第六十九話 美少女後輩の心情
幸太と一之瀬は俺達の前に並んでいて、楽しそうに話している。
だが、速水の様子は先程までの楽しそうなものと違って、少し浮かない表情をしていた。
俺はそんな表情の理由を聞くか悩んだが、先に疑問に思ったことを聞くことにした。
もしかしたら、その疑問が浮かない表情の原因かもしれなかった。
「初めてじゃないか? 片桐と一緒にいることを拒否するなんて」
「そっ……そうですか?」
「俺がお前らと一緒にいるときには初めてだな」
「……かもしれないですね」
速水はそのまま少し何も言わなくなる。
俺は他に何も言うことがなく、この少し気まずいような雰囲気に困ってしまう。
何か別の話題を振ろうか考えていると、速水が口を開いた。
「天ヶ瀬先輩は片想いってしたことありますか?」
「……ないな」
「ですよね。なんかそんな気がしました」
少し小馬鹿にした様子で、速水はそんなことを言ってくる。
俺に喧嘩を売っているのかと思ったが、速水は話を続けるようだったので、俺は何も言わなかった。
「神代先輩が男に興味ないのも知っていますし、一馬先輩の気持ちを自分に向けてやるって考えは今も変わっていないです。だけど、最近の一馬先輩の様子や、今日の神代先輩と話してるときの様子を見て……少しだけ弱気なっちゃいました」
速水は俺にだけ聞こえるような声で、少し寂しそうに笑った。
俺には速水の気持ちがわからないが、速水の話を聞いて一つ疑問が浮かんだ。
「それなら、どうして俺達と一緒に回ろうと思ったんだ?」
「だって別々に回ろうなんて言ったら、私嫌な女じゃないですか。好きな人の想い人が近くにいるのに、それを邪魔する女なんて嫌です」
速水は拗ねたような表情をして、俺を軽く睨みながらそう言った。
今さっき片桐と和奏を二人きりにしたのも、おそらく速水なりの気遣いなのかもしれないな。
「私は一馬先輩の気持ちを無視するんじゃなくて、好きな人よりも私を好きになってもらうのが目的ですから」
「それでも片桐の気持ちが変わらなかったら……お前はどうするんだ?」
「その時はその時です。私が全力を尽くしても駄目で、一馬先輩の恋が成就するなら……私は一馬先輩を祝福します」
その時の速水の表情は、本心からの言葉のようで優しく笑っていた。
もし片桐の恋が成就することになったとして、かなり辛い思いをするだろうが、きっとこいつは片桐の前で笑って祝福するだろうな。
速水の笑顔を見て、俺はそんな風に思った。
それから俺達はスタッフに先導されて、ジェットコースターに誘導される。
「でも、一馬先輩の恋が成就するまでは諦めません! ほらこんな話は終わりにして、全力で楽しみますよ天ヶ瀬先輩!」
速水は気持ちを切り替え、笑顔でそう言った。
俺が今まで見てきた奴らが子供だったのか、速水のように自分の想い人の幸せを素直に祝福する奴なんかいなかった。
そのことも相まって、好きな相手の幸せを願える後輩を素直にすごいなと思った。
それから俺達はジェットコースターに乗って、スリルと迫力のあるスピードや回転を楽しんだ後、和奏達と合流した。
「次はどこに行きますか?」
一之瀬の言葉に全員がパンフレットを見ながら、何処に行くか悩み始める。
すると、幸太が近くに自分の好きなアトラクションがあることに気づいた。
「ここに行こう!」
「げっ……」
パンフレットを広げて、幸太が指を指したところを見た速水が嫌そうな声を出した。
幸太が指を指したところはお化け屋敷だった。
この中で嫌な顔をしているのは速水だけで、他の奴らはそれぞれ平気そうな顔をしている。
「六花ちゃん大丈夫?」
「へっ……平気ですよ! 一馬先輩は何言ってるんですか~……もう」
言葉では平気そうな風に言っているが、表情があからさまに痩せ我慢をしているのが丸わかりだった。
片桐は速水を心配そうに見ていたが、速水以外は抵抗がなかったので、そのままお化け屋敷に向かうことになった。
俺が集団の後方を歩いていると、隣に和奏が歩いていた。
「片桐と喧嘩にならなかったか?」
「その言い方はなんでしょうか? 人をじゃじゃ馬みたいに言わないでください」
「そんなつもりはなかったんだがな……」
和奏は俺を睨みながら、学校での話し方で怒ってくる。
俺はそんな和奏の怒りを気にせず、片桐と二人だった時のことを聞いた。
「片桐とは何か話したか?」
「……雑談程度のことしか」
「……なんとなくわかったわ」
和奏は少し言いづらそうに、でも何処か達成感のある表情でそう言った。
俺はその表情だけで、片桐とどんなことを話したのか想像ができた。
恐らく俺が予想してたことで、合っていそうな気がした。
和奏は俺を見て少し不思議そうにしているが、そんなことは気にせず呟いた。
「堅苦しい奴と言うか、変に真面目というか」
「何がですか?」
「あー……ただの独り言だ。気にしないでくれ」
俺が誤魔化すと、和奏が少し怪しそうに俺を見ていた。
そんな和奏の視線は気にならず、別のことを考えていた。
恐らく速水の心配は杞憂に終わるだろうなと。




