第48話 ラグドールなのにミケ
「これ、猫じゃなくて、猫獣人だろうが!」
「なぁ~ 主様ぁ~ いいじゃろ~ ちゃんと世話するから~」
そう言ってシュリが、俺の服の裾を握って、左右に振る。
「いいじゃろもくそも、こんなの何処で拾ってきたんだよ」
「奴隷市場じゃ」
「拾ったんじゃなくて、買って来たんじゃねぇか!」
俺はシュリの言葉に声を上げて、奴隷の猫獣人を見る。確かに奴隷がよく着せられている粗末なだぶだぶの服を着ている。しかし、獣人系にしては野性味が少なくて、逆に少し品があるな、まぁ、なんか気だるそうな雰囲気は醸し出しているが… 歳は人間の見た目で言うと17前後か? 白のふわふわした感じの髪に、その頭に黒っぽい耳。青い瞳に猫独特の細い瞳孔。身体の方も白いふわふわした毛で覆われていて、よくあるコスプレみたいな猫耳獣人ではなく、本物の獣人感がある。正直、俺が見つけても買ってそうな猫獣人だ。
「これ、幾らしたんだ?」
金貨10枚ほどしかシュリに渡していないので、同行していたカズオと合わせても20枚だ。見た目なら20枚でも買えないと思う。もしかしたら、後で取り立てにくるんじゃないだろうな?
「金貨1枚じゃ」
「やっす! なんか問題でもあるんじゃないのか?」
普通の奴隷でもよっぽどでなければ、そんな金額はない。金貨1枚なんて簡単な雑用しかできない老人ぐらいの値段だ。肉体労働で使えそうな男性なら20枚はするし、性奴隷でこのレベルなら100は最低いくと思う。
「えぇ~ 問題などないぞ、主様ぁ~ 例えば、ミケ、お手じゃ」
そう言うと、猫獣人は差し出されたシュリの手に、自分の手を置く。って、もう名前まで付けているのかよ、しかも白毛なのに、なんでミケだよ。
「次はお代わりじゃ」
シュリがそう言うと、猫獣人は差し出した手のひらを返す。
「おい、間違えてんぞ」
ポチの時と同じ間違いをしているので、俺が突っ込みを入れる。
「くっ! では、ちんちんじゃ!」
「…ありません」
シュリ…お前はしつけが出来ている所を見せたいのか、それともコントを見せたいのかどっちだよ…
「では、ミケ! 次はトイレじゃ、トイレはそこだぞ」
そう言ってシュリは、猫獣人にトイレを指差す。
ミケと飛ばれる猫獣人は、シュリの指差すトイレに向かい中に入る。そして、暫くしてすっきりした顔して出てきて手を洗う。
「な? ちゃんとトイレのしつけもできておるじゃろ?」
「な?って言われても、普通の人なら当たり前にできるだろ」
ドヤ顔で言ってくるシュリに俺はそう返す。
「そ、それだけではないぞ! ちゃんと餌の世話もするから~ ほれ、ミケ、餌だ」
シュリはそう言って、パン籠に入っていたパンをミケに渡す。
「それって、カズオが焼いたパンを渡しているだけじゃねえか…」
ミケは渡されたパンを見て、くんくんと鼻で嗅ぎ、眉を顰める。
「できれば、いつも食べていたカリカリの方が良いです」
「いきなり、我儘言われているぞ…」
シュリはミケの言葉にぐっと狼狽する。しかし、気を取り直して、子供が強請る様に俺にすり寄ってくる。
「でも~ ポチもおるんじゃから、猫ぐらい増えてもいいじゃろ~」
「なんで、ポチがいたら猫獣人がいてもいい事になるんだよ… それより逆に、フェンリルのポチがいても大丈夫なのか?そいつは」
俺がそう言うとミケはポチを目を合わせる。暫くして、ミケはポチの前に転がって腹を見せる。
「えっ? それポチに服従してんの?」
「はい、本来なら丸まって小さく見せるのが、我々の服従の姿勢ですが、他の種族にはこちらの方が分かりやすいので」
ミケは怯える素振りを見せず、飄々と言う。
「いや、そもそも、なんでお前は猫なんて欲しいんだよ」
俺はシュリに訊ねる。
「いや、カローラの城で見た本の中に、権力者が膝に猫を侍らせている所があって、それがカッコいいと思ってやってみたかったのじゃ… カローラもそう思うじゃろ?」
「うん! シュリ、分かる! 私もそう思う!」
シュリの言葉にカローラはコクコクと頷く。
最近、鳴りを潜めていると思ったら、やはり中二病的な事は治っていなかったんだな…
「でも、お前らの体型じゃ、膝に乗せるというより、その逆に乗せてもらう方になるだろ」
「ちゃんと主様の言う通り、わらわは大きくなって、ミケを膝に乗せれるようにするから~いいじゃろぉ~」
そう言って、シュリは俺の袖を引っ張って駄々をこねる。
「いや、確かに大きくなって欲しいが、そのミケを膝の上に乗せるって、どこまでデカくなる気だよ…」
「えぇぇ~ そんなにミケを飼ってはいかんのかぁ~」
「いや、いかんとは言ってないが…」
俺の言葉にシュリは表情を明るくする。
「では、飼ってもいいのか!?」
「あぁ、カズオみたいなのが、もう一人増えるんだったらお断りだが、女の子なら良し!」
「やったぁ!! ありがとうなのじゃ! 主様!!」
シュリは飛び跳ねて喜ぶ。そのシュリの飛び跳ねている傍の扉から、袋を被ったカズオが無言でこちらを見ている。
「何だよ…カズオもいたのか…」
俺が小さくつぶやくと、カズオは俺に目を合わせない様に馬車の中に入ってくる。なんか、いじけてる感じだな…もしかして、カズオの事を言ったのが聞こえていたのか?
「では、事も済んだし、一度城まで戻るか」
俺が皆に城に帰る事を告げる。すると、それを聞いたミケが手をあげる。
「なんだ?」
「出来れば、私の食事であるカリカリを買って欲しいのですが」
「なんだ?パンとか肉じゃダメなのか?」
「出来ればカリカリがいいです」
ミケは遠慮することなく、ずけずけと言う。
「分かった、では街を出る前に食料品店によって買ってやるからいいか?」
ミケはコクリと頷く。こいつ、奴隷だった割には、肝が据わっているというか、図々しいな…それで、安かったのか? まぁ、いいや。この容姿ならふふふ…楽しめそうだ… 俺の物は俺の物、シュリのペットも俺の物。城に帰ってからじっくりと頂く事にしよう。
とりあえず、カズオがいじけている様なので、俺が御者台に行き、馬車を走らせる。そして、城門に着いた所で、門番に一度、自分の本拠地に戻る事を告げ、城を後にする。
その後、商店街の通に向かい、食料品店の前に止まり、馬車を降り、店内に向かう。
「ちょっと、いいか? カリカリって奴はあるか?」
俺は店主に問いかける。
「カリカリ? あぁ、軍の非常食ですね」
「え? 軍の非常食なのか?」
カリカリがなんなのか分からない俺は店主に問い返す。
「おそらく、そうだとは思いますが…」
店主が困った顔をして、埒が開かないので、俺は馬車に戻り、ミケを連れてくる。
「ミケ、ちょっと来い」
「なんですか?」
「おい、店主、カリカリの見本はあるか?」
「はい、分かりました」
店主はそう言って、店の奥から大きな麻袋を持ってきて、中身を見せる。
「あっカリカリ」
ミケが袋の中身を見て声を上げる。袋の中には茶色い大豆程の大きさの物が詰まっている。なんか見た事あるな…
「店主、これは何で作られているんだ?」
「あっ、はい、くず肉や小魚をすりつぶして、豆や小麦で固めた物ですね。戦場で炊飯する暇が無い時の非常食です」
まんま、キャットフードみたいなやつか…
「これでいいのか?」
「ダメ、これは犬族用。私が欲しいのは猫族用」
ミケはさらりと否定する。
「なんか、我儘な奴だな、お前… 店主、こういう事みたいだから、別のあるか?」
「猫族用…ですか?」
店主は片眉をあげる。
「そう、もっと色が灰色っぽい奴」
「あぁ、北方のクループ産の物ですね。お待ちください」
店主は分かったと言う顔をして、奥からもう一袋持ってきて、中身見せる。
「これこれ、これが私の好きなカリカリ」
袋を開けた瞬間、もわっと魚の匂いがする。なるほど、確かに猫用だ。
「では、この猫用のカリカリを二つと、犬用も二つ貰おうか」
「ありがとうございます」
犬用はポチの為だ。この様な街中では、ポチは狩りをすることは出来ない。なので、保存肉が無い場合には、肉を買わないといけないが、量が量なので結構金がかかる。だから、今後の為に買っておこう。
こうして、ミケのカリカリを買った俺達は、本拠地の城へと旅だったのであった。
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