第13話 自家用メイド喫茶
「あぁ~ いい湯だったぁ~」
俺はほてって上気した顔を手ぬぐいで拭いながら、廊下を進む。俺の後ろをあるくシュリとカローラは、俺とは逆に青い顔をしながら歩いている。
なんで、風呂入ったのに、青くなってんだ? そもそも、風呂あがってから、脱衣所で二人の髪を拭いてやろうとしたら、再び奥歯で合奏を始めやがった…何だよ…
「それで、晩飯はどうなってんだ?カローラ」
俺は後ろのカローラをちらりと見る。
「はい、イチロー様。今、メイド達が作っておりますので、食堂でお待ち頂ければ…」
「いやいや、そうではなく。ちゃんと人間の食えるものを作っているのかって事」
カローラはヴァンパイアだ。だから、血以外に何を口にしているか俺も良く知らない。なので、こいつが用意する晩飯がどんな物であるか見当もつかない。血のスープとか血のゼリーとか、血のドリンクとかはお断りだ。レバーも苦手なので勘弁して欲しい…
ほんと、俺が食えるものが出るのか?
「私も人間の食事を止めてから、かなりの時が過ぎましたので、人間の好む食事は少し自信がございませんね…」
あぁ~ これは期待出来なさそうだな…
「安心するがよいぞ、主様。 カズオの奴も厨房に行っておるので、何とかなるであろう」
シュリが付け加えてそう言う。
「なんだよ、せっかく城に来たのに、ここでもカズオ飯かよ… まぁ、食えないよりマシか…」
そこまで言って、俺は少し考え込む。
「ちょっと、厨房も覗いてみるか… カローラ、厨房は何処にある?」
「厨房は食堂のとなりにございますので、このままの進んでもらえれば結構です。あっ扉が見えてきましたね。その扉です」
カローラは前髪の隙間から、赤く光る瞳を覗かせて、扉を指差して答える。
「うっし、あの扉か入るぞ」
俺はそう言って、バーンと扉を開け放って厨房へ入る。
「美味しくなぁ~れ☆ 美味しくなぁ~れ☆」
そこには、フリフリのエプロンを着たカズオが、気持ち悪い言葉を言いながら、フライパンを持って、くるくる回って料理しており、周りのスケルトンメイドがそれに拍手していた。
「…おまっ… 何やってんの…」
「はっ!? だ、旦那ぁ!?」
俺の言葉に気が付いたカズオが、赤面して答える。
「…お前… もしかして、いつもそんな感じに飯つくってんのか?」
もしかしたら、いつもそんな気色悪い料理を口にしているのかと思うと、気分が悪くなってきた。
「い、いえ、違いやす! あ、あっしは、こ、ここのメイドに教えてもらっただけで…」
そう言ってカズオは、フリフリエプロンの裾で、赤面した顔を隠す。
なんで、こいつは一々キモイ行動をするんだよ! でも、それより…
「カローラ! おまっ、メイドにこんな事させてんのか?」
「だって、毎回毎回ずっと同じ食事ばかりなので…こんな事でもしないと…」
カローラは青白い顔を頬だけ赤く染め、スカートの裾を握り締める。
「そっかぁ… ずっとなのかぁ… まぁ、頑張れよ…」
俺は慈愛に満ちた瞳っぽいのを作って、カローラの肩をポンポンと叩く。
「イチロー様… その残念な人を見るような眼は止めてもらえませんか… 私、体の傷は直ぐ治りますが、心の傷の治りは非常に遅いので…」
おまっ、そんなんでよくヴァンパイアやってんな… ほんと、色々がっかりな奴だ…
メンタル弱すぎるだろ… まぁ、そんなんだから俺に屈服したのだが…
「まぁ、長い月日を同じような日々を送って来たのじゃ… おかしな嗜好の一つや二つゆるしてやるのじゃ」
シュリ、お前も慰めるようにしながら、傷を抉ってやるなよ…
「で、カズオ。今日の飯はなんだ?」
「へ、へい 旦那。今日はメイドに教えて貰いながらハンバーグを作りやした。おかずしかなかったので、パンも焼いておきやしたぜ」
なら、大丈夫そうだな。しかし、飯の事でまかせられるのがカズオだけとは…
「では、食堂で待っているから頼むぞ」
「分かりやした。お任せ下せい、旦那」
カズオはエプロンの裾を摘まんで、貴族令嬢がするカーテシーで答える。
…なんで、こいつは次から次へとキモイ動作を覚えていくんだ…
俺はカズオのキモさに顔を引きつらせながら、厨房を後にし、食堂へと向かう。
「よっこい、しょうたろ~」
俺はそう掛け声をして、食堂の椅子に腰を掛ける。
「主様、じじくさいぞ」
「いや、風呂上がりだが、厨房のあれ見て精神的に疲れてんだよ…」
俺はテーブルに肩肘をして、シュリの注意に返す。
「で、カローラ」
「はい、なんでしょうか?イチロー様」
カローラはメイドに準備してもらった子供椅子に座りながら答える。
「なんで、ホネメイドしかいないんだ?肉付きはおらんのか?」
肉付きメイドがいるなら、今晩は…ぐふふ
「おりません」
ぐっやはりか…全然見かけないからな…
「で、なんでだよ?」
「いえ、ゾンビメイドとかグールメイドとかって、その…腐っていて臭いでしょ? それに腐った肉や汁をその辺りに撒き散らすので、メイドにはちょっと…」
顔をしかめてカローラは答える。
「…いや…理由は分かったけど…飯の前に詳しく話すなぁ!! しかも、今日の飯は肉だぞ!」
そこへ、カズオとメイドがカートで食事を持ってやって来る。…なんてタイミングだよ…
「旦那ぁ! あっしの力作ですぜ! 召し上がって下せい!」
そう言って、皆に晩飯が配膳されていく。
皿の上にはハートの形をしたハンバーグがあった。ご丁寧にケチャップの様なソースで矢に射抜かれた模様になっている。
「おまっ カローラ… お前ここまで病んでんの?」
俺は残念な者を見る目でカローラを見る。
「ち、違います! 私の指示ではありません!」
カローラは必死に否定する。
「あっ その形はあっしが作りました」
カズオは爽やかな笑顔で告げる。
「お前かよ! なんで、いつもいつもキモイ事をするんだよ!」
「えぇ~ だって、旦那… メイドたちの指示では、ハートって言っても心臓の形を作れって言うんですぜ…」
カズオは両手の指先をつんつんさせながら答える。
「カローラ、やっぱお前、病んでるわ…」
俺は、残念アイでカローラを見るが、カローラは赤面して顔を伏せる。
「まぁ、それでハート形作るカズオもどうかと思うのじゃが…」
シュリが図体のでかいオークのカズオが、盛り付けしたとは思えない可愛らしいハンバーグを見て呟く。
「えぇ~あっしの方がマシだと思いやすが…」
「どっちもどっちだよ! えっと、シュリ…」
身体をくねらせて抗議するカズオを無視して、俺は片手で頭を抱えながら、シュリに向き直る。
「なんじゃ?主様」
「カローラの友達になってやれよ… こいつの心の闇を癒してやってくれ…」
俺は慈愛に満ちた、やさしい瞳でシュリに頼む。
「…分かった、主様。では、カズオの方は頼みましたぞ…」
シュリも同じく、慈愛に満ちた優しい瞳で俺に返す。
「いや、こいつはもう手遅れだろ」
俺はきっぱりと言う。
「あ、あの~すみません…」
話に熱中していて、存在を忘れかけていたカローラから声が聞こえる。
「ほ、本人を前に…その様な話をするのは止めてもらえませんか… 先程も言いましたが、私、身体の傷は直ぐに癒えても、心の傷は治りにくいんです…」
そこにはハラハラと涙を流すカローラがいた。
ほんと、こいつメンタルよぇぇ~ ガラスのハートだな…
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