第74話 北の国の部屋
「どうして引き留めてくれなかったのだ!!!!」
戸棚の中に立てこもったクリスが叫ぶ。
「ほれみぃ~ 主様… 言うた通りじゃろ…」
シュリがやれやれといった顔で俺を見る。
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか、クリスがあまりにも堂々と出ていくから」
俺は皆は分からないと思うがえなり風に言う。
「しかし、私にこれをつけたのはイチロー殿であろうが!! 私が街中でどれだけ恥を書いたと思う!!!」
「…どんな恥を掻いたんだよ?」
一応、念のために聞いてみる。
「町をあるいていたら、奥様方が集まってきて、あら、こんなに大きなお子さんだったのね?とか、お母さんより大きな赤ん坊なのねと言うから、ようやく私は自分の姿に気が付いたのだ!!!」
「じゃあ、気が付いたんだったら取ればいいだろ?」
俺は戸棚の扉の前に進む。
「私の渡した物をちゃんと使ってくれているのねぇ~とか、私の渡した物大事に使ってねとか、言われたんだぞ!! そんな奥様方を目の前にして取れるわけがないだろ!!!」
「じゃあ、口で説明すらば良かっただろ!?」
俺はしゃがんでそう告げる。
「…口で説明しようと思ったら、奥様方の一人が、貴方のお母さん、シュリちゃんでしょって聞いてきたんだ…」
「で、なんて答えたんだよ?」
クリスの奴、シュリの子供と思われたのか…無理があるだろ。
「…バ、バブーって…」
「それ、自分自身のせいじゃないかぁ!!!」
俺は立ち上がって怒鳴る。確かに赤ちゃんグッズを身に着けたのは俺だが、話を聞いていたら、全部、クリス自身の墓穴じゃねぇか!
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか! あの姿でそれ以外、なんて言えばいいんだ… 私はもう恥ずかしくて恥ずかしくて…戸棚の外には出れなくなった…」
なんでクリスがえなり風に言い訳するんだよ…しかし、まぁ… 気の毒なのには違いない。
俺はカズオにお願いをしようと振り返るが、カズオを含めシュリもカローラも笑いを堪えて肩を震わせていた。
「…カズオ、ちょっといいか?」
「へ、へい…なんでやしょ?」
カズオは笑いを堪えたゆがんだ口で答える。
「また、クリスの為にまた骨付きあばら肉作ってくれるか?」
「私に骨付きあばら肉を与えておけば、機嫌がよくなると思うなよ!!」
俺の言葉にクリスが抗議の声を上げてくる。
「じゃあ、いらねえのかよ…」
俺は戸棚に向かって言い放つ。
「…いる…」
戸棚から小さな声で帰ってくる。その言葉にカローラがこらえきれずにぷっと拭く。
「だ、旦那ぁ、作りていのは山々なんでやすが、作れねぇんでやすよ」
「えぇ~!!!」
俺が答えるより前に、戸棚の中のクリスが答える。俺は戸棚をちらっと見てからカズオに向き直る。
「それはどうしてなんだ?」
「へい、最近、ポチが馬車に近づけねぇせいで、肉が手に入らないんでやすよ…」
カズオは申し訳なさそうに頭を掻く。
「あぁ、そうだったよな… ポチの奴、臭いのせいで最近、全然近寄って来ないもんな… このまま野生に返ったらちょっと寂しいな… 連れ戻すか」
「主様よ、どうやって連れ戻すのじゃ?」
シュリが首を傾げる。
「どうやってって、呼びかけてみるしかねぇだろ…」
俺はそういって、馬車の外に出て、町はずれの方向を見る。遠くのところにポツンと点が見える。多分、あれがポチだ。
近づいていったら、警戒して逃げると思うから、ここから呼びかけるしかないよな… さて、どうやって呼びかけよう… たしか、テレビでこんなシーンを見たことがあったよな… あれ、なんて呼びかけていたんだっけ? 確か、北海道で狐を呼び出すシーンだったよな… メロディーラインがちゃんと思い出せんが、多分、こんなのだったはず。
「るーるる るるる♪ るーるる るるる♪」
「なんじゃ? 主様、それは?」
俺について出てきたシュリが聞いてくる。
「あぁ、これか? これは俺の世界の動物を呼ぶときの呼び声だ。シュリ、お前もやれ」
「えっ? わらわもか? 仕方ないのう…」
そうして、二人でポチに向かって呼び声を上げ始める。
「るーるる るるる♪ るーるる るるる♪」
「るーるーるーるー♪ るーるるー♪」
よし! 効いているぞ! だんだん、点が近づいてくるように見える。
「だ、旦那…何やってんでやす?」
「おぅ! カズオ! ポチを呼んでいるんだ! お前もやれ!」
「えっ!? あっしもですかい? そ、それじゃ…ルールルルルル」
カズオも少し恥ずかしがりながら、呼び声をあげる。
「カズオ! 違うぞ! ルールルルルルではない! るーるる るるる♪ じゃ!」
「へ、へい、すいやせん… るーるる るるる♪」
カズオがシュリに間違いを訂正されて呼び声をあげる。点が段々大きくなってくる。わずかであるが、ポチだと認識できる距離まで来た。
「おい! カローラも呼んで来い! 一緒にやらせるぞ!」
「へ、へい、 カローラ嬢! 旦那がお呼びですぜ!!」
カズオが馬車の入口に向かって声をかけるとカローラがちらりと顔を出す。
「えぇぇ… それ、私もやるの?…」
「当たり前だ! さっさと来い! カローラ!」
俺が声を飛ばすと、カローラがいやいやながら馬車の外に出てくる。
「じゃあ、みんな一斉にやるぞ!!」
「るーるる るるる♪ るーるる るるる♪」
「るーるーるーるー♪ るーるるー♪」
段々、ポチが近づいてきている!!
「るーるる るるる♪ るーるる るるる♪」
「るーるーるーるー♪ るる・るー♪」
ポチの姿がハッキリ見えるぞ!!
「らーらら ららら♪ らーらら ららら♪」
「らーらーらーらー♪ らーー♪」
ポチが走ってくる! 走ってくるそ!!
「ららら らーらーらーらー♪ らーららー♪」
「らー ららら~~♪」
歌い終わると同時に、ポチが俺に飛び込んでくる。
「ポチぃぃぃ!!! お前、久しぶりじゃねぇかぁぁ!!!」
「わう! わう!!」
俺は久しぶりにポチをがっちり掴んでワシワシしてスキンシップを交わす。それに答えるようにポチはぶんぶんと尾っぽを振り回す。
それと同時に辺りの町並みから拍手喝采が巻き起こる。
「素晴らしいわ!!! 主と動物の再開シーンよ!!」
「凄い感動的だったわ!! 歌でペットを呼び寄せるなんて!!」
「孕ませ魔もいいところあるじゃないの… 私、感動しちゃったわ!!」
町の奥様方が家の窓から身を乗り出して、俺たちに賛美の声と拍手喝采を送っている。
「えぇぇ~ 全部見られていたのか…」
「まぁ…町の中じゃから当然じゃのう…」
「これ、なんの公開処刑…」
「あっしもちょっとこれは…」
俺たちは互いに目配せするとそそくさと馬車の中に入っていく。
「カズオ、すまねえが、馬車を出してくれ!」
「へい、分かりやした…」
カズオは逃げるように馬車を走らせる。
「もう、この町には色々な意味で二度と来れねぇな…」
「あぁ、そうじゃのう…」
こうして、俺たちは町を後にした。
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