08話 告白ラッシュ
「兄さんは中学生になる前頃に急激に背が伸びて、それなりに運動もしていたから、中生デビューに成功したの」
なるほど。確かに俺もその頃に結構伸びたし、部屋に筋トレ器具もあったから運動も本当だろう。そして中学という節目でイケメン超進化をすれば、よほど性格が捻じ曲ってない限り上手くいくに違いない。
「そして中1のGW明けにある女が、兄さんに告白してきたの」
「へぇ……、それはそれは」
流石はイケメン、羨ましい限りだ。
「兄さんは初めての彼女に大喜びで、初デートの費用も全て出して、プレゼントまで買ってあげたの。だけど、それからが問題なの」
不穏な空気になるのと同時に、豆腐サラダが届く。
「我が家が裕福なのを知ってから、あの女は事ある事に買い物を要求して、お金は一切払わなかった。そのせいで兄さんは散財、デートを断ったら親に工面してもらえと言われ、無理と言ったらキレられ、別れるなら慰謝料を払えと言い放ってきたの」
……………………………………………何これ。
彼女ができて、どうしてこんなドス黒い話が出てくるの? 今食べている豆腐サラダが全然美味しくないのは、黒胡麻ドレッシングの黒さが共鳴してくるからなの?
「だから私は両親が居るであろう日曜の朝、その女の家に訪問して『私の兄は、あなた達の娘に■■万円貢がされて破産しました。別れるにも慰謝料がいるらしいので、その金額を決める為の交渉に来ました』って言ったの」
「………………………………………うわぁ」
なんちゅー力技を繰り出してんだこの子は。
100%その女が悪いのに、同情しちゃいそうだよ。
「それから娘を叱る怒号が響いて、親子そろって土下座・慰謝料も0円で和解できたの。兄さんが貢いだ物まで返されたけど、それは全部ゴミの日に出しておいたわ」
「………………………………………そう、ですか」
とりあえず、美緒を敵に回す行いは絶対によそう。
「でも、あれだ。解決して良かったじゃん。教訓にもなったよね?」
とにかくこの場を落ち着かせよう。今度はじゃこ大根サラダが届いたし、小魚にたっぷりと含まれたカルシウムを摂取すれば。
「そしてその女と別れた翌日、兄さんに2人目の彼女ができたの」
「まさかの第2ラウンド! しかもインターバル短っ!」
節操なさ過ぎだろ!
失恋後は暫く意気消沈しとけよ!
「2号は兄が散財で悩んでいる時にずっと相談に乗って、1号と別れた後に励まされて、気付いたら彼女になっていたの」
あー、弱ってた時に優しくされて、コロッといっちゃったのかー。
それなら仕方がない……のか……?
「彼女2号の金銭感覚は正常だったけど、兄さんの彼女になれて余程嬉しかったのか、よく周りに自慢していたわ。鬱陶しい程に」
「いや、それくらい許してやれよ」
誰だって彼氏彼女ができたら嬉しい訳で、それが美形なら尚更だ。
「そうね、それだけなら看過できたわ。兄さんの顔を無断投稿した後にネット住民を煽って炎上、名前と電話番号を公開されたせいで兄さんの携帯に悪戯メール・着信が殺到して、携帯を解約する事態になるまではね」
「………………………………………駄目じゃん」
この手のトラブルは精神的に追い込まれるからなぁ。
てゆーか大輔の顔、今もネット上に漂ってるの?
「しかも2号は『悪気はなかった。謝ったからいいよね』とぬけぬけと言って別れないと主張してきたわ。だから私は個人情報流出の被害を先生に相談、2号が生徒指導室に呼び出されるのと同時にネットで2号の名前・携帯電話・スッピン顔が偶然拡散して、更にネット住民が住所特定しようって流れになった所で、破局したわ」
「………………………………………美緒の主張はご尤もだし、偶然なら仕方ないね」
「ええ、破局と同時にネット炎上も収束、住所特定も未遂で済んだから何よりね」
つっこんだら負けだ!
大輔に近しい人間が暗躍した様にしか見えないけど、知らない方がいい!! じゃこ大根サラダのシャキシャキ食感は伝わってくるのに、やっぱり味がしない。今度は和風三昧サラダが届いたけど、流石にこれは美味しく食べら…。
「そして2号と別れた翌日、また彼女ができたの」
「………………………………………えぇー」
大輔には、彼女が1日以上いないと絶命する制約があったりするの?
「兄さんはアニメ・ゲーム好きで、趣味で意気投合したのが発端。3号の素行・交友関係を調べたけど、とりあえず白だったわ」
とうとう身元調査が始まっちゃったよ。
もう彼女=容疑者って扱いじゃん。
「だけど兄さんが女子向けアニメを見る様になり、男を攻略するゲームをやり始め、不審に感じて踏み込んだ捜査をしたら、兄さんが3号と一緒に漫画を描いていたの」
うわぁ、表面上は白でも中身が真っ黒というか、腐ってた。
しかもこれ、どんどん染めてくるタイプじゃん。
「そして兄さんの部屋の本棚にBL書籍が増殖、押し入れから半脱ぎ顎長男の抱き枕を発見、更に鍵付きの机棚から兄さんの半裸コスプレ写真を発見した所で、公開捜査に踏み切って破局させたわ」
犯罪捜査ドキュメンタリーかよ!!
あと大輔の部屋が普通に物色されているけど、ちゃんと許可取ってるんだよね? 遂に温野菜と豚肉のポン酢かけ定食が届いたけど、どうしよう。もうお腹いっぱいというか、食欲が行方不明なんですけど! そんな心境とは裏腹に美緒は平然とオーダーしたローストビーフを食べ始め、箸が進まない俺に不思議そうな顔をしてくる有様だ。
「遠慮せずにどうぞ。まだ序盤で、5号6号と続いていくから」
「いや、事情は大体分かったので、もういいです」
これ以上は、俺の心が折れる。
まだ彼女ができた事すらないのに、これ以上幻滅したくない。それからは心を無にして、目の前の野菜を喉に流し込みました。




