第98話 いきなりの金欠
俺は今、食事が終わり、カローラから話があるという事で、皆で食事をしていた食堂から、隣の談話室に移り、疲れていた俺は、一息つきながらお茶を飲んでいた。
何故、疲れていたかと言うと、城の食堂でのちゃんとした食事になれていないダークエルフ達が喧しいかったのもあるが、食事前にハバナの姿が見えないという事で探し回ったら、城の外の尖塔の上まであがっていて、怖くて降りられなくてにゃにゃと泣いている所を俺が助けに行く羽目になったこともある。降りられないなら登るなよと思うが、馬鹿となんとかは高い所が好きという奴だろう。
そんな事があったので、俺は暖かいお茶を飲んで、身体の疲れをほぐしている所であるのだが、そんなにゆったりとした気持ちで飲んでもいられない。なぜなら、正面に座るカローラが俺を姑の様な顔つきで俺を見ているからである。その後ろにはメイド服を着せられたプリンクリンが鬼姑に付き従う新妻の様に控えている。
城に帰って来た時も思ったが、なんでカローラとプリンクリンの関係がこんな事になっているんだ? それと、城の内部の装飾が元通りに出来なかったとも言っていたな… なんでだろ?
「イチロー様、そろそろ、お話してもいいですか?」
カローラが俺を見据えて声をかけてくる。
「おう、なんの話だ?」
俺はティーカップをテーブルに置く。
「率直にいいます。お金が無くなりました。このままではやっていけません」
「えっ? お金が無くなったって、この城には王族が残した財産がたんまりあったんだろ?」
俺の言葉にプリンクリンがビクリと肩を震わす。
「プリンクリンが城の内装やら、骨メイドの新しい服装やらで、散々、散財をしてくれたお蔭で、城のお金が尽きてしまったのです…」
「あぁ… それで城の中の内装を元通りにすることが出来なかったのか…」
城の外壁の色を変えるぐらいなら、魔法でなんとかできるが、模様が異なる壁紙や、装飾品などの内装は魔法でどうこうするのは難しいからな。後、何気に金額的に痛いのが、骨メイドの服装についてだろう。
俺もこの世界に最初に来て驚いたのだが、この世界は衣料が滅茶苦茶高いっていうか、元の現代社会がいかに衣料が安いか気付かされた。元の世界なら1万もあれば普段着を上から下までそろえる事が出来るだろうが、この世界ではその最低10倍は掛かる。ちょっと、小マシな衣装なら、車一台分、お貴族様の衣装なら家一軒分ぐらいの金額が掛かるのだ。つまり、衣装は消耗品ではなく、資産なのだ。
普通の衣装ですら、そんな状態なのに、あの骨メイド、いったい何人いるか知らんが、全員にあの衣装を見繕ったら相当な金額になったであろう…
「城の中にも布地の備蓄はありましたが、足りない分を買い足したようで、それで裁縫の出来る骨メイドに作らせたようですね…」
「なるほど、そうして綺麗で可愛らしい衣装を与えられた事で、骨メイド達が、プリンクリンに骨抜きにされていたのか…」
「骨メイドが、骨抜きにされたってのは、面白い言い回しでやすね」
カズオが俺の言葉に付け足す。
「骨メイドが、骨抜きにされて、衣装だけ残るという訳か… なるほど、面白いのう」
「シュリ! 笑いごとじゃないわよ! プリンクリンの作った衣装を売ってお金にしようと思っても、あの衣装を気に入っている骨メイドが多いから売れないのよ…」
あ~ あの骨メイド達、ああ見えても、中身は年頃の女の子の感覚だから、そう言うのには敏感だよな… 売ったら多分、落ち込むだろう…
「カローラ、プリンクリンが無駄遣いをしたのは分かるけど、今までも贅沢をしていたのに、なんで今回の一件で急にお金が無くなるんだよ」
ここの談話室のカローラの本のコレクションを見ても、今まで結構な金を使ってきたはず。本なんかもこの世界では衣装並みに値段が張るはずだ。
「そ、それは… イチロー様に服従する前は、魔族側に属していましたから、欲しいものは全て略奪していたんですよ… でも、イチロー様に服従してからは人類側に属したので、略奪ではなく、ちゃんと取引で欲しいものを手に入れているので…」
あぁ… カローラはカローラなりに俺や人類側に気を使っていたのか… 確かに金がなくなっても、前の様に人類側から略奪すれば心配する必要なんて無いからな…
「分かった、俺からある程度の金を出そう、少しは足しになるはずだ」
俺はそう言って、懐から金の入った袋を取り出す。今までの俺自身の貯えとウリクリとイアピースからの報奨金の入った袋だ。
「主様、何か紙が落ちたぞ」
袋を取り出すときに、一緒に出てきて落ちた紙をシュリが拾い上げる。
「あぁ、イアピースで買った情報紙だ。読んでいる途中で飯が出て来たので、忘れていたな」
「へぇ~ そうなのか… 主様、ちょっと読ませてもらってもよいか?」
「あぁ、いいぞ好きにしろ」
俺はそう答えながら、テーブルの上に財布の中身をジャラジャラと音を立ててぶちまける。そして、テーブルの上に散らばった硬貨を確認していく。プラチナ貨が三十八枚、金貨が二十五枚、あとは銀貨や銅貨、ビタ銭などだ。
「プラチナ貨と金貨二十枚はカローラに預ける。後は俺の持ち分でいいな? 流石に全部は渡せん」
「ありがとうございます。イチロー様。これである程度の支払いは大丈夫だと思います」
「ん? ある程度の支払い? それだけでは足りんのか?」
プラチナ貨と金貨と合わせて、日本円にして四千万ぐらいの金だ、それがある程度の支払いってどういう事だよ。
俺の言葉にカローラは後ろのプリンクリンをチラリと見て、プリンクリンはしょぼくれる。
「プリンクリンが骨メイドの衣装だけではなく、これから産まれる赤子の布地も注文していたのです… それも大量に… 今後の商人との取引の事を考えると、キャンセルするわけにはいきませんので…」
赤子の服の為の布地って… これって、やっぱり、間接的に俺のせいなのか… カローラにもプリンクリンにも何も言えん…
俺は気まずさを感じて目を伏せる。カローラもプリンクリンも口に出さないだけで、原因を作ったのは俺だという事は分かっているはずだ。俺の蒔いた種だしな… しかし、この気まずい空気を誰かなんとかしてくれないものか…
「あっ!?」
唐突にシュリが声をあげる。これはありがたい。
「どうした、シュリ?」
シュリは目を大きくして情報紙を凝視しながら、わなわなと身体を震わせている。
「あ、主様… ベアースじゃ… 今すぐ、ベアースに行こう!」
ベアース? 確か、ウリクリの東、海側にある国だったな…
「ベアースに何があるんだ?」
「ハルヒ殿じゃ! 『初恋、はじめました』のハルヒ殿が難民キャンプにおるそうじゃ! 今すぐ助けに行くのじゃ!」
ハルヒとか『初恋、はじめました』とか一体、何のことだよ…
俺はシュリの言葉に首を捻った。




