06話 イケメンの初登校
「真守ー、学校行こー」
弁当作り・朝食・身嗜みチェック等を全て済ませた7時過ぎ、インターホンと一緒に大輔の声が聞こえてくる。ええー、駅前合流じゃなくて最初から俺の家に来る気だったの? なので鞄を持ってすぐ外に出てみると。
「真守君おはよ~。さあ乗って~」
「どうして彩さんが? しかも車?」
やたら高級そうな大型ファミリーカーの運転席から、笑顔で手招きをしている。
「学校前まで送るわよ~。渋滞すると面倒だから、早く乗って~」
こう言われたら断れる筈もなく、流されるが儘に後部座席に座ると、助手席の美緒から「私は反対した」と、素っ気なく忠告されました。
なんだかなぁ……
◇ ◇ ◇
そうして高校近くの大通りで降りて通学路に合流したんだけど、ここからが予想というか、俺には縁のない世界に突入してしまったのである。
「みんな、こっち見てるな」
「……………うん、そうだね」
通学路に入った途端、登校中の生徒殆どが大輔と美緒に注目、チラチラとこちらを見てきたりハイテンションで騒ぐ集団がいたりで、スマホで撮ってくる輩までいる有様だ。美男美女が注目されるのは知っていたけど、ここまで居心地が悪いものだったとは。
「いつもの事、気にしたら負けよ」
美緒がそう答えたけど、不機嫌オーラ駄々漏れである。
「大輔と美緒は、別々に登校した方がいいのでは?」
大輔はイケメンで美緒は美人、それが並んだ時の相乗効果は計り知れない。これは醤油とプリンを合わせてウニに昇格する程の……、いやこの例えは失敗だ。じゃあトンカツとカレーが合体したレベルの……、駄目だこの例えも安っぽい。
とにかくこの2人が並ぶと、注目度が爆発的に上がってしまうのだ。
この提案に美緒は首を横に振ってから、
「そうしたら頭の軽そうなオスが声を掛けてきて面倒。新学期の今は特に」
うわぁ、苦肉の策だったか。
確かに朝からナンパされるくらいなら、こっちの方がマシなのかもしれない。
「大輔は、こういうのに慣れたの?」
「それは……、苦手というか、困るというか……」
煮え切らない答えだけど、大体分かった。
そもそもこんな状況を望む奴なんて、いる訳がない。
「それより大輔、俺の背中に隠れても無駄だぞ。お前の方がデカいんだから」
「うう……」
それでも大輔は中腰で俺の背中にずーっとへばり付き続けてのノロノロ移動、更に注目される結果になっている。どうでもいいけど、周りの女子が大輔の顔を見ようとして、それを大輔は俺の頭で隠そうとして中々見えずで、俺の顔を障害物みたく邪険に見るのは勘弁して下さい。そんな今までの人生で一番居心地が悪い登校になったのだが、大丈夫かなぁ。
◇ ◇ ◇
「はいこれ、お昼になったら兄さんに渡して」
「それは構わないけど、今じゃ駄目なの?」
自分のクラスに到着するのと同時に〝1人で廊下に来て〟と美緒から連絡があり、大輔が忘れたお弁当を渡された所だ。
「今渡せば選択肢が消える。状況を鑑みて対応する方が賢明よ」
「……………すまん。分かる様に説明してくれ」
そう言ったら美緒が指をさし、その方向を見てみると。
「うっわ、何だあれ⁉」
そこには女子の塊があり、冬の動物園で寒さを凌ぐ為にお猿さん達が身を寄せ合う猿団子を彷彿とさせる光景があったのだ。
「ってあそこ、まさか大輔の席?」
既に美緒がいなくなっていたので近くの男子に尋ねてみたら、やっぱり大輔らしい。
「一瞬で女子が集まってったぞ。イケメンの吸引力ってすげーな」
「そっか。因みに、あの塊にイケメン以外が割って入ったら、どうなると思う?」
この質問に、相手は深く唸ってから、
「邪魔すんなって睨まれて八つ裂き? つーかそんな勇者いねーだろ」
「ですよねー」
うん、どう考えても無理だ。
下手すれば、クラスの女子大半を敵に回しかねない。
「お前あのイケメンと知り合いか? 昨日あんな奴いなかったよな?」
「あー、一応友達かな。小学校で一緒だったけど中学が別で、高校で再会したって流れだから。それに昨日は欠席が1人いただろ」
「ふーん。そういう事か」
引っ越しアピールは相手が困るだけなので、この反応が妥当だろう。それからHRが始まるまで女子がローテーションで猿団子を形成して、俺はそれを何事かと見守る男子に事情説明をしておきました。
◇ ◇ ◇
「酷いよ真守っ、どうして助けてくれなかったの?」
「悪い、どうしようもなかった」
1時間の授業が終わった途端、縋るように大輔がこっちに来る。身長高いから目立つなー。
「だけど注目されるのが嫌なら、もっと抑えめな紹介にしろよ」
「ううっ、だって緊張して、ついああ答えちゃったんだよ」
昨日欠席した大輔は今朝のHRに1人で自己紹介をする破目になり、突如現れたイケメンにクラスが注目する中「彼女いる?」って野次に「いません」と馬鹿正直に答えて、しかも先生に「佐藤は入試でトップ成績だったから、期待しているぞ」という駄目押しまで入れられてしまったのである。なのでHRが終わった途端、ギラついた女子が殺到、古代ローマ軍が太鼓判をくれそうな鉄壁防御陣が完成してしまったのである。1時間目が始まるまで、女子の肉壁で大輔が全然見えなかったからなぁ。
「そう落ち込むな。それにこういう事は最初だけで、すぐ収ま…」
「佐藤君、その人はお友達?」
横から友好的な雰囲気で女子が声を掛けてくるのと同時に、大輔が俺の背中に引っ込んでしまった。だからその長身で隠れても無駄だって。
「………………う、うん。真守は僕の友達だよ。……折本さんであってる?」
「えっ? 名前覚えてくれたの⁉ 嬉しい!」
「まさかお前、あの状況下で記憶したの?」
さっきの猿団子では、女子が全方位から大輔に自己紹介をする声が聞こえてたけど、まさかあのごった煮状態で判別したのか? 俺には絶対に無理な芸当だが、選ばれしイケメンには造作もない芸当なのかもしれない。
「偶然の偶々だよ。自信もなかったし、全部覚えていな…」
「佐藤君っ、私の名前も覚えてくれた⁉」
「ねぇねぇ佐藤君、私はどう⁉」
「私はっ! 私はっ!」
視界が全部女子になった!
一気に女子が押し寄せて座っていた俺は逃げられずに巻き込まれてしまい、傍から見ればハーレム状態だけど全然嬉しくない!
てゆーか怖いっ!
繁殖期で殺気立つ雌ライオンの群れの中に放り込まれた様な気分だ。
「ちょっと待って! さっきのはほんと偶然で!」
そんな大輔の歎きは届かず、クラス女子の名前当てクイズが強制開催、因みに正解率は4割くらいでした。




