第52話 自由時間と読書
今回はPCが不調な為、早めの時間にアップしました。
「…主様は行ってしまわれたな…」
「うん、いっちゃったね…」
わらわとカローラはプリンクリンを抱きかかえて立ち去った主様を見送り、呆然と立ち尽くしていた。
「主様は、飯も風呂も勝手にしろとおっしゃっていたが、どうする?」
「どうするってなにを?」
カローラは訳が分からず首を傾げる。
「いや、主様は骨メイドと話せんのだろ? では、わらわたちがおらなんだら、主様が飯とか困るであろう」
「あぁ、なるほど。分かった」
「なんの話でやすか?」
わらわとカローラが話していると、馬車の後処理が終わったカズオがやって来る。
「いや、主様がプリンクリンを連れて閨に籠られたのでな、わらわたちはどうしようかと…寝るも食うも風呂に入るも勝手にしろと仰っておったが…」
わらわはカズオに事情を説明する。
「あ~それは、本当に勝手にしたらマズいですね…この前の人間の娘さんが来た時は、勝手な事をやったら怒られやしたからね…」
「いや、主に怒られておったのは、カズオ、お主が大声を出してケツを掻いておった事であろうが… まぁ、よいどちらにしろ、すぐに分かる処におらんとマズイであろう」
わらわはそう言って、カローラを見る。カローラならばこの城に一番詳しい。
「うーん、食堂の隣に居間というか談話室があるから、そこで皆で待つのはどう?」
「では、案内してもらえるか?」
「うん、いいよ。あそこなら、ふかふかのラグも敷いてあるからゴロゴロ出来るし、本もいっぱいあるよ」
こうして、わらわたちはカローラの案内で談話室に通される。談話室という部屋であるが、恐らくは幼子がいる家族が寛ぐ為の場所であろう。カローラの言うようにふかふかで寝転がったら気持ちよさそうなラグがあり、その上に、同じくごろ寝が出来そうな長めで、奥行きのあるソファー、その前のテーブルはソファーの上に寝転がって上で物が取れる丁度良い高さである。
「ぐうたら出来そうな部屋であるな…」
「というか、その為の部屋だよ」
わらわの感想にカローラがそう答える。そしてそのカローラは直ぐにソファーには向かわず、壁際にある本棚へと向かい、本を取ってからソファーへと向かう。そこで、骨メイドに抱えてもらってソファーに座る。
「では、わらわも本でも読んで時間を潰すかのぅ~」
本棚の前に辿り着くと、わらわの背以上の高さに、数多くの本が詰め込まれており、その本の背表紙をさっと見ると、どれも古臭い物ではなく、新しい物が多い。
「これだけあると、どれを選んで良いものやら…」
「シュリ、そう言えばミケは?」
わらわの背中からカローラの声が掛かる。
「ミケは、今骨メイドに頼んで着替えさせておる。あのままの奴隷服では可愛そうなのでのう…って、やはり上の方の棚は見えんか…」
「シュリの姉さん。あっしに言って下されば、上の段はとりやすぜ。あっ、これ、『乙女のお菓子レシピ』…ちょっとこれいいでやすね」
隣に立つカズオが、上の段から、一冊の本を取り出し、ソファーへと向かう。二人はもう読む本が決まって、読み始めておるのに、わらわだけ決まっていないので、適当に一冊の本を掴む。そして表紙を見てタイトルを確認する。『初恋、はじめました』か…まぁ、よい読んでみるか…
わらわは本のページをぺらぺら捲りながら、ソファーに向かい腰を下ろす。なになに、読書好きの少女が、学院の男の子に告白される話か…わらわには縁の無い話であるな…しかし、人間の恋愛というものがどういうものか少し気になる。
そうして、わらわが少し本を読んでおると、カズオが立ち上がる。
「カローラ嬢、ちょっと台所をお借りしてもよろしいですか?」
「いいよぉ~ ついでに甘い飲み物持ってきて。あと、ホノカ、クッション取ってくれる?」
カローラの言葉に、骨メイドがクッションを持ってきて、カローラはそれを枕に、ソファーの上にゴロンと横になる。
「カローラよ、お主はこの城で、いつもその様な生活をしておったのか?」
「うん、そうだよ。得にする事もないし、身の回りの事はメイド達がやってくれるから」
なるほど、それで、ここはぐうたらする為の設備が整っておるのか… まぁ、よいか、主様の行為がいつ終わるのか分からんので、それまではわらわも本を楽しむとするか…
ふむ…ヒロインのリンちゃんは学院で皆と交流せず、本ばかり読んでおって、そこでクラスの人気者のラオウに告白されたのか… ん~随分と乱暴な男じゃのう~ 逃げられぬように壁をドンと押さえつけ、返事を迫るのか… 乱暴ではあるが、そこまで迫られたい物じゃのう…
わらわはページを捲り、物語を読んでいく。
兄のカイオウにも告白されたのか… 姿も性格も同じ…リンちゃんはどっちを選ぶのじゃ?本に答えはないそ! 考えるのじゃリンちゃん! えっ? そこでどうして他の男に相談するのじゃ!しかも、アミバとは…ほら、言わんこっちゃない…その男にも告白されたではないか…
「シュリの姉さん お菓子が出来やしたぜ」
目の前に、通常の何倍もの厚さがあるパンケーキに白いふわふわした雲の様な物が掛けられている。
「もう出来たのか?カズオ、随分と早いな、それにこの白いのはなんじゃ?」
「早いってもう1~2時間は経ってますぜ。それとこの白いのは生クリームという奴です。甘い雲みたいな食感なのでお楽しみ下せい」
そう言ってカズオは、飲み物のグラスを置く。グラスの中に輪切りにされたレモンが入っている所を見るとレモネードであろうか?
テーブルの周りを見渡してみるとミケとポチ、クリスもおる。ミケとポチは既にお菓子を食べ始めており、クリスはぼーっとテーブルの近くでしゃがみ込んでおる。
わらわはフォークを手に取り、パンケーキを一部切り取ろうとする。パンケーキは厚さの半分ぐらいまで、弾力を保っていたが、そこでさっと切れる。わらわは切り出した一片をフォークで突き刺し、生クリームをたっぷりつけてから、パクリと口の中に放り込む。
「ほぅ! パンケーキも生クリームもふわふわでとろける様な食感なのじゃ! 腕を上げたなカズオ!」
「へい、そう言って頂けるとありがたいでやす。メレンゲづくりに初めて挑戦したんでやすが、成功しているか心配だったもので」
わらわはパンケーキを食べながら皆の様子を見てみると、カローラは寝転がりながら、本を読んで、骨メイドに食べさせてもらっておるし、ミケは黙々と食べておるし、もともとポチは喋らないし、クリスは惚けておるな。これでは感想が聞けないからカズオが心配しとったのであろう。
わらわはそう思いながら、レモネードの入ったグラスを手に取り、ストローから啜る。
「このレモネードも中々…」
「へい、パンケーキに合うように味を調整しやした。食事の方もレシピでいいの見つけやしたので、ご期待下せい」
そう言って、カズオは別のレシピ本を読み始める。わらわもお菓子を楽しんだ後で、また再び、『初恋、はじめました』の続きを読み始める。
…リンちゃん、その場から逃げ出しても解決にならんぞ! あぁ、そんな場所を走っては! あぁ、リンちゃんが崖から… どうなってしまうのじゃ? リンちゃんは無事なのか? 病室!? リンちゃんは助かったのか? えっ トキ先生? 新たな男性の登場? 落ち着いた大人の雰囲気もよいのうぅ~
わらわが『初恋、はじめました』に熱中しておると、カズオが何か言って立ち上がる。どうやら、レシピ本を見て、何か作りに言ったようじゃな… そんな事より、わらわは続きを読むので忙しいのじゃ!
………………
…………
………
『わたしは、ようやく、のぼりはじめたばかりです、このはてしなく遠い、初恋坂をよ… わたしの初恋はこれからよ!!』
「なんじゃぁ!! これはぁぁぁ!!!」
わらわは『初恋、はじめました』の四巻の最終ページを読んで叫ぶ。
「シュ、シュリの姉さん、どうしたんでやす?」
カズオが食べかけのミートパイを持ちながら訊ねる。
「どうもこうもない!! こんな終わり方はゆるされんのじゃ!!!」
「どうしたのよ、シュリ」
ソファーで寝転がっているカローラが顔だけこちらに向いて聞いてくる。
「この『初恋、はじめました』の終わり方はなんなのじゃ!! 続きは? 五巻はでておらんのかぁ!!!」
わらわはカローラに駄々っ子の様に叫ぶ。
「あぁ、それね。『初恋、はじめました』でしょ? それは、作家のハルヒさんが魔族の侵攻で、疎開したか行方不明になったかで、そこまでになっているのよ」
「えぇぇ~ そんなぁ~ 続きは読めんというのかぁ…」
わらわは肩を落として、手の中にある『初恋、はじめました』の四巻の表紙を見る。
「シュリの姉さん。まぁ、続きが読めないのは残念ですが、お食事を食って下せい。何度呼んでも、本に夢中になっておられたんで、冷めちまってやす」
わらわはテーブルの小皿に置かれたミートパイとフルーツパイを見る。胸の中をもやもやした気持ちでパイに手を伸ばす。
「なぁ、カローラよ」
「なぁに? シュリ」
「もやもやせんでよいように、完結している作品を教えてくれんか?できれば先ほどの『初恋、はじめました』と似たようなやつを」
わらわがそう言うと、カローラは読んでいた本を口元に当てながら考え込む。
「アノレコ先生の『消える初恋』なんてどうかな?」
「分かった!早速読んでみる!」
わらわがパイを加えたまま本棚に向かおうとしたとき、部屋の扉がかちゃりといって開く。わらわは扉の方向に向き直る。
「やぁ、みんな… 随分と待たせてしまったようだね… 済まない…」
清々しい顔した主様が姿を現した。前の『賢者時間』の主様のようじゃな…
「まってぇ! ダーリン! 私を一人にしないでぇ!」
主様に引き続きにデレデレになったプリンクリンが姿を表す。
「はぁ?」
わらわは口に咥えたパイを落としてしまった。
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