第102話 あんたも買うのか…
「あぁ~ 食った食った…」
俺はパンパンになった腹を擦る。久しぶりに街でのこってりした料理だったので、思わず食べ過ぎてしまった。それというのは、ここ最近の馬車での食生活は、シュリが野営する度に採って来る、野草ばかりとなっていたからだ。
ぶっちゃけた所を言うと、金欠と言っても食うのに困るほどではないし、俺は勇者認定を受けているので、町ごとにあるギルド公認の小売店に行けば、ある程度の食料を含む物資はほぼタダで手に入る。ほぼタダと言うのは、横流しや悪用を防ぐためのもので、また常識の範囲での利用しか出来ないようになっている。
まぁ、勇者認定を受けたものが、悪用しないとは思うが一応という事での処置だ。また、融通してもらえるものも、携帯食や基本的な食材などだ。珍味や高級食材などは自腹になる。
そんな事で、普通の食生活を送るなら、なんら不便はないのだが、シュリが農業から派生して野草生活に熱意を燃やしているので、皆、気を使ってシュリの採って来る野草での生活を強いられていたのだ。
「旦那、腹も満腹になりやしたので、買い物に出かけてもいいでやすか?」
「あぁ、わらわも買い物に行きたいのじゃ」
「私は、両替商の所に行ってこようかな…」
それぞれが食後の買出しに行きたいと言ってくる。
「あぁ、いいぞ、行ってこい。集合場所は城にとめてある馬車でいいな? それと、カローラ、為替で儲けようと思うな… 素直にカードショップにでも行っとけ」
カローラは一瞬、何故バレた!といった顔をするが、すぐに諦めて骨メイドを引き連れてカードショップへと向かう。
さてと、俺はどうしようか… ギルドにでも行って、ベアースの状況でも調べるか。ギルドなら冒険者経由で様々な情報が入っているに違いないだろう。まぁ、ちゃんと、ベアースから生きて帰って来た人間がいるならだが。
俺は残りの飲み物を飲み干すと、椅子から立ち上がり店を出る。そして、表通りに出てからキョロキョロと町並みを見回し、ギルドのある方向へ歩き始める。
前回、ここに来た時に比べ、人影が多いというか街に活気が溢れている。前はプリンクリンの討伐直後だったためだろう。おそらく、そこから経済が回復しているものと思われる。俺は別に急ぎでもないので、町並みを散策しながら歩んでいく。
そして、俺はある店の前で足を止める。
「本屋か…」
ここウリクリの首都であるジュノーは流石に首都なだけあって、店の規模が他よりでかい。人気本だけでなく、専門書なども取り扱っている。
「おっ、冒険者ガイドの新刊か」
店内のすぐの所に冒険者ガイドが平積みにされている。これは冒険者ギルドが定期的に発刊している情報誌で、各地の状況や、有名パーティーのインタビュー、最新の武器防具の紹介などが載っている本だ。駆け出し冒険者からベテラン冒険者まで必読といっていい本である。ギルドの援助もあるので、お値段も据え置きで求めやすい金額となっている。
俺は手に取って買おうかな?と思ったが、よくよく考えれば、ギルドに行けば、俺は勇者認定を受けているので、タダで貰う事が出来る。ここでわざわざ買わなくていいだろう。
俺は冒険者ガイドを横目に店の奥へと進んでいく。で、店内の天井を見ると、どの棚がどんな本のコーナーなのか分かる掲示板がぶら下げてある。それで、軽書籍コーナーを見つけるが、年端のいかない女の子たちが、きゃっきゃっと黄色い声をあげながら本を手に取っている。
なんか、シュリの『とらみちゃん』や『初恋、はじめました』を読んだ影響で他の物も読んでみたくなったが、流石にあの中には入っていけん。なんか、少女漫画コーナーにいく気分だな… ちょっと、いやかなり恥ずかしい…
俺はそんな事を思いながら、他のコーナーを見ていると、ある文字が目に飛び込んでくる。
『成人男性向け』
俺は心がときめくのを感じる。やはりエロスは万国共通、男と言う生き物の性だな。俺は少し鼓動が高鳴り、鼻息を荒くしながらそのコーナーへ向かう。
成人男性向けコーナーに辿り着いた俺は目を疑う。正直、異世界を舐めていた。よくよく考えればカードゲームのイラストを考えれば、この世界のイラストレベルは現代と遜色がないぐらいレベルが高い。その技術を本にも使わずにはいられようか!いやない!(反語)
「このレベルなら、現代でも普通に売れるよな…」
俺は本を手に取り、その表紙をマジマジと見る。流石に写真の技術は無い様だが、イラストは現代と同等だ。ただ、紙の質がかなり負けるぐらいだな。これは思わぬところで思わぬ品を見つけた。
流石に緊縮財政で、本の値段も現代社会に比べかなり高額なので、欲しいだけ買うという訳にはいかないが、一冊ぐらいなら買ってもいいかな?
俺はそう考えて、本の表紙を眺めながら厳選していこうと考え、本の表紙をマジマジと見ていく。周りにシュリやカローラがいるせいでロリコンに間違われそうだが、実は俺は、スレンダー巨乳が大好きである。少し、あばらが浮き出ているぐらい瘦せていて、そのくせ巨乳。その巨乳も釣り鐘型なら尚良い。そんな身体をしていて性に対しては疎そうな感じの娘で、自らの手で色々開発していく、それが俺のベストストライクゾーンだ。
色々なタイプの女の子が表紙に描かれているので、俺はウキウキしながら本の表紙を眺めていく。
これは、いい感じだけど、なんかシュリに似てるな… 後で本が見つかったら気まずいので辞めておこう。
これは、エロピッチピチ状態のカローラに似てる… 良いんだがダメだ…
ん? これ、いいんじゃないか? スレンダー釣り鐘型巨乳、それでおぼこそうな顔。えっと、タイトルは『酒場の歌い手デビュー☆冒険者たちに散らされる』か…
俺はその本を取ろうと手を伸ばすが、別の手が伸びて来て、同じ本に触れる。
「あっ」
「なんじゃ、イチロー殿か」
俺はその手の主の声に、聞き覚えがあり、その声の主に向き直る。
「げっ! ノブツナ爺さん!」
そこにはウマリホーのプリンクリンの部屋の前で、激闘を繰り広げた上泉 伊勢守信綱こと、ノブツナ爺さんがいた。
「お主、南部獣人連合の地に行っておったと聞いていたが、ここジュノーに来ておったのか」
ノブツナ爺さんは本を手に取って、俺に向き直る。
「あぁ、そっちの方は済んだから、別の仕事をしにここに来たんだ。そういえば、プリンクリンの時にマイティー女王に色々後押ししてもらえた様だな。爺さん、ありがとう」
俺は、素直に頭を下げる。多分、ノブツナ爺さんのマイティー女王に対しての言付けが無かったら、今頃、カミラル王子に何をされていたのか分からなかった。
「いやいや、その程度の事、気にせんでもよい。わしもあの娘の魅了から解放してもらったのでのう、他の輩もそう言っておったわ」
ノブツナ爺さんは気さくにそう答える。
「ところで、ノブツナ爺さんは今まで、どこにいたんだ? プリンクリンを撃退した後、俺がここに来た時にはもういなかったみたいだけど」
「あぁ、わしは事の次第を女王やギルドに報告した後、次の依頼を受けてな、隣国のベアースに行っておったんじゃ、それで報告して帰って来たところじゃ」
ノブツナ爺さんは本を捲って、中を確認しならがら答える。
「えっ!? ベアースに? 俺もこれから依頼を受けて行くところなんだが」
「そうか… ならば気を付けるがよい… ベアースの状況は思ったより酷いぞ」
ノブツナ爺さんは真剣な表情で、本を見ながら答える。
「状況が悪いってどんな感じなんだ?」
「うむ、プリンクリンの後、すぐにわしは女王とギルドから依頼を受けて、ベアースの状況確認に向かったのじゃが、これが非常に手を焼いてのう…」
ノブツナ爺さんがぎゅっと眉を顰め、目を細める。
「ノブツナ爺さんが手を焼くって、一体、どんな敵だったんだ?」
この剣聖ノブツナが苦戦する相手って尋常じゃないぞ。俺はゴクリと唾を呑む。
「虫じゃ…」
「虫?」
「そうじゃ、虫… それも大型で、無数のな… 一対一ならわしも負ける気がせんが、あれだけ大量だとな… 腕は勝っていても、体力が持たぬ…」
ノブツナ爺さんはパタリと本を閉じ、俺の方を見る。
「奴らは蜂と蟻を合わせたような将軍格の者がおり、その者が人の頭ほどの大きさのある無数の虫を使って来よるのじゃ」
「それで、爺さんは戻って来たけど、ベアースは大丈夫なのか?」
「あぁ、依頼は状況確認だけであったし報告に戻らねばならず、わし一人では駆逐することは出来ぬのでのう、とりあえず、敵の侵攻軍の大将を捕まえて、ベアースの者たちがしばらく無事な状況をつくってから、帰って来たのじゃ」
ノブツナ爺さんは本を小脇に抱えて答える。流石はノブツナ爺さんだな、きっちり仕事して人々を助けてから帰って来た訳か。
「他も詳しい事が知りたければ、ギルドに向かうのが良かろう、ちゃんと文に纏めて報告しておいたわ。わしはそろそろ宿に戻る。では、イチロー殿、達者での」
「おう、ノブツナ爺さん、ありがとう! 助かったわ」
俺は礼を述べてノブツナ爺さんの背中を見送る。
「さて、俺もあの本を…」
そう言って、俺は本棚を見るが、先ほどの本が無い。
ノブツナ爺さんが持って行ったので最後だったのであろう… くっそ、爺さん、ちゃっかりしているな… しかし、あの本の表紙の女の子、酒場の歌い手とあってアイドルっぽい感じだったな… プリンクリンの事といい、ノブツナ爺さん、アイドル系好きなのか…
俺はノブツナ爺さんとは良い酒が飲めそうだと思った。




