第61話 お供え
「いたたた…主様よ…別に殴らんでもいいじゃろうが…」
シュリは頭のてっぺんを涙目で抑えながら、頬を膨らませ口を尖らせる。
「うるせぇ! 言い出しっぺはお前だろう! げんこつだけで済んだのを有難く思え!」
俺はシュリに落としたげんこつを握って見せる。って言ったものの、シュリの頭は結構、硬かったので、俺もげんこつが痛い。
「だって…主様がわらわの女心を分からずに、別のおなごの恋文を探させるからじゃ…」
それで嫌がらせに言い始めたのか…くっそ、なんでまだやってもいない子供みたいな奴に正妻気取りされなきゃならんのだ…
「それより、カズオ、荷物の受け取りってなんだよ?」
俺はシュリの事は置いといて、カズオの荷物の受け取りについて尋ねる。
「へい、クリスさんに燻製肉を渡しちまったんで、ポチの食べるものが足りなくなって、食料品店に買いに行ってたんでやす。そしたら、ミケさんも自分のカリカリを買いに行きたいって、三人で一緒に…」
カズオはポチに目をやる。そのポチの上ではミケが気持ちよさそうに寛いでいる。
「ミケ…お前、ポチに懐き過ぎだろ、それにここまで戻ってきたんだ。ポチから降りろ」
「いやー ポチさんの毛並み、すごい気持ちいいんで離れにくいのです」
そう言ってポチの上で欠伸しながら伸びをしている。ポチもある程度は気にしているようだが、馴れ馴れしいミケを受け入れている。ポチは賢くてあのクリスに餌を分けてやるぐらい優しい奴だからな…仕方ないか…
「所でカズオ、食材の補充と、今日の飯はどうなんだ? 俺はティーナ姫が途中で体調をくずしたもんだから、晩餐を食いそこなった」
「へい、漬け込んでおいた骨付きあばら肉は残っておりやすが、肉はそれだけでやすね…やはり、都会で肉を大量に買おうとすると値が張りますので… 肉は街を出てポチが狩りを出来る所までお待ち下せい」
あー確かにポチ基準で考えると、街で肉を買おうとすると、いくら金があっても足りなくなるな…だから、カリカリを買い足しに言ってたのか… クリスの奴、最後だからと言って、背中や両脇に抱えて持って行ったからなぁ~ 食い意地の張った奴め…
「じゃあ、今日は肉なしか…」
「ご希望なら残っている骨付きあばら肉を焼きやすが、街への買い出しで、ポチの狩りでは得られない、チーズや魚なんかを買ってきているのでそれを使おうかと」
そういってカズオは炊事場の棚からデカいタイヤの様なチーズを取り出して俺に見せる。
「おぉ! 結構いいもん買ってるな! じゃあ、今日の飯は頼むぞ!」
「へい! お任せ下せい! 旦那!」
カズオは自信ありげに微笑むと早速下ごしらえを始める。俺はカードの開封に戻ろうとすると、シュリがまだふくれっ面で俺を見ている。
「なんだよ…まだ、拗ねているのかよ」
「…ほれ…主様、お望みのティーナというおなごからの恋文じゃぞ…」
シュリはすっと手紙を差し出す。こいつも変なところでややこしいな…
「シュリ、良く見つけてくれたな~ 誉めてやろう」
俺はそういって、先程、げんこつを落とした頭をなでてやる。
「わ、わわらわは、そそその程度のここ事で… まぁよいか」
良いのか… ほんと子供だな…
俺はシュリのメンテを終え、機嫌がよくなった所でティーナ姫の手紙を読み始める。
「…………………… くっそ…やはり、ティーナ姫だったのか…」
俺はため息をつきながら頭を抱える。
「一体、どうしたのじゃ主様、手紙に何がかいてあったのじゃ?」
機嫌の治ったシュリは、俺の前に座り、テーブルに頭と腕を投げ出しながら聞いてくる。
「いや、前の『淫乱魔剣士』のカードをカミラルが作ったから、そのお詫びに新しいカードを作ったって…それに合わせた衣装を送りますって事らしい」
「『淫乱魔剣士』とな?」
シュリは首をかしげる。
「あぁ、シュリは見てなかったな、カローラ見せてやれ」
「はい、これ」
カローラはシュリに見えるようにカードを差し出す。
「これはこれは、主様の事を良くとらえておるな」
「で、これが『麗しの』カード」
そういって、カローラが『麗しの』カードも見せる。
「おい!こら!」
「いやいやいや、良いではないか主様… これは良いぞ! まるで、恋愛小説の王子様の様ではないか… 主様もこの表情で着るなら、さっきの服も似合うぞ」
最近、シュリは恋愛小説にハマっているから、乙女ゲーのスチルみたいなのが好きなのか…
「似合うも似合わないも、そんな服、普段は着ていられないだろ」
「では、どうするのじゃ?」
必要になる時までしまっておけば良いだろう。
「戸棚にでもしまっておいてくれ」
「相分かった」
シュリは少し勿体なさそうな顔をすると、ソファーから降りて戸棚の所へ進む。
「よし、残りのパックも開けていくか」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
パックに手を掛けた瞬間、シュリが悲鳴をあげる。俺はすぐにシュリに目を向けると、尻もちをついて腰を抜かしている。
「どうした!? シュリ」
俺がシュリのもとに駆け寄ると、シュリは震えた指先で戸棚を指し示す。
「戸棚がなんだよ…って、わぁ!! なんだよ!!」
俺も驚いて声をあげる。
「あぁ、『麗しの』イチロー殿か…」
戸棚の中にはクリスが膝を抱えて座っていた。
「おまっ! なんで戸棚の中にいんだよ! 実家に帰ったのじゃなかったのかよ! それにお前も『麗しの』って言うな!!」
俺が怒鳴ると、青い顔をしたクリスが涙目で更に膝を抱える。
「実家に帰ったら…私の葬式を行っていたのだ…」
「あぁ…確かに勝手に何週間も行方をくらましていたら、死んだものと思われるわな… でも、もう親も兄も死んで親一人子一人なんだろ? 生きてるって出ていけばいいだろ」
俺がそう言うと、くぅーっと声をあげながら膝に顔を埋める。
「母は私が死んだことで、私の家系に対するしがらみがなくなったので、再婚したのだ…」
「うわぁぁ…」
俺は思わず声が出てしまう。俺だけではなく、他の連中も眉を顰める。これはなんというか…酷い…
「で、その後、偶然、仕事場の同僚に見つかったのだが、騎士団の方でも私の居場所はもうどこにも無いそうだ… ははは… 今更帰って来ても困るらしい…」
「……」
正直、これは掛ける言葉がない。まぁ…また、ここにおいてやるしかないか…
きゅるるるぅぅぅぅぅぅぅ~
シリアスは場面なのに腹の虫の音が鳴り響く。
「誰だよ! こんな時に腹の虫鳴らしているのは!!」
流石にデリカシーがなさすぎる。クリスに気の毒すぎる。
「私だ…『麗しの』イチロー殿…」
「って、お前かよ! なんで腹の虫鳴らしてんだよ! ここを去る前にあんなにデカい燻製肉を三つも持って行っただろうが!」
俺が怒鳴るとクリスがえっくえっくと泣き始める。
「同僚に言われたのだ…イチロー殿を追うときに、衛兵から借りた金の取り立てと、子供から取り上げたカードの弁償の請求があったと… 私が死んだ事になっているのをいいことに法外な金額を家に請求されたらしい…」
「衛兵の借りた金は知らんが、カードはマジ値段張るぞ…」
俺の言葉にクリスは肩を震わせる。
「という訳で、せめてもの償いという事で、燻製肉を葬式に供えてきたのだ… おかしいだろ? 自分の葬式に、自分でお供えするなんて…」
俺はもうクリスが哀れ過ぎて言葉が出なかった。俺はカズオへと視線を向ける。
「へい… 旦那… 分かってやす、今日の晩飯には骨付きあばら肉を焼きやしょう…」
こうして今日は魚とチーズのムニエルと骨付きあばら肉という豪華な夕食となった。
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