第127話 俺が女に手加減すると思うなよ
「抵抗は無意味だって、挨拶はしないのかよ…」
俺は女に向けて剣を構える。
「あぁ、そうだ、抵抗は無意味だ。我々に駆逐されろ」
女は俺の言葉にそう返す。
駆逐されろと言われて、誰がされるものか。ここの広間はおそらくドローンの育成所のようで、そこらかしこに羊や馬、そして、おそらく人間だったのもの死体があり、もぞもぞと動く幼虫がその死体を食らっている。そして、奥には纏めて尋常じゃない数の繭の山がある。こいつらの餌にはなりたくねぇ。
しかし、女は戦闘態勢を整えて、じりじりとにじり寄ってくる。俺達を駆逐して餌にするつもりだ。地下牢でのアルファーはノブツナ爺さんにやられて、ほぼ武装を解除された状態であったが、俺の目の前のこいつはフル装備状態だ。
腕には、カマキリのような鎌が腕の甲から生え、全身が虫の甲殻鎧で覆われ、背中には翅があり、たまにチラチラとアルファーにはない第二腹部が見える。
さて、本気のこいつと俺はどこまでやり合えるのか見ものだな…
そう思っていると、敵の方から一気に踏み込んでくる。そして、俺目掛けて右手の鎌が振り下ろされる。
「はえぇ!!」
俺は咄嗟に剣で受ける。しかし、同時に左手の鎌が俺を切り上げてくる。
「くっそ!!! こいつは切り払えねぇ! 仕方ねぇ!」
俺はそのままの勢いで、逆に敵に体当たりをかまし、左鎌の射程の内側に入る。俺の体当たりは最初こそ、感触があったが、途中でふわりとした重さに変わる。
敵は、翅を使って空中に浮き上がり、そのまま天井を足場にして、勢いをつけて、俺に切りかかってくる。
「くっ!! させるかよぉ!!!」
俺は小石の弾丸を撃ち出し翅を狙う。しかし、翅を破壊するまでには至らず、俺に対しての軌道を逸らせただけだ。それでも、あの高速の二本の鎌を相手にしないで済むだけでいい。俺は敵の片腕分の鎌を弾く。
すると、またふわりとした感触になり、敵は今度は壁を足場にして、こちらに両鎌を広げて突進してくる。
逆に俺が地面にスライディングして伏せて、下から迎撃したい処であるが、今、背中にはフィッツがいるので、それは出来ない。では、どうするか!?
ジャンプして飛び跳ね、鎌を回避する! しかし、敵は翅を広げて、加速を停止し、俺に合わせて、上に飛び跳ねて追撃してくる。くっそめんどくさい!
敵は俺の自由落下を狙っている様だが、逆に先ほどの敵のやり方をまねて、今度は俺が、天井を足場にして勢いをつけ、敵の懐に剣を構えて飛び込む。
流石にこれは敵も鎌で受ける事も出来ず、翅を使った回避も間に合わない様で、身体を捻る。
シャキーン!!
「手ごたえがあった!!!」
一拍遅れて、何かがボトリと落ちる。
「ふむ、第二腹部が切り落とされたか… これではしばらくドローンは増やせないな、しかし、その代わり身軽になった」
敵はとんとんと小さく縄跳びをするように跳ねて、体勢を整えてから、再び俺に突進をしてくる! 今度は振り被らず、両腕を腰に構えている。これは突きを繰り出してくるつもりだ!
俺は咄嗟に腰の短剣を抜き放ち、敵の両腕から放たれる猛烈な突きを剣と短剣で打ち逸らせる。
こいつの動き、マジくっそはえぇ! 攻撃の反射神経だけで言えば、ノブツナ爺さんと同等レベルだ! がしかし!!
「ふんっ!!!」
俺は相手の突きを打ち逸らせながら、隙を見て、懐に飛び込み、頭突きを食らわせる。そして、相手がぐらついたタイミングを見て、相手の足の甲を踏みつけ、残った片側の足で鳩尾をオモクソ蹴り飛ばしてやる。
「くはぁっ!!!」
こいつは反射神経が滅茶苦茶速いだけで、ノブツナ爺さんみたいな、斬撃の詰将棋の様なものはない!
「うりゃぁ!!! どっせいぃぃぃ!!!」
キンッ!!!
相手がのけぞった隙を見て、片手の鎌を力任せに叩き切る!!
しかし、敵もすぐに体勢を取り戻して、残った鎌を振り上げる。
「一本なら怖くねぇんだよぉぉ!!!」
俺は鎌の斬撃を剣で受け止め、すぐに片手の短剣を手放し、相手の腕を掴む。相手もすぐに力任せに抵抗しようとするが、俺はお留守になった足を払い飛ばす。
「なっ!!」
敵は自分の身体がふわりと浮く感覚に短く声をあげたが、俺はそのまま背負いあげ、そして、力任せに地面に叩きつける。
「うぉぉりゃぁぁ!!!!」
試合の柔道であれば、叩きつける瞬間、相手を引いて威力を弱めるが、俺は伸ばしたまま、そして畳ではなく、地面に勢いよく叩きつける。
「ぐはぁっ!!」
敵は衝撃と苦痛で呻き声を漏らす! しかし、俺はすかさず、体重を乗せた肘鉄を腹部に食らわせる!!
「ごふぉっ!!!」
敵の女は、血反吐を吐きながら、ぴくぴくと痙攣したかと思ったら、事切れたかのように四肢から力を失い、伸ばした。
「ふぅ~ なんとか倒したか…」
俺は額の汗を拭いながら、敵の女を見下ろす。確かに強敵ではあったが、ノブツナ爺さんの斬撃に比べたら屁でもねぇ。
「ところで、フィッツ、お前は大丈夫か?」
俺は肩越しのフィッツの様子を伺う。
「ち、ちょっと… 目を回しました… で、でも、怪我はありません…」
「お、おぅ、そうか… 俺の背中で吐くなよ… さてと…」
俺は再び神経を研ぎ澄ませて、空気の流れを感じ取る。
「ん~ こっちだな…」
空気の流れを感じ取る所へ進んでいくと、暖炉の様に壁際に通路とは異なる穴があけてあった。俺はその穴に頭を突っ込んでみると、普通に空気の流れを感じ取ることが出来る。
「この穴を伝えば、外に出られそうだな」
「では、イチロー様、みんなの所に帰れるのですね!」
俺は一度、穴から頭を出して立ち直る。
「あぁ、そうだ… その前にフィッツ、ちょっと頼みがあるんだが」
「なんでしょう?」
「お前のベルトを渡してくれないか?」
「えっ!? べ、ベルトですか?」
フィッツが俺の顔のすぐ横で、目を丸くする。
「あぁ、一応、こいつを連れ帰るつもりなんだが、念のために手足を縛っておきたい」
俺は再び敵の女を見る。ここから見る限り、呼吸の動きはあるようなので死んではいないはずだ。
「わ、わわわかりました! ちょっと、お待ちください…」
フィッツは俺の首から手を離し、背中でもぞもぞし始める。
「は、はい…どうぞ…」
「おう、すまねえな」
俺はフィッツからベルトを受け取ると、敵の女を、いつぞやのダークエルフにしたように、後ろ手のエビぞりの様に縛り上げる。
「よし! これでいい!」
俺は小脇に敵の女を抱え、空気穴に潜り込む。そして、飛行魔法を使ってどんどんと上に上がっていく。すると、徐々に頭の上の方から明りが漏れてくる。
「そろそろ、外だぞ!!」
俺はその光に向かって一気に飛び出す。外に出た瞬間、外の朝日に目がくらむ。
「イチロー様! 外です! 外ですよ!!」
「光が見えると思ったら、やはり一晩中戦っていたんだな…」
俺は朝日を眺め、そして、足元へ視線を動かす。俺達が飛び出てきたところは、食料集積所から離れた場所の様で、下には土で出来た煙突の様なものがある。地面の穴だと思っていたが、途中から蟻塚だったのであろう。
「じゃあ、みなの所へ帰るか…」
「はい、イチロー様!」
俺は残りの魔力を使って、ハニバル目掛けて飛び続けた。




