第七十七話 便利屋の誤解
「おら、よっと!」
「ふぅ……ほっ!」
体格のいい男のブレのないストレートの拳が飛んでくるが、受け流すようにして俺を通り過ぎた拳の手首を掴む。
そのまま掴んだ手首を自分の方向に引けば、重心が前の方にあるため力を入れずに倒して、腹に一発拳を入れた。
元々、俺が稽古をつけてもらった道場の流派が女性でも使える柔術で、相手の力をそのまま利用して捕らえたり無力化させたりするものだ。
捕らえた後に殴ったりするのは俺のアレンジとなっている。
出来たらこのまま引いてくれたら嬉しいんだけど……。
体格のいい男は何事もなく立ち上がる。
本当は寝技で固めるべきだったんだろうけど、それはこと一対一の場合。
今は二対一なので固めて落としてる時間がない。
「あぁ~、思ったよりも良い一発もらったぜ」
「トラ、大丈夫か~。飯抜きは勘弁だぜ?」
「あいよ!」
体格のいい男は俺を舐めたような様子が消えて、完全にやる気になっていた。
すると、そのまま先程よりも更に速い速度の拳が飛んでくる。
しかもただ力任せに振っているわけではなく、先程みたいに重心が全て前の方に向けているわけではなさそうだ。
マジでこれ、ちゃんと爺さんに習ったこと使わないとやばいかも……。
俺は仕方なく最初の構えではなく、道場で習った構えをする。
体格のいい男が俺の構えを見た瞬間に動きが止まった。
後ろにいる優男も俺の構えを見たまま、なぜか驚いて固まってしまった。
「その構え……お前」
そして、そんな状況を俺が見逃すはずがない。
なんかよくわからんがチャンス!
俺は固まっている二人の男を無視して走り出す。
追いかけてきたら追いかけてきたでまずいが、このまま和奏に何かあったら、それこそ最悪である。
そのため、この場は一端引いて和奏の下に向かった。
和奏に伝えたコンビニに来ると、先程怪しかった男二人は先程と変わらず立ち話をしている。
よかった……和奏の身に何もなくて。
ひとまず安心すると、追いかけてきた男二人が俺に追いついた。
俺は男達のほうを向いて、今度は心配するようなことはないので臨戦態勢に入る。
しかし、男達からは先程のやる気のようなものが感じられなかった。
「お? 今度はすげーやる気じゃねーか」
「ちょっ、トラ! 変にワクワクするな! 俺達は話をしに追いかけてきたんだから」
「へいへい」
俺が警戒しながら疑問に思っていると、優男の方が話しかけてきた。
「お兄さんさ。さっきの構えをもう一度やってくれない?」
「さっきの?」
「うん。最初のじゃなくて、俺達から逃げる直前に構えたやつ」
何が目的なのかよくわからなかったが、二人は特に何かするようすではないので言われた通りに構えた。
「あーやっぱり見間違いじゃないねこれ。師匠のとこの古武術だ」
「んだよ。じゃあ、この依頼は断るか」
「だねー」
「どういうことですか?」
俺は訳がわからなくなり、二人に聞いてみた。
二人は顔を見合わせて、お互いに同意を得えると説明してくれた。
「俺達、姫路師匠の弟子なのね。あの人って変人だから、自分が気に入った人しか古武術教えないんだよ」
「俺達が街で暴れてたところに、お灸を入れるついでに面倒見てやるってことで受け入れてくれたってわけだ」
「そうそう。今はなんでもござれの便利屋なんかやってるんだけどね」
どうやらこの人たちはあの爺さんの弟子で、俺からすれば兄弟子に当たる感じになるみたいだ。
しかし、肝心な依頼を断るという理由がわからず、疑問になったままだった。
優男の方が、そのことに気づいてくれたようで理由について話してくれた。
「前置きが長くなってごめんね。基本的に師匠から来た依頼をこなしてるんだけど、個人的に送られてくる依頼もあるんよ。その中に街で暴れまわってる奴がいるから、止めてくれって写真付きで依頼されてさ」
「それがお前だったってことだ」
「こっちの確認不足でごめんねー。基本的に悪いことに関与したりはしたくないんだけど、手が足りなくて依頼の良し悪しの判別しづらくてね」
「俺が本当に暴れている奴かもしれないですよ?」
「それはないでしょ~。それなら師匠から稽古という名の制裁もらってるはずだし」
俺が爺さんの弟子ということで疑いが晴れたみたいだ。
話を聞く限りこの人達は悪い人ではなさそうで、依頼の差出人は倉澄っぽい。
それなら和奏の様子を毎日伺っている男二人は、別件なのか気になった。
「お二人は、あそこにいる男二人に見覚えがありますか?」
「あの二人? いや知らないね」
「あんな貧弱な奴ら……面白くなさそうだな」
「トラ……その脳筋発言やめてくれ」
「これが俺だ。諦めろ」
「はぁ~……」
優男は額に手を添えて呆れ、体格のいい男は何も気にしてない様子で仏頂面のままでいた。
そんな二人に比べて、立ち話をしている二人組について考える。
じゃあ、あの連中は何をしてるんだ?
俺が悩みながら立ち話をしている男達を見ていると、優男が話しかけてきた。
「何か、あの二人組が気になっているみたいだね。誤解したお詫びにはならないかもしれないけど、少し俺達が聞いてくるからここで待ってて」
「いいんですか?」
「いいのいいの。こういうこと慣れてるから」
そう言って、二人は立ち話をしている男二人のほうに向かって歩いて行った。




