第45話 手かざしの意味
「この部屋だ。入るが良い」
そう言って先に進むマイティー女王が、扉の奥へ進んでいく。
今まで俺はマイティー女王の後ろについて歩いてきたが、この女王、背中もかなり鍛えていて、筋肉の形が鬼の顔に見えそうだ。更にケツも引き締まっていて、ケツのエクボまである。めっちゃ鍛えているな…なんで女王がここまで鍛えるんだよ。
部屋の中は薄暗く、中央に生贄の台の様な物があり、四方の壁は白い布で覆われている。なんだ?ここは… 俺、なんかの儀式の生贄にされるんじゃねぇだろうな?
「なんだ? イチロー程の男が怯えているのか?」
マイティー女王は挑発するように言ってくる。
「いえ、この様な事は初めてなので、戸惑っているだけです」
「ふふふ、初奴だ…では、そこの台の上に横になるがよい」
俺は台を眺める。生贄にされそうな状況ではあるが、俺もいくつもの冒険で生死を潜り抜けて来た男だ。悪意や殺気がある事ぐらいは直ぐに分かる。だから、このマイティー女王にはそんなものが無い事は分かっている。分かっているが、なんだか不安だな…
俺は不安に思いながらも台の上に横たわる。
「これでよろしいですか?」
「あぁ、それで両手を上に合わせてあげるが良い」
俺は女王の指示に従い両腕を揃えて上げると、その瞬間、女王が俺の両腕を押さえつけ、俺の上に馬乗りになる。
「マ、マイティー女王…一体、何をなさるので?」
俺は突然の事態に、まるで襲われる前のおぼこの様に訊ねる。
「何って、ナニに決まっているじゃないの」
女王は顔を息がかかるぐらいに近づけて、微笑む… 顔だけはめっちゃいいんだよな…
「こ、これが勇者認定の儀式なんですか?」
「いや、違うが?」
女王はさらりと答える。俺は抵抗する為に力を入れるが、俺の両腕は、マイティー女王の腕一本でガッチリ押さえつけられている。
「ひぃー! じゃあなんで!」
身体強化魔法を使っていても逃げ出せない状況に、俺は時間稼ぎする為、質問を投げかけてみる。ほんと、どんだけ鍛えているんだよ!!
「その前に質問。私はなんでビキニアーマーなんか着ていると思う?」
「もしかして、筋肉を見せる為?」
俺は恐る恐る答える。
「正解。では、なんで筋肉を鍛えていると思う?」
「そ、それは…男を襲う為?」
もう、この状況の為だとしか思えない。
「なんだ、ちゃんと分かっているじゃないの」
そう言うとマイティー女王は俺の下半身をまさぐり始める。俺は何をしているかを確認しようと視線を下に向けるが、女王が顔を近づけてくる。
「駄目よ、下を見ちゃ。私の筋肉を見たら萎えるでしょ? 昔は顔まで鍛えていたのだけど、萎える男が多いから、顔は鍛えるのをやめたのよ…どう?私の顔は?」
確かに顔だけ見ていれば、めっちゃ美人!でも…
なんだか、複雑な気分だ… そこそこ気持ちよかった…でも無理やり… 顔はめっちゃ美人だった… でもマッチョ…
俺は心の中でどう整理しようか考える。台を降りたところで、マイティー女王が事が終わって、身支度を整えている… でもマッチョだ…このマッチョさえなければ…
俺はそう思いながら、手を上げて、視界のマイティー女王の身体部分を隠して、顔だけ見えるようにする。
あっ!! これかぁ!! これが手かざしの意味か!!!
俺は手をかざして、女王の身体を隠すことで、マイティー女王が手かざし女王と呼ばれる意味を初めて理解する。
「さて…これでいいのかい?」
俺がそんな事を考えていると、マイティー女王が壁際の布に向かって言葉をかけている。
「あぁ、これでようやく溜飲が下がる…」
声と共に男の姿が布の隙間から現れる。
「げっ! カミラル王子!」
布の隙間から現れた王子は、拳を握り締め、鬼の様な形相で俺を睨みつけていたが、ふぅーと息を履いた後、目を伏せる。
「これで、ウリクリとイアピースとの過去の禍根は一切無し、それでいいのね?」
「あぁ、それでいい…」
なんだか、俺の知らない所で、俺の事が取引材料にされていたらしい。
「済まないわね、イチロー。貴方がプリンクリンの御首級を持ってきたら、許してあげるつもりだったけど、手ぶらじゃね」
「そ、それで俺をどうするつもりだ…」
俺は二人に身構える。
「本当はお前をこの手で殺してやりたい所であるが…殺せない理由が出来た…」
「その理由とは…?」
俺は固唾を飲む。
「…ティーナが…妹が… お前の子を孕んだ…」
カミラルが苦虫を噛みつぶしたように言う。あぁ…やっぱり…そら10回もやれば、孕むわな…
「あら、あの子供子供していたティーナちゃんが孕んだの? それはおめでたいじゃない」
マイティー女王はあっけらかんと言う。
「めでたくあるか! ティーナはまだ子供だったんだぞ! それにティーナにはもっと良い男を見つけてやるつもりだったのに…」
「孕んだのなら、まだ子供じゃなくて、もう女よ。それに、イチローはあのノブツナが認める男よ。これ以上の男は中々いないわよ」
カミラルはマイティー女王の言葉に痛い所を突かれて、臍を噛む。
ん~ マイティー女王は随分と俺の事を買ってくれているのだな… これはノブツナ爺さんのお陰か?
「それにどれだけ可愛がっていても、貴方の妹はペットじゃないのだから、何時かは自分の意志で自分の道を歩き始めるのよ。だから猫可愛がりするのは諦めなさい」
流石は女王だな… 凄い納得できる言葉ばかり… でも、マッチョなんだよなぁ~
カミラルはマイティー女王の言葉を納得したのか、絆されたのか、怒りの表情を静めていき、俺にゆっくり近づいてくる。
「イチローよ。確かに私は妹のティーナの事を溺愛しすぎたかもしれん、しかし、何の心の準備も無く、妹の心を奪っていったお前を、直ぐには認めることも出来ん」
カミラルはそう言って、目を伏せて、一拍置く。
「だが、妹はお前の子を孕んだ事を喜び、また、お前に再び会う事を望んでおる…だから、また、再びティーナに会ってやってはくれぬか…私からはこれだけだ…」
「分かりました…」
俺は目を伏せて俺と目を合わせない様にするカミラルにそう告げる。
「イチロー、これで貴方を売るような事は、ちゃらでいいかしら?」
マイティー女王がそう言ってくる。
「えぇ、まぁ…」
今の状況では、そう答えるしかないわな…
「それより、俺の勇者認定はどうなんです?」
俺はマイティー女王に訊ねる。
「あぁ、勇者認定ね… はい、これ」
そう言ってマイティー女王は、ウリクリ王国の紋章が入った装飾品を投げて渡す。
「…もしかして、これだけ?」
俺は受け取った装飾品を眺める。
「えぇ、それだけよ」
えぇぇぇぇぇ~ じゃあ、俺、やられ損か?
「お望みなら、勇者認定パレードでもするけど、どうする?」
「…いえ、結構です…」
「ふふっ、では、ある程度の報奨金も渡すわ。後で届けさせるわね」
そして、俺は秘密の部屋から解放され、とぼとぼと皆が待つ馬車へと戻る。
「コォーホォー コォーコォーホォー」
「主様、待っておったぞ」
「イチロー様、おかえりぃ~」
「わう!」
馬車に入るとみんなが駆け寄ってくる。カズオは頭に袋を被っているな…また、薬やってんのかよ… シュリとカローラは父親の帰りを待ちわびていた子供のようだし、ポチは元気よくしっぽを振っているな。
「シュリ、カローラ。ちょっと来い」
俺は二人に目線を合わせる為、しゃがみ込み、それに二人が近づいてくる。
「なんじゃ?主様」
「なになに?」
俺は二人の腕や肩を触れる。柔らかい… そして、二人を両手で抱きかかえる…あぁ…柔らかい…
「いいか、お前たち…絶対に筋肉は鍛えるなよ… 重い物を運ぶときは、俺やカズオに言え、絶対だぞ! 絶対!」
「あぁ…なんだか分からんが、主様が言うならそうする…」
「うん、私はもともと身体動かさない、全部メイドがやってくれるから」
この日、俺は自分の女たちに筋肉をつけさせない事を心に誓った。
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