第20話 食指が動く
「ほほぅ~ それでは、親友の仇を撃つ為に、勇者一行から離れ、単独で魔族軍勢力下に進み、その道中でドラゴンやフェンリルを服従させたのであるか…いや、立派な御仁だ!」
樽の様な体格の貴族が、そう言って俺を褒めたたえる。ロアンの奴が、俺の追放を私用による離脱と報告してくれたので、俺はその上で自身の名誉を守る為、嘘を重ねた。殺された親友?そんなもんいねぇよ。しかし、ロアンの配慮に俺は心の中で感謝を捧げた。
「しかし、単身でドラゴンとは…今後の活躍も期待出来そうであるな」
他のがりひょろの貴族が、ワイングラス片手に愛想笑いを浮かべて近づいてくる。
俺は今、城の大広間で祝宴と言う名のパーティーに参加している。名目は別荘で享楽に耽っていた王族の仇を倒した事と、その仇を倒した俺に対する慰労である。名目といったが、こいつらは事ある度にパーティーを開催している。まぁ、交渉の通じない魔族との戦争なので、ストレスがたまるから、酒宴を開いてストレス発散をしているのだろう。
しかし、戦時中と言うのに金のあるところにはあるものだ。美味い酒と豪華な料理が所狭しと並べてある。俺もたまにはカズオ飯とは違うものを食いたいが、このパーティーは立食形式なので、先程から、色々な貴族が寄ってきて、食事に手を出すことが出来ない。
なぜ、一般の冒険者である俺に、貴族が愛想笑いを浮かべて近づいてくるかと言うと、それは戦後に向けた布石である。魔族との戦いに勝利した暁には、魔族の土地、収奪品などは参加した軍勢の戦果によって分けられる。それは正規の軍隊だけではなく、後ろ盾になった勇者や冒険者でも同様である。
なので、有益な人材には国や貴族が唾つけて後ろ盾になるのである。直接、自分の所に戦後の利益が入らなくても、懇意にしており領地に招く事が出来れば貴族として箔が付く。まぁ良く出来たシステムだ。だから、皆、俺に愛想笑いをしながら近づいて取り入ろうとしているのである。俺自身も、勇者特権を貰えれば文句はないので、ウィン―ウィンの関係だ。
しかし、腹が減ったな… 美味い物が目の前にあるのに、食えないなんて…とんだお預けだ。自分がやられて嫌な事は犬にもやってはいけない。ポチにお預けをするのは止めておこう。
「イチロー殿、良いかな?」
後ろから声がかかる。カミラルの声だ。
「これはカミラル様」
俺はロアンを見て覚えた所作でカミラルに返す。
「私の妹が是非とも君と話がしたいと申してな」
カミラルはそう言って、後ろの少女を俺の前に招く。
「始めまして、イチロー様。わたくし、カミラルの妹、第一王女のティーナ・エルグ・イアピースでございます」
そう言って少女はスカートの裾をちょんと摘まんでカテーシーをする。
最近、カズオのカテーシーしか見てなかったので、女の子の行う本物のカテーシーはやっぱ可愛いわ。ん?というか第一王女? 妹? ってことはカミラルは王子だったのか。
「妹は15になったばかりであるが、昔から英雄譚が好きで、どうしてもドラゴンを屈服させた其方の話を是非とも聞きたいと子供の様に強請ってな」
「そんなお兄様…私は子供の様に強請ってはおりませんわ…」
そう言ってお姫様のティーナは頬を淡く染める。この仕草もカズオと違って断然可愛い!
俺はロアンの様な爽やかクールイケメンの表情を装いながら、目の前の姫ティーナを舐めまわす様に眺める。
髪はカミラルと同じ亜麻色で、艶やかなボリュームのあるストレート。瞳はまだ幼さの残るクリクリとしたエメラルドの様な瞳。顔立ちはまだ少女さが抜けきっていないおぼこさがそそる。スタイルもシュリやカローラの幼児体型や寸胴とは異なり、少女らしさと女性らしさを兼ね備えた体つきで、その体つきを淡いパステル系の色でまとめたドレスが、男の俺にとっては新雪を踏みしめてくれと言わんばかりだ。
欲求不満の俺は、外で出会っていたなら、速攻でルパンダイブをしている所であるが、ここは城の王宮。我慢我慢だ。
「ふふ、この時代、英雄譚は誰しもが好むもの… この私も仲間の英雄譚はまだ夢見る少年の様に聞き入っております。皆がそうなので、恥ずかしがる事などありませんよ、ティーナ姫」
「まぁ、皆さん、そうですの!?」
俺の言葉にティーナ姫はクリクリした瞳を大きくして喜ぶ。
「えぇ、その英雄への憧れが私を強くして、ドラゴンを服従させる事ができたのです」
俺はそこらの田舎勇者と違って、手柄を驕り高ぶらずに、キザに控え目に語る。この辺りの所作は同行していたロアンの言動を見て覚えたのであるが、かなり役立つ。ありがとう!ロアン!
「まぁ! 素敵ですわ! 詳しくお話をお聞かせいただけるかしら?」
「えぇ、是非とも… では、立ち話もなんですから、あちらのソファーが空いております。御一緒頂けますか? 麗しのティーナ姫…」
俺はトドメのキラキライケメンフェイスをする。これもロアンから覚えたものである。
「えぇ、喜んで…」
ティーナ姫は頬を染めて、ゆっくりと俺の手をとる。
こうして、俺はパーティーの間、終わりの合図があるまで、ずっとティーナ姫との会話を楽しんだ。まぁ、それで結局、飯を食い忘れたが…
そして、ティーナ姫と別れを告げた後、広間を退出する為、出口に向かった時、警護の女騎士が俺を睨んできた。
ん?なんだ?こいつ… もしかして、ポチに武器を奪われた女騎士か?
よく見ると、その女騎士はティーナ姫と同じ年頃の栗色の髪の少女で、ポチにつけられたであろう生傷の治療跡があちこちにあり、頬を膨らませながら、同じく栗色の瞳で恨めしそうに俺を睨んでいる。
まぁ、ここまで俺に何もないと言う事は、こいつが独断専行して失敗したから報告できずにいるのは、俺の予測通り間違いないだろう。また、今の状況や俺の立場から報復も出来ないはず。まぁ、悔しそうに眺めておいてくれ。俺はここで偉くなるから。何か縁があれば、引き立ててやるから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「では、こちらの寝室をお使いください」
俺は召使に寝室を案内される。
「ご苦労」
俺は部屋の中に進み、召使に振り返らず言葉をかける。
「では、何かあれば、ベルをお使いください」
そう言って、召使は下がっていく。俺は一人になった後、部屋を見渡す。中々いい部屋だ。ロアンと同行していた時は、俺はロアンの従者扱いだったので、今の部屋よりワンランクもツーランクも低い部屋を使っていた。しかし、今は俺一人でいるので、良い部屋に通されている訳だ。この部屋の様子からも、この国の俺に対する期待が伺える。
「さて、準備するか…」
俺はパパっと服を脱ぎ、浴室へと向かう。
「おうおう、結構良い風呂してんな。ちゃんと石鹸もある」
俺は置いてある桶に服を入れ、お湯を注ぐ。そして、石鹸を一片入れた後、身体を洗いながら足踏みをして洗濯をする。
「ふんふ♪ふんふ♪ふ~ん♪」
俺は鼻歌まじりに身体を洗い終え、魔法で服を乾かす。そして、香水を首筋、脇、手首、そして股間に…わぉ! そして、乾いた服を着れば… よし!準備オッケーだ! できれば新しいパンツが欲しい所だが…
あと、ひとつ何か欲しいなと思って、部屋を見回してみると、テーブルの上の花瓶に花が活けてある。
「これがいいな」
俺は花瓶から、一輪の淡いピンクのカサブランカの様な花を手に取る。
「では、行くとするか… 今夜は楽しみだ」
俺は隠蔽魔法を唱えて、窓から城の外へと飛び出した。
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