第九十話 便利屋の訪問
しばらく和奏と話していると、東堂さん達が病室を訪ねてきた。
「お! 目が覚めたんだ!」
「やっとか」
「心配かけてすみま……痛っ!」
俺は起き上がって挨拶をしようとしたが、やはり痛みで起き上がれない。
和奏が心配そうに俺を見ながら怒ってくる。
「無理しない!」
「……はい」
俺と和奏のやり取りを見て、東堂さんは微笑ましそうに見ていた。
「あはは! 早くも尻に敷かれてるねー」
「からかわないでください! 修司が無理しようとするからです!」
和奏は笑っている東堂さんを睨む。
しかし、そんな風に睨まれても東堂さんは微笑ましそうに笑い続けながら流していた。
そのまま二人とも病室に入って、ベットの側に立った。
「怪我の具合は?」
「早ければ二週間くらいで退院できるみたいです。ただ普段通りに体を動かせるようになるのは、早くても三ヵ月掛かるみたいです」
「ならよかったよ」
東堂さんは先程の表情とは違い、申し訳なさそうなになった。
西上さんのほうは普段の仏頂面から何も変わらない。
「自分が油断したせいで、君が刺されてしまった。本当にすまない」
東堂さんは頭を下げて謝ってきた。
「頭を上げてください。東堂さんのせいだなんて思ってないですし、むしろ俺は感謝しなければいけないです。あの状況で東堂さんがいなかったら、どうすることも出来なかった。和奏を助けてくれて、本当にありがとうございます」
東堂さんは顔を上げてると、責任を感じていたのにお礼を言われて困ったように少し笑った。
そんな俺達のやり取りを見ていた西上さんが話しかけてくる。
「優しすぎるぞお前。もっとヤスを罵倒しろ」
「そんなこと言えないですって」
「お前のせいでこうなった。この無能がくらいは言ってやれ」
「勘弁してくれよトラ……」
病室に入ってきたときは気づかなかったが、西上さんが何処か東堂さんに対して怒っているように見えた。
「なんか今日の西上さん、東堂さんに対してイライラしてませんか?」
「うっ……」
西上さんは俺が聞くと、何やら嫌そうな顔をになった。
すると、東堂さんが少し困ったように笑いながら答えてくれる。
「実はここに来る前にお見舞いのお菓子を買いに行ったんだけど、その時に美味しそうなお菓子があってさ。今回の依頼料をもらったとはいえ、最近移動費とか何やらで結構出費が激しかったから買わなかったんだよね。それからずっとこんな感じでね」
「たかだかお菓子一つにケチケチしやがって……」
「トラはそう言ってるけど、際限なく買いまくったことあるでしょ」
西上さんは悔しそうに何も言い返せずにいた。
俺はその話の中で、不思議に思ったことを聞く。
「え? 西上さんは自分のお金持ってないんですか?」
「一応毎月お小遣いみたいな感じで渡してるよ。ただ給料の全部を渡さないで、自分のほうで管理してるんだ。そうしないと、トラはお金がなくなるまで甘いもの買うから……」
東堂さんの話を聞いて、俺は和奏と顔を見合わせて驚きのあまり言葉が出なくなった。
甘いものが好きそうなことは知っていたが、強面の西上さんに子供のような一面があるというか、好きなものに制限ができない子供のような大人だと思わなかった。
「子供……」
甘いものが好きそうなことすら知らなかった和奏が、あまりのギャップについ一言漏らしてしまう。
和奏の一言に西上さんはバツが悪そうに顔を背けてしまった。
「あ、これ買ってきたお見舞いのお菓子ね」
「ありがとうごいます」
東堂さんは机の上にお菓子が入った紙袋を置いてくれる。
俺はその紙袋を見ながらある提案を思いついた。
「俺が言うのもなんですけど、それ今開けたらどうですか?」
「えっ……それは悪……」
「いいのか!?」
東堂さんの言葉に食い込む形で、西上さんが聞いてくる。
「ええ。和奏もいるんで、みんなで食べてください」
「天ヶ瀬君は?」
「恐らく問題ないとは思いますけど、一応医師か看護師さんに聞いてから食べようと思いますので、一個か二個残しておいてもらえたら」
「うーん」
東堂さんはどうするか考えているが、横にいる西上さんはもう食べたくて仕方ない様子である。
恐らくここで俺の提案を断ると、西上さんの機嫌が更に悪くなってしまうだろう。
東堂さんは仕方ないと言った様子になった。
「それじゃあ、お言葉に甘えていいかい?」
「はい。どうぞ食べてください」
中身はフィナンシェやクッキーの詰め合わせのようなもので、それを東堂さんが二人に配る。
西上さんはそれを受け取ると、俺に話しかけてくる。
「感謝するぜ」
その様子は普段の仏頂面のように見えるが、見たこともない真剣な目でお礼を言われてしまった。
よっぽど甘いものが好きなんだろうなぁ。
俺はそんなこと思うと、お礼を言ってお菓子を受け取った和奏が一口食べて感想を漏らしていた。
「んっ、おいしい!」
「よかった。一応トラが選んだお店だから外れはないと思ってたけど」
東堂さんはそう言いながら、安心するように笑う。
お店を選んだ本人はお菓子を食べることに集中しており、話を聞いていなさそうだったことは俺の心の中に閉まった。




