01話 大輔の妹
5年ぶりに帰ってきた。
高校からもっと近い物件もあったが、あえて以前住んでいた場所の近くを選ばせてもらった。駅3つの距離なら通学に支障もないだろう。東京と神奈川の県境にあるこの安アパートが市ヶ谷真守の新しい拠点であり、今日は待ちに待った高校入学式だ。
遂に、大輔と再会できるのか。
小4の時に引っ越してから一度も会ってないけど文通はずっと続いたし、きっと感動の再会になるだろう。そんな期待と不安を織り交ぜながら玄関を後にした。まだ封が切られてない大輔からの手紙を放置したままで。
◇ ◇ ◇
「同じクラスかー」
新入生クラスが記載されたプリントを校門で受け取り、確認すると1年A組に市ヶ谷真守・佐藤大輔の名前があり、苦笑が漏れてしまう。これで大輔を探す手間も省けた訳だし、行ってみるか。
◇ ◇ ◇
クラス到着後、黒板の座席表を確認して自席に座り、それから恐る恐る佐藤大輔の席を確認してみたが誰もおらず、まだ登校してない様だ。なので家に残っていた小4名簿を取り出して高1の名簿と見比べてみると、元同級生は大輔を含めた男子が2人・女子は0人という結果で、もう1人の元同級生である下野を探してみたら、窓際席でボーっと座っていた。
……………全く記憶にない。
うろ覚えどころか、誰だっけ状態だ。
そもそも下野とは親しくなかった訳で、どんな奴だったっけ? 何かもう知り合いどころか他人に分類されている気がしてならないけど、行ってみるか。入学初日というフワフワした今の空気なら大丈夫だろう。
「おはよう、俺は市ヶ谷真守。宜しくな」
「おっ、おおう。ヨロシク」
普通に話し掛けたのに、びくっ!って驚かれちゃったよ。しかも警戒しているのか挙動不審で、更に下野は前髪がやたらと長いから目線が合っているのかも不明だけど、会話を進めよう。
「やっぱり入学初日って緊張するな。しかも俺は引っ越してきたから知り合いが全然で、けど以前この辺りに住んでた時期があって、下野とは小4で同じクラスだったんだけど、憶えてたりする?」
「えっ? ……………そ、そうなの?」
あっ、これは駄目だ。
キョトンとされちゃったし、俺自身も記憶にないから会話が広げられない。
「あー……、ごめん。ちょっと聞いてみただけだから。とにかくまた同じクラスになれた訳だし、今後も宜しくな」
そう伝えてから、そそくさと自席に帰還、戦略的撤退である。漫画なら友情イベントが発生する場面だったけど、現実はこんなもんか。なので大人しく大輔が登校するのを待ってみたけど、一向に現れないまま時間だけが過ぎて先生が到着、朝礼の最後に〝佐藤大輔は病欠〟と宣告されちゃいました。
幸先悪いなぁ。
◇ ◇ ◇
入学式が終わった終礼前の休憩時間、廊下を歩く同級生を眺めてみたが、やっぱり知り合いは見当たらない。いや、もしかしたら居るかもしれないけど、見分けがつかない。どうやら5年という時間は予想以上に長かった様で、そんな現実を噛み締めていたら、1人の女生徒が目の前を通り過ぎる。
あれっ、見覚えある?
もしかしたらという思いで記憶を探ってみたが、大輔以外の記憶はぼんやりしていて、おまけに別の小学校の記憶が混同して、全然思い出せない。それに今の子は美人だったし、ただ見惚れただけの可能性も……。
なんか、煩わしいな。
中途半端な懐かしさのせいで、調子が狂ってしまう。それに今の子が本当に知り合いだったとしても、それ以上の意味なんてないし、話し掛けてもさっきと同じ微妙な空気になるだけだ。
だったらもう詮索は止めよう。
もしかしたら大輔との再会も味気ないものになってしまうかもしないけど、それは仕方のない事かもしれない。だけどせめて、一目で大輔って判別できたらいいな。そう考えていたら、さっき通り過ぎた女子が振り返り、こっちを見てくる。
ヤバっ、凝視し過ぎた。
すぐに愛想笑いをしてから、クラス内に退散した。
だから気付けなかったのだ。
振り返ってきた女子が、俺のクラスを眺め続けていたのを。
◇ ◇ ◇
「あなた、市ヶ谷真守なの?」
「はい、そうですけど」
終礼と同時にさっきの女子が入室、目の前に立ち塞がる。スカーフ付きカチューシャ・黒髪ロングにキリッとした顔立ち、女子にしては身長がかなり高く、体の線もスラッとしたモデル体型、立ち振る舞いも堂々としているから何事も卒なくこなせて隙名が無いって印象で、何よりも周りが注目(特に男子)されているから、美人レベルも相当高いみたいだ。
どうやら本当に知り合いだった様なのだが、名前が出てこない。女子の成長は凄いって聞いてはいるが、引っ越しばっかりで同級生の成長を見据える機会がなかったから、さっぱり分からん。
「そう、なら行くわよ」
確認終了とばかりに間髪入れずに手を掴まれ、強引に教室から引っ張り出され、かなーり注目されながらの退場となりました。
「え? あの? 行くって何処に?」
「私の家」
何この超展開?
ほんと誰なのこの子?
なんかもう名前を確認し辛い流れになっちゃったから、それとなく質問をして情報を引き出さないと。
「あの、急に家は唐突過ぎませんか?」
「ずっと待っていたから唐突じゃないわ。それに昔は仲良しだったじゃない」
そうだったの?
もしかしてこの美人が大輔……な訳がない。
胸はペッタンコだけど体つきは完全に女の子で制服もスカートだから有り得ない。てゆーか俺、即連行レベルでこの子を待たせちゃってたの?
「じゃあ、昔は何して遊んでたっけ?」
「私はずっと後ろで見ていただけ。一度も遊んでないわ」
まさかのストーカーだった。
一方的に見ていただけで仲良し判定、5年ぶりに発見した途端に強制連行は例えそれが美人だとしてもホラーでしかない。いやむしろ美人だからこそ余計に怖い気がする。
「いや、ええっと…、最近引っ越したばかりで荷物整理が終わってないから、また今度でいいでしょうか?」
咄嗟にそう提案して先導する足が止まってくれたのだが、その子が振り返るのと同時に詰め寄られ、険しい目つきで睨んでくる。
すっげー怖いんですけど。
美人の睨みは通常の三割増しで居心地が悪く、しかも背が俺と同等だから威圧感も相俟って、愛想笑いで踏ん張るのが精一杯だ。
「じゃあ私も手伝うわ。訪問は整理が終わってからでいい。家は何処?」
アカン、逃げられない。
俺の手を握ってくる力も強まってるし、何処までも付いて来る気だ。完全に退路が封鎖され、薄ら寒いものを背中に感じながら、恐る恐る聞いてみた。
「あなたの家で、何をするのでしょうか?」
「会ってもらう。私の〝お兄ちゃん〟に」
お兄ちゃん?
つまり、俺をそのお兄ちゃんに会わせたいだけで、この子は妹……。
「もしかして美緒か!?」
意外な正体に思わず叫んでしまい、この言葉に美緒が一瞬きょとんとした後、ギロリと睨んでくる。
「そう、気付いてなかったのね」
「いや、ええっと、……………成長したね」
「そうね。5年ぶりだし、以前の私、デブだったからね」
失言にならない様に言葉を選んだのだが、端的に表せばそうなる。美緒は大輔の妹で、昔は常に何かを食べながら俺と大輔が遊んでいるのを離れた場所から観察、一緒に遊ぼうと誘っても無反応という謎な存在だったのだ。
それが今ではこの有様である。
全身にあったあの脂肪は、成長と共に全て焼き尽くされたらしい。
「気付けなくてすみませんでした。今から大輔の家に行くので、それで許して下さい」
「分かった。あと私は1年C組だから」
サラッと言ってから美緒が速足で進みだしたので、それを急いで後を追い駆ける忙しない下校となりました。
導入パートなのでサクサク進めます。




