕元にはセトが立っており、その胸元に滲む赤黒い染みを見れば、状況は瞭然である。


「きゃあぁぁあッ!?」

「違う! 部屋に来た時は、既にこの状態で……ッ!」


 空気を裂くような甲高い悲鳴を上げ、皇后は一歩後退った。

 嵌められたと知りセトが即座に反論するが、皇后の悲鳴を聞きつけて、バラバラと衛兵達が駆け付ける。


 だめだ、これは言い逃れができない。

 迷う時間はなく、ミランダは咄嗟に陶器の水差しを掴むと、皇后の足元めがけて力任せに叩きつけた。


「何を呆けているのです! 緊急時の脱出口は!?」


 怒鳴るように叫んだミランダは、反射的にセトの腕を掴む。


「早く!!」


 王や皇帝の寝室には、いざという時のための脱出口が必ずある。

 だがセトはあまりの状況に思考が追い付いていないようだ。


 部屋を見回すと、壁の装飾が微妙にずれている箇所があった。


 ――あれかもしれない。

 即断したミランダはセトの腕を引き、力の限り壁を押す。

 祈るような気持ちで体重をかけた次の瞬間、壁の奥で、何かがカチリと音を立てた。





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