第15話 勇者への旅立ち
「ほほぅ~ こりゃすげえな… 単なる馬車と言うよりかは、キャンピングカーじゃねえか… 王族は贅沢してやがるな… まぁ、それもカローラに奪われて、それで俺の物になるんだが…」
俺は想像していた以上の大きく長い馬車を見て、その凄さに感嘆する。
「主様、そのキャンピングカーというのはなんじゃ?」
シュリが訊ねてくる。
「旅をしながらでも、ちゃんとした寝床があったり、飯を作る事ができたりする車…というか馬車の事だな…って、お前は馬車自体、中を見るのは初めてか?」
馬車の中を覗いていた俺は、シュリに振り返り訊ねる。
「まぁ、そうじゃな」
「じゃあ、お前も見てみろ」
俺はシュリの手とって引き寄せて、馬車の中に入る。馬車は通常の三倍程はある長さで、屋根もかなり高い。出入口は馬車の中央部で、前側はソファーとテーブルが備え付けられており、その上の辺りが梯子であがる寝台になっている。後方にはトイレとちょっとした料理の出来る場所が設けられている。
「どうだ! すごいだろう!」
「どうだと申されても、普通の馬車を知らんので凄さがよく分かりませぬ」
興奮する俺とは対照的に、冷ややかにシュリは答える。
「その普通の馬車はこれの三分の一程の大きさしかなくて、座るところがあるだけだ」
俺はシュリに説明してやる。
「え?人はそんな牢獄の様な設備で何日も旅をするのか!」
おま、そっちに驚くのかよ…
「イチロー様」
外からカローラの声がかかる。
「どうした?」
俺は出入口から顔を出してカローラに訊ねる。
「少々問題がございまして…」
馬車を出た所に、困り顔のカローラがいた。
「御者がおりません」
「え? 馬車を引く、スケルトンホースがいるのにどうして御者がいないんだよ」
この立派な馬車を引く為に四頭立ての骨馬が用意されている。でもなんで御者が?
「言いにくいのですが、イチロー様達が倒されたので… 骨さえ残っていれば、復活も出来たのですが…」
「あ…」
「わう!」
後ろにいたポチが自分の事かと言うように吠える。
「まぁ… 食っちまったもんは仕方ねぇよな… もうすでにあれになって出てるし…」
ポチは撫でられると思って、俺の前にしっぽを振りながら座って待っている。
「えぇ~っと、カズオ!」
「へい! 旦那!」
馬車を眺めていたカズオが俺の所にやって来る。
「お前、御者やれ」
「あっしがですか?」
そう言うカズオに、俺は視線を促すように残りのメンバーを見渡していく。
「俺は親分、他は幼少女、幼女、犬。できると思うか?」
「これは…あっししかいませんね…分かりやした」
他の人員を見て、カズオも納得したようだ。
「骨だけど従順な馬だから、貴方でも出来ると思うわ」
カローラが御者に決まったカズオに助言をする。
「頑張りやす」
「あっ! そうだ、カズオが御者するなら飯つくる人員どうする?」
さすがに御者をやって、飯担当もでは気の毒だ。俺もそこまで鬼ではない。
「骨メイドもお連れしましょうか。何かと雑用もございますし」
連れて行って欲しそうな骨メイド達が、チラチラとこちらの様子を窺っている。骨じゃなくて肉がついていたら可愛い仕草なのに残念だ。
「まぁ…そうだな。その方が便利そうだな… じゃあ、そう言う事で準備を始めろ!」
カローラが指示を出し、骨メイドやカズオが次々と水や食料を積み込んでいく。
「ちょっと待て、カローラそれはなんだ?」
俺はカローラが骨メイドから受け取ったものに違和感を感じて呼び止める
「これですか?枕ですが」
「いや、それは見てわかるんだが… 普通、ヴァンパイアって棺桶で寝るんじゃなかったか?」
俺の言葉にカローラは顔を赤くして目を伏せる。
「その…棺桶で寝た方が力や傷の回復が早い事は分かっているのですが… 私、狭い所苦手なんです…」
「そうか…そうだよな… 狭い所怖いもんな…」
俺は慈愛に満ちた温かい目でカローラに答える。
「自分でも自覚しておりますが…その…残念な人を見る目は…本当に止めてもらえますか…」
カローラはまた泣き出しそうに目を潤ませながら答える。
「分かった、分かったから泣くな! で、もう一つ聞きたい事があるんだが…」
「な、何でしょう…」
カローラは目をこすりながら答える。
「あそこにいる骨メイド全員が、自身の旅支度をしているように見えるのだが…」
「え? 全員連れて行ったら駄目なんですか?」
「駄目に決まってるだろうが! 骨メイドだけで馬車がパンパンになるわ!一人だけにしろ!」
十数人いる骨メイドが全員ついてくる準備をしている。
「えぇ! そんな!! お願いです! イチロー様! 二人!二人でお願いできますか!」
珍しくカローラが懇願してくる。
「分かった二人だな。二人ぐらいならいいぞ」
二人ぐらいなら、特に断わる理由もないので許可する。
「では、まず貴方は来てくれる。残りはいつもの方法でえらんでくれるかしら?」
カローラは骨メイドを一人選ぶと、他の骨メイドにそう告げる。骨メイド達は、地面にそれぞれ人数分だけ縦線を引いていき、その縦線を繋ぎ合わせるように横線を引いていく。
「あれ、何やってんだ?」
「くじで決めているんですよ!」
「あぁ、あみだくじか…こっちの世界にもそんなもんあるんだな…」
俺がそう言っていると、もう一人の付き添い骨メイドが決まったようで、その骨メイドは飛び跳ねて喜んでいる… ほんと、骨で無ければ可愛いんだが…
「あぁ、付き添いされるのはホノカさんとナギサさんですかい?」
その様子を見ていたカズオが口にする。
「お前、骨メイドが見分けつくの?」
「えぇ、厨房で色々と教えて頂きやしたから、あの飛び跳ねて喜んでいる方がナギサさんで、最初に選ばれた方がホノカさんでやす」
カズオはそう言って指で指し示しながら説明する。
「カズオ、お前、すげーなぁ~」
俺は素直に感心する。俺から見れば、全員おなじ骨メイドにしか見えない。
「いやいや、仕草とか骨格見ていたら分かりやすよ」
「仕草はともかく、骨格ってそのままだろ…」
そして、準備が続き、晩飯を食って、太陽が沈んで、夜のとばりがおり始めたころ…
「さぁ出発だが… なんでこんな時間なんだ?」
俺がカローラに訊ねる。
「カズオは御者が初めてなので、最初は私が少しですが教えます。なので、日の昇っている時間ですと… 肌が日に焼けるので…」
「あぁ、そうだな仕方ないか… まぁ、今日は程々にしておこう」
そう言って、カズオとカローラが御者台に乗り込み、俺、シュリ、ポチ、骨メイド二人が馬車の中に乗り込む。ってポチも乗り込むのか?
「ポチも中に乗り込むのか?お前は外の方がいいんじゃねぇのか?」
俺がポチにそう言うと、シュリが割って入る。
「ポチには、この旅中にわらわが色々と仕込むつもりなのじゃ、だから、中に一緒に入ってもらうのじゃ、いいかのう?主様?」
「色々仕込むって何を?」
俺はシュリに訊ねる。
「そうじゃのう…基本的なしつけの他に、例えば、主様の従者としての順位とか、まぁ、もちろん、わらわが一位じゃ、例えるなら正室じゃな」
シュリはふふんと鼻をならして、自分の胸に手を当てる。
「えぇ? シュリさんなんでそんな順番になるんですか?貢献しているなら私ですよ?」
カローラが御者台の上から不平を漏らす。
「貢献も加味しておるが、やはり付き従った順番が重要じゃな」
シュリがそう言ってどうだ!と言う顔をする。
「順番で言うなら、カズオが一位になりますが…」
「えぇ?あっしが一位! そ、そんなあっしが正室なんて…心の準備が…」
そう言ってカズオは顔を赤らめる。
「やめろ! カズオも顔を赤くすんな! そもそも、お前らは等しく俺の子分だ! 文句ないな?」
「えぇぇ! わらわがポチと同列じゃと?」
シュリがポチを見て抗議の声をあげる。
「あ?」
「分かりました…」
シュリは素直に押し黙る。
「じゃあ、皆出発するぞ!」
こうして、俺達は夜の闇の中イアピースの首都に向けて出発した。




