03話 ヘタレイケメン
「ここが大輔の部屋よ~」
この扉の向こうに大輔がいるのか。
流石に緊張するな。
「あっ、そういえば今日病欠でしたが、会っても大丈夫ですか?」
「心配無用よ~。仮病だから」
「えええぇぇぇえええ」
入学式は体調が悪くても参加すべきイベントなのに、何してんだあいつ? 今はクラスに馴染めるどうかの重要な時期で、挨拶するだけでも印象は違ってくる。それに今日はクラス全員で集合写真も撮った訳で、あの笑顔の輪の右上に遺影っぽく晒される辛さが分からないのか? そんな感想を浮かべた後、彩さんが扉をノックをしながら。
「大輔~、入るわよ~。今シコシコしてない~?」
「彩さん、とんでもない台詞をサラッと混入しないで下さい」
心配してほしくない心配に苦言を呈したら、彩さんが悩まし気な表情になってから、
「でもね~、ちょ~っと前に美緒がノックせずに部屋に入っ、あうっ!」
美緒の肘鉄が彩さんの横っ腹にめり込み、蹲ってしまった。
「……………気持ちは分かるけど、もう少しマイルドなツッコミにした方が」
これ以上は聞きたくなかったとはいえ、痛そうだなぁ。
「いつもの事よ。兄さん、開けるわよ」
改めて美緒がノックしてから、ゆっくりと扉が開かれた。
◇ ◇ ◇
家具が一新されて昔の雰囲気は残ってないけど、窓の景色が5年前と同じままだ。
室内は綺麗に整理整頓されていて、勉強机、ベッド、クッション、ダンベル、腹筋ベンチ、ミニバイク、ぶら下がり健康器………。
スポーツジム?
部屋の一角に本格的な器具が配備されており、プロテイン袋まで転がっている。予想外な光景にリアクションが取れずにいたら、部屋の片隅で体育座りをしながらアルバムを眺めている後ろ姿が、こっちを振り向かずに話し掛けてくる。
「おかえり美緒。入学式なのに休んでごめんね」
「気にしないで。何を見ているの?」
この弱々しい言葉に、美緒は今までの尖った声を潜め、優しく背中を撫で始める。
「小4のアルバムだよ。この頃は楽しかったなーって」
この言葉で、美緒が思いっ切り睨んできた。
正直、こんなしょぼくれた背中には関わりたくないなぁ……。だけどこの面倒臭そうなオーラ、全然変わってない。そんな懐かしさを噛み締め、この背中と昔はどうやって話していたかを思い出しながら、歩み寄ってみる。
「大輔、市ヶ谷真守って覚えてる?」
「……忘れた事なんて一度もないよ。大切な友達だったから。……だけど真守はもう、僕の事を忘れちゃったみたいで」
「いや、忘れてないから。受験前は文通で励ましあっただろ」
「でも連絡が来なくなっちゃって。だからもう……………、えっ?」
やっと俺に気付いて、大輔が振り返る。
「久しぶり。元気だった……………でしょうか?」
誰だこいつ?
「そんな……、真守、なの?」
信じられないという表情を浮かべてながら、大輔?が立ち上がると。
デカッ! 筋肉すごっ! 超イケメン!
185センチくらいの長身、ポロシャツ越しに主張しまくりな大胸筋、引き締まった細マッチョ体型が存在感を高めている。しかも色白で中性的な顔立ちにショートの癖毛が異常に似合っていて、更に清潔感もあって手入れも行き届いているから完璧だ。しかも大人しくて優しそうな雰囲気で、顔だけなら「守ってあげたい」って言われそうなキャラなのに、体格は「お前を守ってやる!」と断言という訳が分からないギャップまで備わっている。
本当にこれ、大輔なのか?
状況証拠は全て揃っているのに、どうしても信じられない。
「えーっと、俺は市ヶ谷真守で間違いないけど、本当にあなたは大輔でま…」
「真守~~~、会いたかったよ~~~~~」
「ぐえっ! いきなり抱き…っ痛たたたただだだ‼ 折れる折れる‼」
飛び付いてきた大輔に押し倒され、力強過ぎる抱擁で全身がメキメキと悲鳴をあげる。
「ばぼるうううううっ! だっで、僕ずっど会いだがっだんだぼおぉぉぉぉおお」
「分かった、分かったから離れろ! てゆーかその顔で泣きじゃくるな! 鼻水を垂れ流すな! イケメンが台無しだぞ!」
このどうしようもない感じ、やっぱり大輔で間違いない!超絶イケメンに進化したのに、中身が変わってないってどういう事だよ!
「ぐぬぬぬぬ……、駄目だ解けない。美緒、彩さん、助けて!」
縋る思いで助けを求めたが、美緒は昔と同じ様に一歩離れた場所からこちらをじーっと眺めているだけで動かず、彩さんに至っては携帯をこっちに向けて「あらあらうふふ」って言い続ける有様だ。結局誰も助けてくれず、諦めて大輔が落ち着くまで10分近く抱き付かれてから、仕切り直しのティータイムとなりました。
◇ ◇ ◇
2階から更に階段を上がり、とある部屋に案内される。入ったドア横のスイッチを押すと、高い天井から下げられたプロペラ(シーリングファン)がゆっくりと回り出し、よく見れば室内の小物が淡い緑色に統一され、可愛い受け皿に入った観葉植物・草原の写真が飾られいたりと、草原を感じさせる癒し空間という具合だ。
「うふふ、気に入った喫茶店を参考にして、コーディネイトしてみたのよ~。飲み物用意するから、真守君は座っていてね~」
彩さんに諭されてアンティーク風のウッドチェアに座ったけど、きめ細やかな編み目のテーブルクロスが掛けられた机にハート形サボテン(ハートホヤ)が飾られているという、自宅とは思えない優雅な演出っぷりだ。スタバ辺りしか知らないけど、そこいらの高級喫茶店よりもお洒落っぽいな。因みに大輔は落ち着く為にシャワーを浴びに行き、美緒は彩さん一緒に用意なので、1人でソワソワしていたら、先に彩さん達が戻ってきた。
「真守君は紅茶でいい? ジュースもあるけど」
「紅茶でお願いします」
華やかな柄で彩られたティーカップ(高そう)が出てきたので、もう意見さえも憚られてしまう。それにジュースも高級そうな瓶で、果汁100%以上では?と疑いたくなる程の超濃厚そうな液体という徹底っぷりだ。
てゆーか、ケーキスタンドまで出てきちゃったよ。
乗っているのはクッキーとマフィンだが、俺が知っている奴と同じに見えない。見た目は普通だが、間違いなく高級な代物だろう。
どうしよう。
お菓子相手にビビりまくって硬直いたら、美緒が溜息を吐いてきて、
「ただのおからクッキーと豆乳マフィンで、紅茶もスーパーの安物だから」
「そう、なんだ」
情けない姿を見かねての指摘で、恥ずかしい限りだ。
「うふふふふ、これはただの演出よ~。遠慮せずにどうぞ~」
そう笑ってから、彩さんがマフィンを手に取って食べ始める。その様子は至って普通で、ナイフやフォークが出てくる気配がないのを確認してから、恐る恐る食べてみると。
「あっ、このクッキー美味しいです。紅茶と合いますね」
「それはよかったわ~。みんな体型に気を遣っているから、美味しくて健康趣向なお菓子を探すのは一苦労なのよね~」
「そうですか。…………ところで彩さん、失礼ですがさっきのは本当に大輔ですか? 5年前の面影が行方不明なんですけど」
俺の知っている大輔はチビでガリガリ、顔も普通だった筈だ。何でドッキリ成功のプレートが出てこないのか不思議なレベルで似ていないのだ。
「うふふ~、間違いないわよ~。もう2人の成長が凄くて、一瞬で背も抜かれちゃってね~。それに大輔の外見は変わったけど、臆病で泣き虫な性格は変わってなかったでしょう」
「いや、そっちは変わっていてほしかったです」
いくら成長しても性格は変わらない人は確かにいるが、限度がある。美緒も大輔に負けないレベルで変わっているけど、こっちはちゃんと性格も変わっ………、いや、美緒とは別に親しくなかったし、本人もずっと後ろで見ていただけ………。
「……………何?」
「あー、ごめん。ちょっと考え事を」
つい美緒を凝視してしまい、慌てて謝罪を入れると、彩さんが嬉しそうに美緒の頬を突いてくる。
「うふふ~、照れなくていいのよ~、きっと美緒が綺麗になったから見ごふっ‼」
死角で見えなかったけど、美緒の拳が彩さんの脇腹に入ったのだろう。佐藤家のコミュニケーションはドメスティックだなぁ。
「尋ねるのもいいけど、自分についても話したら? あと、兄さんからの手紙は読んだの?」
「あー、……ごめん、読んでないです」
ギロッ
どういう事? と言わんばかりの威圧に慌てて頭を下げる。
「ほんと御免なさい‼ 春休みは引っ越しが忙しくて‼」
「経緯、説明してくれる?」
「了解しました‼」
こうして、俺がここに戻ってきた経緯について説明する事になりました。




