第六十四話 相合傘とご褒美
その日の放課後、昼の時よりも雨は強くなっていた。
そんな土砂降りの中、少し寄り道をしてから帰り道を歩いていた。
帰り道にあるビジネスビルの入り口前を通り掛かると、和奏が雨宿りをしていた。
和奏は雨宿りをしている割に、何故かあまり濡れていなかった。
「傘はどうしたんだ?」
「ここで雨宿りしていた小学生に渡しちゃった」
和奏は少し困ったように笑った。
人のことをお人好しと言う割に、こいつも大概だなと思う。
どうせ折り畳み傘があるとか、あと少しで家に着くからとか言って渡したのだろう。
「……お人好しめ」
「なっ……困ってそうだったから仕方ないでしょ!」
「あーはいはい。仕方ないな」
「何その反応! 修司だって私と同じ状況なら渡してたくせに!」
和奏は俺の反応に納得いかず、文句を言ってきた。
確かに和奏と同じ状況なら俺も渡してしまって、渡した後はそのまま走って帰っていただろう。
俺はそんなことを思いながら、文句を言って騒いでいる和奏に言う。
「じゃあ、今も同じ状況になるな」
「え?」
「違うとすれば、帰るところが同じ場所ということくらいか」
「……まぁそうね」
俺が急にそんなことを言うので、和奏は不思議そうにしていた。
そんな和奏の様子を見て、俺は傘のスペースを半分開けて提案する。
「ほら、入るか?」
「えっ? それって……」
「なんだよ。俺の行動を予想できたんだから、これだって予想できただろ?」
「いやでも……」
和奏は周りの目が気になるのか迷っていた。
しばらく何も言わずに和奏を待っていると、申し訳なさそうにしながら俺の傘に入ってきた。
「それじゃ……その……お邪魔します」
俺達はそのまま歩き始めようとしたが、このままだとせっかく寄り道して買ったものが濡れてしまうことに気付いた。
「すまん和奏。これだけ持っていてくれないか?」
「いいけど……なにこれ?」
和奏は自分の鞄を腕にかけて、両手で俺から渡されたもの箱を受け取った。
そのまま箱を眺めて、少し戸惑いながら聞いてきた。
「ケーキだ」
俺が歩幅を合わせて歩きながらそう言うと、和奏は少し驚いていた。
「ケーキ? なんかいいことでもあったの?」
「あー自分に買ったわけじゃない……というかそのまま和奏がもらってくれ」
「えっ、どうして!?」
「学年一位の褒美と、最近色々お世話になったから」
「……うーん」
俺が理由を言うと、和奏は唸りながら箱を見つめて歩いている。
普通に喜んでくれるかと思っていた俺の予想とは違って、もしかして甘いものが苦手だったかと不安になった。
しばらく歩くと、和奏は顔を上げて俺を見てきた。
「これって一つしかないの?」
「いや、何が好きかわからなかったから、無難なものを三種類ほど買った」
「それなら……夕飯の後に一緒に食べない?」
「いや、それはお前のために……」
「何? 私にくれたなら好きにしていいでしょ?」
和奏はジト目で俺の方を見ながら聞いてくる。
正直全部食べてほしい気持ちがあるが、和奏は絶対に引いてくれないだろうなと悟ってしまった。
俺は全部食べてもらうのを諦めて、和奏の提案に乗ることにする。
「……わかったよ」
「それでよろしい」
「夕飯の後は何時くらいにするんだ? 飯を作る時間が欲しいから、俺は少し遅いと助かるんだが」
「あ! それなら夕飯も一緒に食べる? 家に寝かせてる肉じゃががあるから」
「それは……食べたい」
夕飯の誘いがあることを予想していたので、すぐに断ろうと思っていた。
しかし、誘いの後に言われた献立が自分の好物だったため、つい本音が漏れてしまった。
和奏は本音が漏れて恥ずかしそうにしている俺を見ながら、クスクスと笑い始めた。
「……なんだよ」
「修司が子供みたいで可愛いなって」
「……うっせ」
和奏はそのまま楽しそうに笑っていたが、ふと何かに気付いてじっと俺を見ていた。
俺は先程の恥ずかしさでそれどころではなく、俺達は無言のまま歩いていた。
すると、和奏がいきなり俺との間隔を詰めてきた。
和奏の行動に驚いて、俺は少し大きめの声が出てしまう。
「おっおい!? 急になんだ!?」
「……だって修司、肩が濡れてる」
「え? あっ」
どうやら和奏が濡れないように、傘を和奏寄りにしていたのがばれてしまったようだ。
俺とくっついている状態になって、今度は和奏が恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「……そんな恥ずかしいならやらなきゃいいのに」
「っ……仕方ないでしょ! 傘の持ち主が濡れてたら、申し訳ないもの!」
「……気にしなくていいぞ?」
「気にする!」
そんなやり取りを繰り返した結果、俺達はある答えにたどり着いた。
「あれだな……早く帰ろう」
「そうするのが一番かも」
お互いに恥ずかしさを我慢しながら、早足で家に帰宅した。




