第89話 おや?カローラ城の様子が…
俺は手袋をつけた手で猫じゃらしを揺らしている。
「にゃっ! にゃっ! にゃん!」
というのも、ハバナを一日数時間、構ってやらないと、拗ねるというか、落ち込むだからだ。しかし、俺も自分の時間が欲しいので完全にはハバナを構ってやれない。だから、何かをしながら、こうして猫じゃらしを揺らしてハバナを構っているのである。ちなみ、手袋をつけているのは、毎回のようにハバナが勢い余って手を引っ搔いてくるからである。お蔭で、手が引っ掻き傷だらけだ。
「で、シュリ…」
「なんじゃ? 主様よ」
シュリは本に目を落としたまま答える。
「お前、マジで農業始めるつもりなのか?」
「にゃっ! にゃっ!」
今、シュリが読んでいる本は、以前買った、農業関係の技術本である。そろそろ、城が近いという事で、本を読みなおして、必要道具を揃えるために、紙に書き写しているのである。
「当り前じゃ、わらわもいつまでも主様や、カローラの脛をかじってばかりでいかんじゃろ、自分の食う分ぐらいは自分で稼ぐ…いや作らんとな」
シュリの奴は変なところで、責任感が強いというか自尊心が高いというか、なんだか、宙ぶらりんの自分の立場が嫌なのであろう。カズオは料理担当だし、カローラは… 自分自身では何もしていないが、骨メイドを出して俺たちの身の回りの世話や、金や設備や道具を出している。というわけで、シュリだけ役回りがないと思っているのであろう。
「お前も巣に戻れば、その人間形態なら一生食うに困らない金銀財宝があるんじゃないのか?」
「なんで、人がドラゴンが財宝好きだと思っておるかは知らんが、金の必要な今なら兎も角、昔のわらわは興味がなかったのぅ… あまり持っておらんかった」
「でも、ある程度の財宝は持っていたんだろ?」
「それは、わらわを恐れた村や町の人間が、わらわから襲われんように貢物として持ってきたり、また、わらわを退治しようとやってきた奴らを返り討ちにして落としたものじゃ、まぁ、その財宝ももう手が届かぬがな…」
「また、なんでだよ?」
俺がそう言うとシュリは本から顔を上げ、真顔で俺を見る。
「わらわの財宝は、この姿をくれた娘に埋葬品として一緒に埋めてやったわ… だから、わらわはいわば一文無しじゃ」
「にゃっ! にゃん!」
俺はその言葉に、返事に詰まる。こいつは結構、義理堅いというかなんというか、こういうところはホント人ができているな。
「分かった… じゃあ、好きなだけ農業して、俺たちに貢献してくれ、道具は投資という事で俺が金を出してやるから…」
「にゃっ! にゃっ! にゃん!」
「ありがとうなのじゃ~!」
俺の言葉で真顔だったシュリの表情がぱぁ~っと開いていく。
「金を出してくれるというなら、最初に作る作物は主様の好きな作物を作るぞ! なんでも言ってみぃ?」
「俺の好きな作物か… そう言えば米食いたいな…」
「にゃっ! にゃっ!」
カズオ飯も美味いので不満はないが、たまにシンプルな塩だけで握ったおにぎりも食いたいな… 焼きおにぎりも良い… あの醤油の焦げる匂いと表面のお焦げの食感がいいんだよなぁ~
「ならば、わらわに任せるがよいぞ! 米ぐらい、たんまり作ってやるわ!」
俺はそのシュリの言葉にカチンとくる。
「お前は、米を舐めるなぁ!!」
俺のいきなりの大声にシュリは肩を震わす。
「な、なんじゃ… 主様、何故に急に怒りだすのじゃ…」
「お前は米作りを舐めている… 俺がどれだけ苦労したと思ってんだよ… 土づくりから初めて、気温や、天気、絶えず水位を気配りして、刈り入れ時期や干す時間なども研究して、それでも上手く行かないから農水省のホームページまで見て調べながらゲームをしていたんだぞ!!」
あのゲーム、たかが、可愛い幼女が出てくるゲームと思っていたが、想像以上に米作りがシビアなゲームだった… その時の、苦労を思い出して、簡単に米作りの事を言うシュリに腹が立ったのである。
「なんか、ようわからんが、米作りを甘く見るなという事じゃな… 分かった… わらわも改めよう… 簡単なものから始めるとするか…」
「ま、まぁ… そういう事だ! 農業を甘く見るなよ! 簡単なように見えて奥深いんだ! しかし、シュリなら必ず出来る!」
折角、俺の為に作ると言っていったのに、俺から怒鳴られてしょぼくれているシュリを見て、流石に俺も大人気なかったと思い、詫びのつもりで励ましておく。
ガブッ!
「痛てぇぇぇ!!!!!」
猫じゃらしを揺らしていた手に激痛を感じて叫ぶ。驚いて手を見ているとハバナが手に噛みついていた。
「はっ! す、すまないにゃ… つい勢いで…」
ハバナは悪いことをしたと思って耳を伏せる。俺は手袋を脱ぎ、手の様子を確認すると、きっちり歯形がついていた。
「ハバナ! ハウス!」
俺はそう言って、戸棚を指さす。するとハバナはシュンとしながら、戸棚の前に行き、扉を開いて上の棚に飛び乗る。もちろん、その時に、戸棚の下にいるクリスの姿も見えるが、膝に顔をうずめているのでその表情は分からない。
ここ最近、ハバナが粗相をした時は、こうして戸棚の上の段に行かせて大人しくさせるのが躾になっている。本当の猫とは違い、言葉が分かるので躾は楽だが、やはり、本能の強いハバナは、もののはずみや勢いで粗相をすることが多い。
俺はついでにポチの上で寝そべるミケも見る。ミケも気分屋でぐーたらだから、いまいちなんだよな… まぁ、貞操体の鍵は預かっているから、城に帰ったらたっぷりと頂こうと思う。道中、なんどか致そうと思ったが、さすがにとなりでカローラやシュリが寝ている横では出来ないし、シュリに一度怒られたからな… 城ならば大丈夫だろう。
こう考えると、ペットはやはりポチが一番だな。従順で素直で賢くて可愛い。まぁ、そのポチも最近、ミケに奪われ気味だが…
そんな事を考えていると、馬車の速度がどんどん遅くなっていき、最終的に止まってしまう。確かに城の近くに帰ってきているはずだが、こんな止まり方はおかしいな?
「だ、旦那ぁ…」
御者台のカズオの声がする。
「どうした? カズオ」
俺はカズオに聞こえるように、大声で言う。
「ちょっと、こちらに来てもらえやすか?」
なんだか、カズオが呼んでるな… 俺は連絡口に向かい、外に出る。
「どうしたカズオ?」
「ちょっと、アレを…」
そう言ってカズオが道の先を指さす。
「なんだよ… って… あれはなんだよ!!」
「へ、へい… カローラ城だとは思うんでやすが…」
カズオは顔を強張らせて言う。
「まっピンクになってるじゃねぇか!!!」
そこには、おとぎの国というか、ファンシーというか、城全体がまっピンクになったカローラ城があった。
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同一世界観の『世界転生100~私の領地は100人来ても大丈夫?~』が
最終回を迎えました。よろしければ、そちらもご愛読願います。
https://book1.adouzi.eu.org/n4431gp/




